昨日は出演者のみなさん、お疲れ様でした。心からの感謝とお祝いの言葉を送ります。
それぞれ、調子の良い悪い、色々あったのでしょうが、それはコンサート全体から見ると小さなことであって、コンサートとしては大成功になった、と自他共に認めています。今回自分が本番のプログラムを2つ抱えて、コンサート全体のことを考える余裕が無く、実は終わってから、皆さんが出してくれた演奏の結果に驚きだしている、という始末です。自分がきっかけを作って、ささやかではあっても、これだけの内容のコンサートが、出来たことが驚きであり、そして嬉しくて仕方がありません。
この数日風邪を引いてしまい肉体はボロボロなんですが、それを上回って今回の成功に喜び、自分の天職について、自分にとっての音楽というものの存在のありがたみを噛み締め、また将来への夢を持つことが出来ています。、皆さんの心からの歌への愛着の素晴らしさ、純粋さが私を鼓舞してくれました。心からのおめでとうと、感謝を込めて。

いそがいさん
日頃口が腐るほど注意していた発声が、本番で見事に結実した好演奏でした。声が明るく安定して真っ直ぐに良く出ました。そのため声にはシューマン歌曲にぴったりの気品さえ漂う美しさを垣間見ることが出来ました。短期間で少ないレッスンで良く勉強してくれました。
声は今回のことを踏まえて、後は更に自然にニュアンスを付ける意識が自然に芽生えそれが声に自然に反映されることを待ちたいところです。これは急ぎません。自然にです。
3曲どれも甲乙付けがたい出来です。
伴奏のふじいさんもシューマンの音楽がとても合っていました。いつもながら、作品に対して誠実で真摯な姿勢が見られるところを私は評価します。 2曲目だけ、中間部で和音がごつごつと重かったかな。柔らかいタッチの和音がこれからの課題でしょうか。今日の彼女が弾いたプログラム中、二人の合作が一番良い形で出たアンサンブルだ、と私は思いました。

はやしださん
セヴィリャは今回彼には難しいアリアだったけど、何より本人の楽しもう、楽しませよう、というエンタティンメントが発露された好感の持てる舞台でした。声も一番良く出ていました。それは驚くほどでした。
また、アヴェヴェルムコルプスも、対照的に真摯な歌になりました。難しかったロングフレーズも、こちらの教えたとおりのことが出来たので嬉しかったです。
ところで音楽はテンポがとても大切です。これからも、テンポを大事にしてください。譜読みの音程を取るのと、同じくらいテンポの解析をしてほしいところです。
ピアノのわかまつさんも彼の足りない所を補って、必要にして充分に、かつ出過ぎないでサポートする姿勢は伴奏ピアニストとしてピッタリですね。

 


みねむらさん こちらが与えたプーランクの難しいアリア、そして歌曲を見事に歌いきってくれました。プーランクの世界が良く判る演奏になったので、私としても、この2曲を与えて良かったと思えました。
彼女は上がらなかった、と言っていましたが、1曲目の最初は上がってましたね。あるいは声の出し初めで慣れなかったのかな。時間が経つにつれ良くなりました。アリアも歌曲も伴奏の助けも借りてプーランクの音楽が良く表出されていました。
マスネーが3曲目で、お好きな曲なのに、どうもちょっと不消化な印象がありました。肝心なところで、どうしても声が裏声になってしまうのですね。今のところミックスボイスが完成してないから、ここは我慢してほしいところでした。
ふじいさんのピアノ、良く響くピアノで、どれも良かったです。アリアもテンポが落ち着いたし、「変身」の2曲目も、良く歌えていました。マスネは絶品でしたね。

