午後の部は、発表会が初めて~2回目の方と、経験の多い方との混合になりました。
印象に強かったのが、前半の出演2回以内の皆さん。いずれも、急速な成長が見られたり、予想もしない演奏力を見せてくれて、指導者としては嬉しい限り。これは、細かいテクニックが飛躍的に進歩したというより(そういう面もありますが)ステージに臨んだ彼ら彼女らの精神状態が良かったのではないか、と思っています。目的が明快で、ポジティヴな気持ちと楽しさでステージに臨めたのでしょう。

それは、お客さんとの交流もあったからだ、と思います。どんなにテクニックが大事といっても、お客様に伝える気持ちや、聴いてくれている、という安心感や喜びを感じなければ、それらは虚しいものです。お客様を呼んで聴いてもらうことで、初めて歌の心は生まれるのです。

そしてその心が、それまでレッスン室で蓄積したテクニックを活かしてくれるのではないでしょうか?発表会はただの練習台ではなく、演奏することの真の意味が問われる場なのだ、と強く思いました。

EM

今回が初出演。リハーサルはほぼレッスンと同じように歌えていましたが、本番はかなり緊張気味でした。しかし無難に歌い通せて、歌曲集「詩人の恋」のロマンの世界の片りんをのぞかせてくれました。

伴奏とのアンサンブルは、とても良かったです。口の廻りにくい3曲目素早いテンポの曲がピアノと良いアンサンブルで出来ました。今回の成功があるとしたら、何よりこの作品に対する彼の思い入れのなせる技によると思います。テノールよりバリトンに・・・のことで、当初は細い声だったのが、かなり太く落ち着いた良い響きになってきています。元声を持っている方ですから、練習次第でこれからもっと良くなる可能性が楽しみです。

緊張はもとより習うより慣れろです。これから発表会をもっと経験して行く中で、冷静に歌うことを覚えて行けるでしょう。おめでとうございました。

NM

ご覧の通り、何より楽しく歌えたようで、素晴らしいステージだったと思います。

前回は非常に緊張して、声も本領を発揮できなかったので、実は一番心配していましたが、こちらの方が何かキツネにつままれたような気持ち、なくらい、良いステージになりました。

細かいことに拘泥せずに、自分の思った通りにやったこと、大切な一回限りの本番を悔いなく歌おうとした気持ちが、今回の成功を導いたのだと思います。終了後の本人の弁で、怖くて喉を下げられないとありましたが、そうではなく、喉が上がらないで歌えていたと感じました。そのため、ファルセットに近い発声でも、安定した支えが感じられる声になったのだと思います。私が聴いていて感じたことは、むしろ軟口蓋側をもっと上げて歌えているることが出来ていれば更に良かったのです。これからまた更に発声の技術をを向上させて下さい。

おめでとうございました。

AS

前回は、昨年の6月のアコスタジオだったですが、あまり上がった様子を見せずに、自身のペースを維持出来る意志の強い演奏でした。今回は、その落ち着いたステージマナーに加えて発声に進歩がみられました。
特に中高音が安定した歌声だったと思います。ドナウディは、この点において課題でした。
本番は中高音の声が少し上ずり気味だったかもしれません。リハーサルはほぼ完璧でした。
カルメンの「セギディッリャ」は、とても良かった。レッスン室で聴くよりもずっと臨場感のある歌になりました。
曼珠紗華は、もう少しテンポをゆったりめに調整をするべきだった、と指導者側の反省が残りました。実はレッスンで少し速めに換えたのでした。
これは本当はステージでのGPでやるべきだったのですが、時間が取れませんでした。またレッスンでのイメージ、シミュレーションも指導者として必要だったかな、と思います。
あとは、良い歌声なのですが、顔がやや下向きになることが惜しかったです。これから少しずつ意識されると、発声にも良い影響があるでしょう。おめでとうございました。

OY

今回は、いわゆるHiCが出る、テノール憧れの「冷たき手を」を歌ったのが圧巻でした。問題のHiCが彼ほど確実に出るのは、なかなか珍しいのではないでしょうか?また、ファルセットではなく、

確実にミックスした良い声のHiCだったです。それを本番で確実に出せるのですから、それだけで価値ある演奏になったといえます。「カタリ」も安定した歌唱でした。素晴らしいです。

強いて課題を言わせてもらえば、いわゆる喉の開いた声を、これから覚えて行かれてはどうでしょうか?喉の開いた、という意味は、喉だけではなく共鳴も含めた声の響きを得る、ということです。特にそれは、1点G~Aくらいまでの声、ということです。1点b~2点Cの最高音が天性の喉で上手く綺麗に出しますが、そこに至る声を更に磨きをかけてほしいです。そのことで、最高音がもっと映えるでしょう。いわゆる総合的な歌唱力のアップをこれから目指してください。おめでとうございました。

