今回は夜のプログラムだけで総勢19名出演、という発表会となりました。私もリハーサルから通して見ていたため、終了後はくたくたになりました。
しかし、爽やかな疲れでした。 それは、各々が、まったく自由にそれぞれの精いっぱいを見せてくれたからだと思います。
様々なレベルの人たちが一晩を構成することで、実にアマチュアらしい楽しく興味深い一晩のコンサートを成立した、という印象でした。
ご挨拶でも話しましたが、私は料理が好きで良く作り食べます。アマチュアの料理はいわば家庭料理ですが、家庭料理だからと言ってまずいわけではないです。むしろ外で食べるよりおいしいことも多々あるわけです。
とはいえ・・・このような興味深く面白いと思えるようなアマチュアコンサートを行うのは難しいことです。
アマチュアだから下手で結構、どうなっても問題ないわけ、ではもちろんないです。
アマチュアの料理だからと言って、適当に作っておいしいわけではないでしょう。
私がする仕事は、アマチュア音楽家として最低限のことをみなさんに身につけてもらうための手助けのようなことでしょう。
その点において、成功した、という密かな喜びを持つことが出来た一晩のコンサート結果でした。
さて、前置きが長くなりました。 前半の出演者はこちらに来てから半年~2年以内くらいの方が多かったですが、特に2年ほど経た方々の成長が非常に大きかったです。
急激に伸びて来ました。我ながら根気よく教えれば、伸びるものと感心しました。
伸びた理由は、いずれも普段から不断の練習を積み重ねたことにある、と思われます。
私も指導者のはしくれですから、練習しているかしていないか?こちらの言うことを忠実に守ってやっているかいないか?は良く判ります。
そして後半は、ほとんどの方が5年以上続けられた方でした。 こちらは、みなさんの個性が確立してきたと感じました。
正に、それぞれのモチヴェーションの持ち方が、その結果を大きく変えたと思います。
そして、今回は大きな課題を持っていると感じた人たちが、大きく成長してくれました。
上がり症の人の発声の安定、声嗄れが起きやすい人の改善、ピッチの改善、高音発声の改善、いずれも、それぞれの人の課題が前向きに改善されていました。
後退した人は一人もいませんでした。 以下、簡単に各人の印象を書きますが、記憶とビデオによる印象なので、正確さを期したものではないこと、あらかじめご承知置きください。
そして各人の箇所にやじるしのボタンがあります。そこからyoutubeの動画に飛べますので、それぞれの本番演奏の様子を見て下さい。
出演者(イニシャルによるリンク)

前半  SE TA  EM NM AS ADY OM  FT
後半 IS HA AY MM GH TK SM MT YC

各人の講評横に表示されている⇒ボタンをクリックすると、動画が見られます。

SE

本番は、レッスンではほとんど見せなかった力感のある歌を聴かせてくれました。あたかも羊の皮を被った狼がその皮を脱ぎ棄てたような本番のテンションの高さが、男らしさの好印象を残したステージでした。ただ、それは良い点も悪い点も含めてです。やや舌根に力を込めてしまった発声になってしまったと思います。声量、声の強さの方向は良いと思いますが、首をしっかりさせた舌根で力まないフォームをこれから身につけて欲しいと思います。
曲目:カルダーラ「たとえつれなくても」 ベッリーニ「優雅な月よ」
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TA   

今回歌ってくれた「マノン」のアリアは、他のステージでも本番を聴いていますが、今回は更に良い声を聴かせてくれたと思います。それは中音~高音に至る声域で顕著でした。
ただ、まだ時折顔をのぞかせる中音域のふっと抜けた声は、発声上の今後の課題として下さい。
全体的な曲の構成感は、ベッリーニはカンツォーネらしさが出ていましたし、アリアはマスネーらしい演劇的で艶やかな音楽が楽しめました。リズム感も良かったです。今後は、更に高音発声とフランス語の発音に精進されてください。
曲目:ベッリーニ 歌曲「お行き、幸せなバラよ」 マスネ オペラ「マノン」より マノンのアリア 「みんなの声が愛の言葉をささやくとき」
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EM

前回より緊張ゆえの上がりが感じられず、ほとんどレッスン時と同じように歌えたのが、大きな進歩でした。そのうえ、声も熟成して来ました。響きが密であり音程も良いです。太味と艶のある声が出てきています。これは美点でおおらかなバリトンとして良い傾向にあると思います。これからも好きなドイツリートをたくさん譜読みして歌って下さい。
曲目:シューベルト 「竪琴弾きの歌」 ~ゲーテ『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』)より
~「涙と共にパンを食べたことのない者は」「戸口に忍び寄って」シューマン ~歌曲集「ミルテの花」より~「君は花のよう」
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NM

