アトリエムジカCコンサート 2011年10月8日 夜の部の講評 大倉山記念館

総評


この会場は夜になると、昼とは違った様相を見せてくれます。大きな窓が両側の壁面にあるので、マチネの時はとても明るい雰囲気になります。灯ともし頃になり、窓のカーテンを閉めて明かりを点ければ、古い会場特有の典雅な雰囲気が湧出し、なんとも風情のある良い雰囲気の会場に変身します。
夜の部の皆さんは、技術と経験の差はありますが、ベテランの方が多いムジカCコンサートになりました。今回、昼の部夜の部、含めていろいろ考えさせられることが多かったです。それは、生徒たちのこと、というよりも、自分の考えの変化かもしれません。
声楽の技術はベーシックなところから次第に枝分かれし、最終的には違った様相を見せるもの、いや見せるべきではないか、ということ。それぞれの人たちを見て聴いて、そんなことを思いました。それぞれの本来の持ち味があって、それに相応しい曲があると思います。
よくよく考えれば当り前のことですね。自分のレパートリーは何か?自身で模索してみることも大切ではないでしょうか?と同時に、やはり歌は言葉だ、と確信しました。たとえば、歌う言葉(歌詞)に自信がなければ歌声そのものに大きな影響が出ます。発声と言葉は密接な関係を持つと思います。言葉の大切さ、を改めて感じました。
ともあれ、皆さん良く歌ってくださいました。おめでとうございました。

出演者順イニシャル

IS ON OM FT SM SA AC MT YC

IS


今回初出演のISさん、レッスンの結果と彼女の経験など勘案して本番の心配は全くなかったですが、果たして安心して聴くことが出来たデビューとなりました。 声は明るく前に通る響きを持っていて、ナイーブな歌心がある、と改めてステージに接して思いました。
イタリア語で歌う、いわゆるレガートな歌唱を勉強してもらいたくて今回の選曲になりましたが、次回は日本語の歌を聴いてみたいな、という気にもさせられました。今回のステージに不満があったのではありません。
というのも、本質的に歌心のある歌を歌える能力を持った人なので、そうなると母国語の歌を聴きたくなるのでしょう。
型通りの練習方法だけではなく、本来その人が持っている良さをどう活かすのか?など考えさせられました。
今後の展開に期待しています。 おめでとうございました。 プログラム ベッリーニ 歌曲
「マリンコニーア」 ドナウディ 歌曲 「かぎりなき麗しき絵姿」 ベッリーニ 歌劇
「夢遊病の女」より アミーナのアリア 「ああ、信じられない」

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ON
聴いていると自分でも歌えそうに思いますが、歌うと手強い2曲です。
そのように聴けるのは、無理のない歌い方である証拠でしょう。
声の調子も万全ではなかったらしいですが、本番ではほとんど感じませんでした。
リハーサルでは、やや息漏れを感じさせる声の響きでしたが、本番の頃にはほぼ戻っていたと感じました。
何回も聴いたこのアリア、やはり高音がどんな風に出るかな?という醍醐味に尽きます。
今後は、なるべく上あご(軟口蓋)を使って発音された母音を歌う意識、で対処すると、良い意味で高音発声も違った展開になると思います。
そのことで、喉ももう少し開く傾向になり、結果的に共鳴のある響きになれば、もっと声量のある声になると思います。
おめでとうございました。

プログラム
プッチーニ 歌劇 「トスカ」より
カヴァラドッシのアリア 「たえなる調和」 「星は光りぬ」

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OM

緊張しやすいタイプなのかな、と今まで思っていましたが、今回はかなり落ち着いて歌えていたことが、成長の証と思いました。
実際にドビュッシーの「出現」は、落ち着いて歌い始められました。ただ、中低音の声の響きは、レッスン時に比べると後一歩の感がありました。
レッスンでは時として、驚くほど良くなっていたのですが、結果が披露出来なかったのは、かえすがえすも惜しかったです。本番は上がりますから、その上がる分を差し引いても、強固なテクニックを持たなければなりません。
そしてそのテクニックを、いつでもどんな時でも使える安定したレベルにまで引き上げることです。
中低音でそれが出来れば高音発声にも応用が必ず効きますので。このことを、次回の目標にしてください。
おめでとうございました。

プログラム
ドビュッシー 歌曲 「出現」(マラルメ)
別宮貞雄 歌曲 「さくら横ちょう」

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FT

当日は風邪が治らず、熱気味の身体を押して出てくれました。
リハーサルでは、申告通り喉が温まらず、太く出てしまう声をなんとかしのいで、出す状況でした。しかし、本番ではそれが嘘のように晴れて、恐らくレッスンでもなかなかないような良い声で歌ってくれました。
これですから、声楽は止められない、と本人が思ったか判りませんが、一所懸命指導した私は心底そう思いました。
しかし、これも日頃から発声をうるさくやっているせいだ、と私としては思っています。
煩い指導者ですが、これからも発声を大切にして声楽ライフを楽しんで下さい。
おめでとうございました。