YT

彼の今回の演奏はブラーヴォ!でした。前回が緊張で上がってしまい実力の半分も出せず、今回はリヴェンジだったですが、見事にリヴェンジを果たしてくれたと思います。

このところのレッスンでは、バリトンの基本的な声質を追求して来ましたが、今回の本番はそれがほぼこちらの思惑通りに再現出来ました。まだ、不安定な面があるにはありますが、こちらの云ったことは、大体掴んでくれていると思います。欲を言えば、発音で更に下顎は降りると思います。そして、更に下顎で発音せず、響きでレガートに歌詞を歌えるようになって下さい。高音発声も、今回の曲で練習した目標には充分達していましたが、欲を言えば、更にメッザヴォーチェが使えるようになれば理想です。おめでとうございました。

AY

発表会の演奏は、回を重ねるに連れ声の表現に積極性が出てきていますが、今回も同様に良い集中力を感じさせてくれるものでした。

手を使って、自分の発声と身体を保つイメージを作り、集中力を養うやり方にも、それが顕れているでしょう。本番直前のレッスンでは、その手の使い方を柔軟に・・・と指示しましたが、その通りに少しずつ閉じたり、開いたりが出来ていました。歌声は、時折声の支えが変わるため、声質に変化がありましたが、おおむね安定した歌声だったと思います。高音も、以前ほど喉が上がらずに徐々に安定してきたと感じました。精魂を込めた演奏になったのだと感じられました。一所懸命、やれるだけ精魂込めるところから、今度は少しだけクールに歌えると、無駄な力みが削げて、声が更に安定した響きになると思います。そういうイメージも、これからは少しずつ本番でも、レッスンでも持って練習するようにしてください。そこから、声のことが見えてくるものがあるでしょう。おめでとうございました。

TF

ミルテの歌曲集のいくつかの抜粋を、1曲目から4曲目まで安心して聴き通すことが出来るものでした。ピアノ伴奏とのバランスの問題が、リハーサルでありましたが、指示した通りにピアノもやってくれて、

ピアノとのバランスが良い、品のある演奏になりました。発声の課題については、少しずつクリアされて来ていると感じましたが、まだ、2点F以上の声区の転換に課題は残っています。

発声の問題は、やはり歌う姿勢に関係していて、無意識でしょうが、顎が前に出る姿勢が残っています。しかし、これから更に乗り越えて行けると確信しました。中低音は、安定した音程の良い響きになりましたが、もっと声量が出せる(響きを前に出すこと)のではないか?と思いました。更に中低音の声の響きを出す方向を模索したいなと思いました。今後の発声指導について、考える良いきっかけになりました。

おめでとうございました。

KY

レッスンでは、良い歌を歌っていましたが、発声には若干の不安を抱えていました。声のチェンジの問題が未解決な点も残りました。また、そのことによる低音発声の迷いも残っていたようでした。

しかし、いつものことながら、本番のステージになると、そのような不安を感じないで、全曲聴きとおせてしまう不思議な歌声の魅力を感じさせてしまうのも彼女の歌声の特徴です。

それは、5線の中の音域における、良い音程と必要にして十分な声の響きです。そして発声に無理がないので歌詞も明快です。逆に言えば、歌詞を素直に丁寧に歌っているから、発声にも余計な無理がないのです。それが特徴だと思います。これがしっかりしているから、安心して聴くことが出来る歌を歌ってくれるのだと思います。ただ、オペラアリアなど歌う場合には、もう少し高い音域や声量も必要なので、その点を課題にして今後も精進を続けてください。おめでとうございました。

NS

3曲とも、ほぼレッスンの最良の状態を再現する良い出来だったと思いました。特に3曲目、アリアの冒頭は、アリアらしいドラマ感が良く現れた見事な導入部だったと思います。

1曲目は、改めて思ったのは、もう少しテンポを重くして、楽しさ感だけでなく酔っ払い感が出ても良かったな、ということ。

2曲目は最後のレッスンでも思ったことですが、声を出す方向とは逆の抑制することで出せる表現を考えても良かった、と思いました。3曲目のアリア最後の高音は声のチェンジが強い声になりました。

彼女なら2点bまでは確実にリリックな声を出せる、と思っていますが、これは今後の課題として残しておきましょう。おめでとうございました。

TC

今回、フランス歌曲のレッスンを受けに遠くから来られましたが、イタリアの美しい声の響きを手中にされており、そのことがフランス歌曲にも充分応用の効くものであることを、こちらが教わった気がします。特に、声の響きをレガートに歌うと言うことの意味が良く分かる歌唱力を持っていると思います。レガートというのは、単に歌詞発音が滑らかなのではなく、声の響きをあたかも弦楽器を奏でるように扱うやり方のことです。ポルタメント、テンポの扱い、歌詞発音のやり方、など総合的なものでしょう。これらのことは一朝一夕で手中に出来るものではありません。長年の努力のたまものだと思います。ただ、今後、フランス歌曲に挑戦される場合は、声の響かせ方の中に、イタリア的な美意識からすると、響きの薄さという一見ネガティヴに捉えられてしまう要素をも加味した声を使えるようになることで、フランス語発音の明快さと表現の幅につながる歌唱になると思っています。

おめでとうございました。