あめくさん
つい最近、ちょっと発声を変えたのと、長大なフランス語の歌を良く暗譜して歌えました。これだけでも良く頑張った、とエールを送りたいです。声のことは、多分苦しい所もあったでしょう。でも、あれを逃げちゃうといつまでも発声を覚えないと思います。苦しいなら、何が原因でどこをどうすれば、改善できるか?自分で考えることがないからです。でも、その点、私の言を守って良く歌い通してくれてこちらも嬉しかった。もう少しこの歌い方で頑張りましょう。また展開が出てきますよ。

 

私のデュエットに関しては書く意味を感じませんが、気持ちよく歌えました。声のニュアンスと横隔膜の持ち方とは実に一致するものだ、と今回の勉強で強く実感しました。モーツアルトのアンサンブルは、近い将来に生徒たちとやりたいものだな、とイメージ出来ました。 ピアノのさかいださんは、本当に過不足なく安心して歌わせてくれる出来栄え。こういう音楽もちょっと弾くとコツを掴んで上手く弾いてくれます。

 

 

たかはしさん 実は今回、私が長く教えた人の中で、一番心配していた人なんだけど、一番に近いくらい良い演奏をしてくれました。ノーブルな歌唱で、声も安定。ノーブルな声というのは、なかなかこれ手に入らないもので、凄いことなんです。彼女はやや上がり症というか、ナーバスと言うか、このところの発表会では、その点が懸案でしたが、今回それがやっと払拭されました。どの曲も安心して、聴けたし、彼女のノーブルな声の魅力を堪能できました。それはヘンデルやパーセルという選曲のせいもありますが、彼女の声の美点です。ホールの響きが彼女に合っていたのかもしれませんね。 ヘンデルはアンサンブルがもう少しだったかな。特に遅いテンポの部分で、やや歌に付き添うような感じが、本当はこの曲にある力強さとならなかった印象もあります。歌の投げかけに対する、ピアノの反応、見たいな面。パーセルの伴奏はどれも実に創意工夫が見られて感心しました。歌との息も好かったのではないかと思います。

マラルメそして器楽伴奏について 私自身に対する演奏評価は、やはり本当はもう少し練習したかった、あるいはすべきでした。本心を言えば、色々な現実的なことに妥協しました。これが、自分に対する最大の反省だし、最大の欠点評価ですね。優柔不断は大嫌いなのだけど、その代わりに妥協すること易し。素晴らしい芸術作品、これだけの作品を人前でやるのに、現実に妥協してどうする、と葛藤がありました。

最大の後悔は弦楽器群の練習に付き合わなかったことです。リハーサルでも実は不消化な部分を残したまま、本番に臨みました。特に大きく振るところの弦のユニゾンのアタック(食いつき)の問題や、テンポの変化、あるいはテンポ設定の意味(イメージ)を良く伝えていなかったですね。低音の音程の問題、などもありました。管楽器はとても優秀だったのだけど、その分彼らに任せてしまったこと。もっと譜面を細かく見て、頭に入れておくべきだった。

次回というか機会があったら、この曲をまた同じメンバーでぜひやりたいです。一回で終わらせるのは勿体無いです。 今回の演奏は本当に私の初体験でしたので、その点を自分に妥協して、結果的にあのくらいの演奏が本番で出来て良かった、と実は胸をなでおろしています。

まなべさん 彼はいつものことながら、実にソツのない演奏で、安心して聴けるものでした。彼自身が無理をしないタイプなので、選曲、演奏ともに、リスクの少ないものでした。演奏スタイル、テンポなどもこちらの教えたとおりのことが出来ていて、感心しました。 1曲目はちょっと線が細かったかな。 2曲目は綺麗に歌えました。3曲目、4曲目は素晴らしい。最後はもう一歩外れるくらいで丁度良かったかもしれないですね。 惜しむらくは、声に後もう一歩の迫力、というか腹からの発声が欲しかったかな。これは発声の基礎的なことが絡んでくるので、これから常に課題にしていきたい所。ただ、恐らく彼の中で発声の方法論に関して、強いこだわりや要求があれば、これは自然に解決して行くと思っています。 ピアノのふくまさん、これは素晴らしく良い演奏でした。レッスンで勉強したことすべて、ほぼ完璧に出来ました。ブラヴォー!でした。

