アトリエムジカC2007年6月30日の講評

今日の発表会は、2月に行ったルーテル市ヶ谷の大発表会と違って、アット・ホームなものになった。
会場のアコ・スタジオのコンパクトな木作りの小屋、ベーゼンの柔らかいシックなピアノの音色もそのことと関係あるだろう。

声楽的に理想的な小屋、というほどではないが、声は無理をしないで歌える小屋である。
歌曲向け、だと思う。
朗々と歌う曲より、語りかけるインティームな歌が合う雰囲気。

今回の発表会は、通して聴いてみて、どの人も実に個性的でその人らしさが光っていたので、聞きとおしていても飽きの来ない良いステージになったと思う。

どちらか、というと、それは技術的な意味ではなくて、技術の前に出てしまう、その人の素のものが、素朴に出ていたということ。
そして、それが概ね良い面になって顕れていたといえる。


TM

彼女は弾き語りやパフォーマンスなどの活動をしているらしいが、その経験を活かすことが出来たステージになったと思う。
衒(てらい)というものが無く、子供のように純で無垢な精神がキラキラ輝いていた。
私が選曲したプーランクの歌曲は、どれも彼女自身が無垢に受け取ってくれたのが好感が持てた。

裸足でペタペタとステージに出たわけだが、その姿にまったく違和感を感じなかった。
まったく意図的ではなく、自然なのである。

赤いバラを持って白い衣装と対比させたり、具体性のない振り付けも、彼女自身が迷いも無く納得してやっているから、取ってつけたように感じられないのが大きなメリットと思えた。

歌そのものは、声のちょっとした使い方をこれから覚えていければ、もっと楽にスムーズに歌える面が出てくると思う。
そのことで、彼女の持ち味にプラスになるように、少しずつ焦らないでやって行ければと思う。

とにかく、私が今の彼女に期待したこと、あるいはイメージがそのまま実現出来、大成功であったと思う。


MC

お気に入りの、自前の衣装と共に比較的に安定した歌唱で、アトリエ・ムジカCのデビューとしては見事な本番であった。
レッスンに来だしたのも最近だが、最初から総合的なセンスのある人という印象だった。
英語も発音が良いし、良く分かって歌っているので、歌に不自然さが無い。

また、声の技術も洗練とまではい行かなくても、とても安定して歌えている。
中高音域で、やや♭気味になる癖があったが、本番はほとんど気にならなかった。

強いて言えば、少し緊張していただろうか?
厳しい見方をすれば、全体に、一本調子で通ってしまった感は否めない。
それでも、ブレスの長い、最後のEvening hymneを、落ち着いて、ブレスの破綻無しに見事に歌いきったのは感心した。

これらのことも、場数と経験、馴れでいくらでもクリアできる程度のことなので、更にこれからのステージに期待が膨らむところである。


NY

今回は、リハーサルから感心していたのだけど、以前のように、がならないで、静かに息を良く使って歌おうとしたフォーレの歌曲。
その上、好きなメロディラインを、いとおしむように歌う表情が良く見えて、とても好感の持てる歌曲演奏であった。
声で無理に押さないから、逆に耳を傾ける気になる演奏になるのである。
彼の本来の持ち味のナイーブさが良く出せていた。

グノーのアリア「ロミオのカバティーナ」も中音域は、実に落ち着いて歌えていて、長足の進歩と言うべきだろう。
最高音は後一歩の伸びが欲しかったが、本番であそこまで到達出来るようになったのだから、良しとして欲しい。
エの母音は、締まり易いが、もう少し早めの準備と、脱力を考えて、練習しておけば良かった、と少し後悔が残った。
また、高音は母音の形にこだわらないで、出しやすい母音を使ってデフォルメすることも覚えると良いだろう。

だが、このところの彼の成長ぶりが本番でも感じられ、嬉しいステージ鑑賞となった。


OK

とにかく、暗譜も声も心配面はあったのだが、無事歌いとおしてくれて、こちらはほっとしたし、嬉しかった。

本番はどうしても力むのか、喉で押してしまう傾向が未だ残っていた。
リハーサルは、もっとリラックス出来ていて、声の響きを上顎に抜ける傾向があったのだが、本番はそれが少し落ちてしまった。

どうしたら、力まないか?それは身体の緊張とも関係があるだろう。

緊張するのは、発声の基礎が、未だ身に付いていない面があるからだろう。
もう一度、今まで教えたことを思い出してもらって、発声を大切に勉強し直して欲しい。
あるいは発声だけでなく、暗譜ということや、言葉の発音そのものの勉強の方法もある。
歌うことだけではなく、歌うことに関係のある諸作業は全て、平等に本番に響いてくる。

基礎的なところが判れば、もっと力まないで、楽に歌えるようになるだろう。
楽に歌える、という基準だけでも判ると、それは大きな進歩である。


GH

やはりある人生経験を積んだ男性の歌は良いものである。という総合印象。
特にシューベルトは素晴らしいな~、しんみりと味わい深く聞かせてもらえた。

1曲目のPiacer d’amorは、歌い始めであり、少し緊張したか、声の不安定が目立ったが、歌い進むに連れて良くなった。
シューベルトは、まったく安心して聞けたし、シューベルトの歌曲の持つ、落ち着いた穏やかな精神性が良い雰囲気になって
会場を満たしていた。
落ち着いた雰囲気を出せていたと思う。

このところ、練習してきたバリトンの声の課題が、徐々に定着しつつあるので、この調子で続けて頂きたいものである。
それが定着すると、もっと楽に声が響くようになるだろう。


TM

直前のレッスンまで、声の耐性が心配だったが、今日は歌い進むほど調子が良くなったのではないだろうか?
全体に聴きとおしてみると、とても品の良い声が聞こえてきたり、少し締めた響きになったり、という違いが目立った。

彼女の声は良く通るものだが、ライブで聴くと少し締まった響きに感じられる。
だから、課題としては通る声ばかりではなく、柔らかさとか低音側の倍音というか響きをもう少しつけて欲しいと思う。
そのために、もう少し喉の開いた声を勉強して行って欲しい。
高音はそういう声から、少しずつ少しずつ上に伸ばして行くほうが、彼女には良いはずである。

だが、どの3曲とも(Ah non credeami rarti,Quando ti rivedro,Rosa)無難に、綺麗に歌えて、安心して聴けた。
ピアノも品のあるタッチによる響きで、確実で丁寧。
バランスの取れたステージであった。

良いステージだっただけに、声の課題は少しずつでもこれからクリアして欲しい、とつくづく思った。