いつも本番を楽しんで歌っていた印象が強かったのです、今回は少し緊張が勝っていたように思いました。そのことで喉が少し締まった傾向になったと感じられました。バランス的にピアノの音が少し強かったせいかもしれません。
ドビュッシーは、曲の内容が良く表現された明快な印象が残りました。自由に楽しんで歌っている様子が感じられました。2曲目は、アーンの「リラの木に来るロシニョル」は低音域で緊張が増した印象でした。アーンの「四月の歌」は、華やかで楽しげな雰囲気が良く出ていて、聴いているこちらもウキウキ出来ました。
曲目:ドビュッシー「ロンド」 アーン「リラの木に来たナイチンゲール」 アーン「春」
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AS

リハーサルも本番も変わらず良い出来でした。毎回思いますが、本番で力を発揮出来るタイプですね。強いと思います。トスティは、歌声の勢い、そしてドビュッシーは柔らかさという具合に、硬軟取り混ぜた声の表現が出来ていたのには感心しました。フランスものへの挑戦は正解でした。今後は発音に磨きをかけて下さい。
曲目:トスティ 「別れの歌」ドビュッシー「うすら明かりに」
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ADY

直前のレッスンでも、彼女の課題改善に務めましたが、リハーサルでは伴奏とのアンサンブルの関係がぎくしゃくして声が後退していました。しかし本番はそれを跳ね返してくれて、彼女の精いっぱいの歌声を聴くことが出来ました。
音楽の扱いは端正であり、それが今回の選曲を良い物にしてくれたと思います。今後は、現在の発声の課題を更に改善すべく、徹底してください。
曲目:ヴィヴァルディ 「グローリアニ長調RV589」よりアリア「主なる神よ、天の王よ」バッハ「カンタータBWV208」より パレスのアリア「羊は安らかに草をはむ」

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OM

彼女も、この2年ほど頑張って来ましたが、ようやくその努力が実ってきたなという印象が残ったステージとなりました。リハーサルの時点から、この長い曲を歌い進むに連れて声の調子を上げていました。
その声の調子の上げ具合に成長の跡を強く感じました。本番では、歌う姿が楽しそうにも感じました。かなり良くなりましたが、中低音の発声はもっと響きを高く明るく出来ると思います。今後の課題とされて下さい。
高音の声は、もっともっと歌い込んで行けば、更に伸びて行くだろうと確信しました。
曲目: ワルツ「春の声」ヨハン・シュトラウス2世
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FT

リハーサルでは、緊張が強く感じられ、発声の声は少し落ち気味で心配しました。しかし、本番ではそれを撥ね退けて、彼の中のベストポイントにまで声は高まったと感じました。ハミングの練習を本番前に勧めましたが、効果があったのでしょうか?トスティのせつなさと、石川啄木のやるせなさ、日伊の男の純情が良く出せた好演だったと思います。
曲目:トスティ「私に静けさを」越谷達之助 「初恋」   TOP

 

IS

元来、明るく前に出る声を持っていますが、中音域のピッチの調整をレッスンで続けていました。直前のレッスンあたりから、レッスンの成果が出始めていました。本番は声の調子を少し気にしていたようにも思いますが、まったく問題ありませんでした。それと、お客さんに向けた心がけていた気配りがとても良いステージを実現したと思います。
曲目:モーツァルト「ドン・ジョバンニ」ツェルリーナのアリア「ぶってよ私のマゼット」 アルディーティ「くちづけ」  TOP

 

 

 

 

 

HA


バランスの良い歌唱能力と柔軟なパフォーマンス能力で、アマチュア離れしたステージを楽しませてくれますが、今回は高音域の声に少し変化を感じました。軽やかで楽に響いています。今後は中低音の声をもっと高く集めた声が実現出来れば、結果的にブレスも伸び音楽の表現幅がぐっと広がるだろう、と思いました。
曲目:バッハ「あなたがそばにいたら」 メンデルスゾーン「主の御前に心を静め」 プッチーニ「ラ・ボエーム」ムゼッタのアリア「私が街を歩くと」   TOP

 

 

 

 

