私は音大をピアノで受けようと思い、大学のお偉いさんにピアノを聴いてもらいに行ったところピアノの実力が不合格でした。
それで音楽教育科を受けなさい→声楽を受けなさいと格下げ?となり、結果的に声楽の道に進んだわけです。
つまり声楽家としてのモチヴェーションは高くなかったし、そもそもこの道に入った動機はピアノを弾くことにあったわけです。

しかし物事の巡り合わせというものはわからないものです。
その後良い先生方との出会いを経ることで、声楽家としての人生を歩むことになりました。
そのことに今は何の後悔もないし、むしろ良かったと思います。

でなければ、今のような仕事は出来なかったし、恐らく身体も壊していたかもしれません。
もしかしたら精神も‥(笑)

ともあれ、プライベートの時間にはピアノ音楽を聴くことが多いのは、やはりクラシックの世界を知った最初のきっかけがピアノの音楽だったからでしょう。

つい最近youtubeで知った、このヴァレンティ-ナ・リシッツァさんのピアノに瞠目しています。
このストリートピアノで、これほど全身全霊を込めてベートーヴェンを演奏する姿とその音楽に感動させられました。
この楽器としては最悪の環境と状態のもので、これほどの表現力と集中力を持てることが素晴らしい。

個人的に、名器で抜群の調律を施されたピアノでなければ自分の演奏芸術は披露できない、というような分かったような分からないようなカリスマ性には何の興味もないのです。
言い方を変えれば、超お金持ちでなければ実現できない芸術よりも、チープで最低の環境でも発揮できる芸術が好きなのです。

もう一つ白状すれば、実は彼女の演奏に接して初めてベートーヴェンのピアノ音楽の芸術性に開眼させられました。