プログラム
トスティ 歌曲
「もう一度」
「夢」
「秘密」

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SM

彼女も風邪にかかり、気管支炎まで行きましたが本番は事なきを得ました。
それどころか、普段の課題までかなりなパーセンテージでクリア出来て、正に怪我の功名でした。
リハーサルと本番もほぼ変わらない出来で、練習の成果がきっちり出せていたと感じました。
今回の曲は、本当に良く練習しました。
惜しかったのは、7曲あるうちのゆったりした1曲目と3曲目が、テンポがせかせかと速くなってしまったこと。
本番は上がるので、ある程度は仕方ないですが、技術的にはブレスと声の関係が影響している、と思います。
その点で、今後も発声の向上と歌唱力向上を目指して下さい。
おめでとうございました。

プログラム
プーランク 歌曲集 「あたりくじ」より
1. 眠り              6,小さな水差し
2. 何という出来事!      7, 四月の月
3. ハートの女王
4. バ、べ、ビ、ボ、ビュ
5. 音楽家の天使

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SA
ラヴェルの伴奏と編曲の入ったこの作品、大変面白く聴くことが出来ました。
おおよそ、レッスンでやった通りのテンポ感や、音楽の構成が顕れた演奏だと感じられました。
声に関しては、今回、レッスンではかなりなところまで声を作ることが出来ましたが、本番ではレッスン時で出来たことが、定着出来るまでには至りませんでした。
それは、ホールという広い空間で強迫観念のように感じる、声を出さねば、という無意識と緊張の為せる技でしょう。
発声のテクニックと言うより、精神的なこと、イメージの持ち方が大きいです。
次回の発表会の目標は、その辺りにターゲットを絞ってみてください。
おめでとうございました。

プログラム
ラヴェル 「5つのギリシャ民謡」より
1.花嫁のめざめ
2.向こうの教会へ
3.私と比べられる男は誰?、
4.乳香を集める女たちの歌
5.何と楽しい

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AC

リハーサルでは、声の出始めで少し調子を心配しましたが、その後を上手く対処出来ていました。本番は、声量と明るい声質で、フォーレとアーンの歌曲を無難に聞かせてくれた、と思います。
レッスンでは、喉で押さずに、喉を開けて、軟口蓋で歌うようにすること、結果的に喉を締めない発声になることが、今回の目標でしたが、この点ではまだ未完成なところが多くみられました。
ただ、本番は、消極的になるよりも、まずトライすることが大切です。
より良い発声を得ることでもっとスケールの大きな歌手になる可能性を持っていますので、今後のさらなる成長を期待しています。
おめでとうございました。

プログラム
フォーレ 歌曲
「リディア」
「夢のあとに」
アーン 歌曲
「五月」

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MT

今回は、今までになく素晴らしい演奏でした。
ドイツ語の発音の美しさ、高い集中力が感じられる、ぴん、と張り詰めた怜悧な歌唱表現。
いずれも良く練られ工夫された跡が、良く伝わる好演でした。
声は、以前よりも中低音が良く響く声になったのが印象的でした。
課題として、中高音~高音の声において、更に喉の開いた声(共鳴を意識した声)を探してみてください。
今は、綺麗に鳴る声に留まっていますが、そこに共鳴が加わるともっと響く声になるでしょう。
それは1点C~Fの間の声域です。それが出来ると更に高音の声が違った展開になるでしょう。
特に母音は開母音は狭目に、狭母音は逆に広めに意識すると、響きのポイントが見つかるでしょう。
おめでとうございました。

プログラム
シューベルト 歌曲集 「冬の旅」より
1.おやすみ
2.休息
3.春の夢

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YC

今回初めてトライしたのが、ロッシーニの「約束」
テンポを少しゆっくり目でやったのは、彼女の高音の声がゆったり目の方が活きるからでした。
今回はその点を改めてじっくり練習してもらいました。
ロッシーニは、PPにしたり、Fにしたりの変化、良く出せていましたし、PPの声はまだ完全ではないにしてもPPという表現に適った声になって来ました。その点が成長の部分です。
ムゼッタのワルツは、譜面に指示されているテンポの緩急、良く出ていましたが、もっと出来たな、と思いました。
この辺りは、アンサンブルの練習時間の問題なので、いたし方ありませんが、勉強し甲斐のある面白い曲だと思います。
ただ、歌詞発音が少し不明瞭になったことが惜しかったです。
高音発声は良く伸び、ビブラートも綺麗にかかりました。
良い点は大切にして、足りないことをもっと求めて行けば更に素晴らしい成果が得られます。
今後のさらなる成長を期待しています。おめでとうございました。

プログラム
ロッシーニ 歌曲 「約束」
プッチーニ  歌劇「ラ・ボエーム」より
ムゼッタのワルツ 「私が町を歩くと」

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