AY

上がり症だった彼女も、ずいぶん安定して歌えるようになりました。本人はもちろん一所懸命だと思います。その一所懸命が、音楽的に好感を以て受け入れられるレベルになった、と感じました。発声の課題は、ディテールよりもブレスや焼発声している時の身体の使い方の基本として、リラックスした状態をいつもイメージするように心がけて下さい。それから、今後もマイペースで好きな歌を選んで歌い続けて行くことが、何よりの上達の道と思います。
曲目:ローザ 「そばにいることは」ヘンデル「メサイア」のアリア「私は知っている、私を贖(あがな)ってくださる方が生きておられることを」
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MM

彼女も上がり症でしたが、かなり乗り越えたのかな、という印象です。それは発声のいくつかのコツを手に入れたからだと思いますし。本番の経験によるものも大きいでしょう。歌っている姿を見ても、それが感じられました。教える方としては、声質に悩みましたが、完全にソプラノの声質を手に入れたと思います。高音の入り口で喉を開き過ぎる傾向が残っていますが、もう間もなく克服出来るでしょう。これからもたくさんの歌を歌い込んで行ってください。
曲目:ベッリーニ オペラ「夢遊病の女」より アミーナのアリア「ああ花よ、こんなにも早く枯れてしまうとは」 ポンキエッリ
オペラ「ジョコンダ」より ジョコンダのアリア「自殺!」
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GH

1曲目の始まりは、少し緊張が強く、上がっているようでしたが、歌うに連れて、調子を上げて行きました。特に3曲目は、前半のせつなさと後半の力強さの対比が際立って素晴らしい表現になりました。若々しい声は、まだまだ成長を感じさせてくれる要素がありますので、これからも発声の進化に励んでください。必ずその成果を手に入れることが出来ると思っています。そして表現のために日本歌曲にも挑戦されて下さい。
曲目:シューベルト 「冬の旅」から「郵便馬車」「白髪の頭」「からす」

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TK

リハーサルでは、1曲目で緊張が強かったのが、2曲目から目を見張る好演を見せてくれ、そのまま本番に持続してくれたと思います。すばらしい好演でした。彼女に対しては、声を教える難しさを感じてもいましたが、教えることで、私自身も声を教えることの意味を深く考えることが出来るようになりました。その意味も含めての素晴らしい成果ということです。モーツアルトの音楽の美、素晴らしさが充分発揮された演奏だったと思います。
曲目:モーツアルト オペラ「ドン・ジョヴァンニ」よりエルヴィーラのアリア「あの恩知らずは約束を破って」 ドンナ・アンナのアリア「おっしゃらないで、愛しい人よ」
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SM

今回は、本当に良く勉強してくれました。その勉強したことを乗り越えたところに立った演奏結果が出ていたと思います。発声の細かいことは、もうかなり判って来ていると思いますので、今後は、特に本番の時は、お客様を前に演奏することの意味を良く考えることで、発声的にも違った展開が開けると思います。たとえば自分がお客として聴いたらどうだろう?というような客観的な視点を強く意識してみることで、更に良い方向がみつかるのではないでしょうか。

曲目:デュパルク「悲しき歌」シャルパンティエ「ルイーズ」ルイーズのアリア「その日から」
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MT

「すみれ」は、1曲目と言うこともあり、緊張を感じさせる出だしでしたが、彼の優しさが良く出た好演でした。そしてタミーノのアリアは、このドラマのタミーノの持つ清廉さと力強さが十二分に出た歌になったと思います。表現力が声とがリンクして来ましたね。素晴らしいです。今後は、好き嫌いに関わらず更に幅広い選曲を意識して勉強を続けてください。そのことで必ず声の表現幅が広がると思います。
曲目:モーツァルト:歌曲「すみれ」、歌劇「魔笛」よりタミーノのアリア「なんという美しい絵姿」
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YC

去年の10月以来の発表会ということで、彼女の場合は時間が充分に取れませんでしたが、譜読み経験のある曲を煮詰めることで素晴らしい演奏に繋げられました。教える方としても、彼女の声の能力をどれだけ発揮できるか?ということに主眼を置いて教えたので、今回の好結果がとても嬉しかったです。彼女の声にはやや重い選曲と思いましたが、高音の伸びとブレスの長いフレーズが楽しめたわけですから、期待に応えてくれた彼女の能力の高さを再認識しました。今後の課題は中低音の声の響きをもう少し高く集められるようになれば理想ですね。
曲目:プッチーニ オペラ 「ラ・ボエーム」ミミのアリア「私の名はミミ」 オペラ「ジャンニ・スキッキ」「お父さまにお願い」
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