 

にしむらさん まなべさんと同様に安定した歌唱で、全曲安心して聴け通せました。特にフォーレの歌曲は初体験としては、素晴らしい出来だと思いま  す。強いて言えば、もっともっと大らかに歌えるはずと思いました。それはアリアです。実は明るさがあるのだけど、意外と線が細くて、もう一歩こちらにそれが伝わらなかったのが惜しかった。 これは実はレッスンを通して感じた彼女の人柄を私が良く知っているからでしょう。とても極め細やかで暖かい。そういうものがもっとお客様に伝わるはずだ、いや伝わって欲しいと私は思うのです。 これはそういう形而上的な問題ではなくて、単に発声を見直すだけでずいぶん変わるのではないか?とも思いました。全体に声が良く集まっているけど、鼻腔の響きに拘って?かわかりませんが、ほとんどの母音が狭母音化して聞こえました。その辺が、何か良く言えばコンパクト、悪く言うと、ちょっと小さくまとまって聞こえたのかもしれません。しかし考えてみたらはじめてのフランス語歌唱の本番ですよね!かねこさんのピアノは大変なプライヴェートの状況下で良く練習された真剣さが良く伝わるものでした。実は心配していたのですが、安心して聴き通せました。

 

いわさきさん 今回、ムジカC初出場にして非常なる好演でした。特に声の繊細な扱いがフォーレの歌曲にぴったりで、素晴らしかった。この声は、彼女の声楽10年間の努力の賜物でしょう。こちらも勉強にさせてもらうくらいです。このホールに合った声質でした。「蝶と花」の洒脱な味わい、「月の光」の透明な孤独感、「我らの愛」の甘美な告白の素晴らしさ!彼女の歌声で、初めてフォーレの歌曲の美しさを知った気がしました。これからの活躍を期待しています。 ピアノのさかいださんも恐らく初めてくらいのフォーレ伴奏でしょうか?その特徴を上手く捉えて、良い伴奏でした。強いて言えば、いわさきさんの繊細で甘美な声に、後一歩寄り添えれば完璧でした。特に「月の光」でそう思いました。「蝶と花」「我らの愛」は素晴らしかったです。

 

 

のうじょうさん 実はリハーサルから声に何とはいえないが力が無かった。気力、充実感が何か希薄になっていたのかもしれません。声だけ見れば、確かに本番も万全、気力充分とはならなかった。しかし、そこにも立派に音楽はあったんですね。紛う方無きプーランクの音楽が。 特にアリアは涙が出るほど良かったです。これはもうプーランクの魂か舞台の神様が手助けしてくれたのでしょう。あの世界は、声の洗練なんかよりも、この役柄の女房の訴えやキャラクターが出ることが大切だし、プーランクの音楽はそういうことを表現しているし、恐らく声もそういうものを望んでいたと思います。「椿姫」の世界とは対極にあるわけです。 この点をのうじょうさん、良く分かってください。大きな飛躍への第一歩なのです。誤解を招かないように付け加えますが、それだけの勉強と努力を彼女はしている、積み重ねているから、こういう結果が出たのです。 歌曲は1曲目がちょっと心配だったけど、実はこの曲の内容は逆に良く伝わるものでした。不思議なものですね歌と言うのは。 2曲目はピアノのちょっとした間違いがどうも気になりました。 3曲目はなんだかんだ言っても、難しいと言っていたことが、かなり解決出来ていたのではないですか? なとりさんのピアノの良さは、非常に繊細なタッチと豪快なパッサージュの対比にあります。ところが、時としてちょっとした雑な瞬間が出ることもある。その悪い意味での対比というか、落差が惜しい。この原因が何なのか?分かりませんが、基本レベルが高い人だから、これからその点をぜひとも解決していく確かな方法論を見つけていって欲しいと思います。