2007年7月12日ムジカCコンサート講評

 

平日の早い時間に開演というプログラムでしたが、お客様も良く集まってくださり、良いコンサートになったと喜んでいます。
全体的なレベルも高く、しっとりした良い雰囲気になりました。
ピアニストさんも皆さん技術レベルが高く、声楽演奏の質感の高さに寄与してもらえたのだと思っています。
生徒、ピアニスト、そしてお客様、そして、コンサート当日の運営を手伝ってくださった皆さんに、心からお礼を申し上げます。


IM
今回は準備のレッスン回数も少なく、時間も無く、ちょっと苦しい本番だったと思うが、声もちゃんと出て概ね良く歌えた。
何より、楽しそうに歌えたし、武満の曲の良さが良く伝わって、明るいステージになったと思う。
色々な現実的な条件があることはこちらも承知の上で、本番に出るための練習量は、想像以上の質と量が必要であることを改めてご理解願いたい。
それは、確実な暗譜のためにもであるし、ステージ上での集中力醸成としてもである。
良い声だけではなく、年齢を重ねたものしか持ち得ない歌声の深みが出てきているから、ステージに出ることは、お客様にとっても有益なことなのである。
だからこそ、大切に大切にこれからも作品を表現し続けて欲しいと願っている。


SY
彼女は、数日前から気管支炎を起こして熱も出したりしていたのだが、それを乗り切って見事に集中して演奏してくれて、結果的に危なげない出来であった。
咳がかなり出るはずなのに良く集中したと思う。
喉の調子が悪いためか、ブレスが多くなったが、それは本番の現実的な対処であり、仕方が無いだろう。
むしろ、臨機応変にブレスを入れて、破綻のない歌を目指したテクニックに拍手を送りたい。
それを、無理して音楽を変えてしまうことのほうが余ほど問題なのだから。
後少しで「イブの唄」も全曲完成だ。全曲演奏の日を楽しみに待っている。

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AC
安定してきたな~という印象。危なげなく、必要にして最小限のことをきっちり守って、本番をこなしたところなど貫禄すら感じさせた。
このところの仕事の猛烈な忙しさもありながら、少ないレッスンと合わせで良くやってくれたと思う。
発声は、まだ発展途上にあるが、それでも安定したポイントをつかめているので、安心して聴いていられた。
ドビュッシー、フォーレ、ビゼーのカルメン、と表現幅の広いプログラム4曲を、軽やかにこなしてくれて、危なげなかった。
これからも、声を出す再に喉を締めないで開いた発声で良く響く声、を探して掴んで欲しいと思う。


MM
この数ヶ月でもっとも進展があった人だと思う。
声の響きが上に乗ってきて、歌曲は綺麗に安定して聞かせてもらえた。特に、アリアは実に楽しそうな表情で歌えていた。
もっと声が出る人だから、これからはもう少し声をしっかり前に出して行くこともトライして欲しい。
後は、この数ヶ月やってきたことを、更にこれからもっと展開して欲しい。
これで充分なのではなく、ようやく端緒に就いた、と思って、欲しい。
それは、発声における、特に感情的な表現に使う筋肉の開発、である。


TT
初めて来た頃から比べると、ずいぶんと安定して落ち着いて歌えるようになった。
歌っている顔も、リラックしているのが判り、サマになってきた。
高音も綺麗に安定して歌えるようになって、中堅実力者の貫禄充分!
シュトラウスは、暗譜がかなわなかったのが惜しいけど、まあこの難しい曲を、短期間で歌えただけでも大したものだ。
ベッリーニも彼女の声にはお似合いで、優雅な歌声でお客さんも楽しめたようで良かった。
中低音は、深さとか強さよりも、明るさと前に出る響きをもう少し探求して行くと、上の声とのバランスが更に良くなって
若いキャラクターのソプラノが確立するだろう。

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YS
本番は、「雨が降る」途中から痰がからんでしまったため、Eくらいから下の低音がまるで鳴らなくなった。初体験!
やはりソロをまともにやるには、条件は良くなかったのかな。
が、まあ良くしのいで歌えたと思う。
全体的な安定感、表現は出せたかな、と、自己評価。
何回歌ってもむじかし~歌だけど、改めてプーランクの名曲だと思った。その雰囲気は伝えられただろう。


SM
グノー2曲は、たゆたうようなグノーの歌曲が表現されて良かった。
以前から難しかった中低音の声が、きちんと響くようになったことも評価に値する。
ミカエラのアリアは、良く練習して歌えたと思うが、声を強拍だけ強調してしまう傾向が強くなって、結果的にフレーズ感が欠落してしまった点が惜しかった。
立派なアリアだ、と特別に身構えないこと。
自分の持ち声で歌曲と同じように淡々と綺麗に歌えば良いのだと思った。
それが出来ればやってるよ!というかもしれないが!
ともあれ、堂々と安定して歌えて聞いていても安心して聴ける歌声になった成長におめでとうと言いたい。

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NS
声は危なげないもので、安定して歌えた。
楽しそうだし、表現力のあるステージングで華やかな印象を残した。
ただ、もっと声の響きが空気に伝わるような感じの発声をこれからも探して欲しい。
レッスン時でも言ったが、5線の中の声は、もう少し共鳴感を作っても良いのではないか?
声を前に出すばかりでなく、共鳴させるポイントを掴むべきだろう。
そのためには、歌う身体の重心が中心にあって、その重心がぶれない、という姿勢そのものからも研究して欲しいと思う。
洒落ていて軽やかなステージと雰囲気を持っているからこそ、声には深みと響きを求めたくなるのである。
これからが更に楽しみである。


TF
シューベルト2曲は良かった。
繊細な声のイメージがシューベルトのナイーブさと合致して感じられたからである。
最後に歌った、中田義直の「悲しくなったときは」
この曲では、発声の課題そのものよりも、むしろ今残っている課題を補う「歌い方」の研究がもう少し欲しかった。
中間部は、もっと言葉でどんどん歌い進められれば、ブレスも苦しまずに歌えただろうに、という印象が強く残った。
だが、歌っていて楽しいのだ、という本人の様子は伝わっていた。
これは良いことだが、そのことと、技術的なことをどうやって折り合いを付けるか?
自己評価だけではなく、客観的な評価も常に己の中に持って、大切に勉強していただきたい。


ME
とても雰囲気のあるステージで、さすがに人生経験の深さとパリ仕込のセンスをお持ちだという印象だった。
ただ、本番は上がってしまったのかな~。リハーサルが良かっただけに、惜しいという印象が強く残った。
本番後の講評で誰にでもいつも言うことは、上がることそのものの是非ではなく、その上がり方なのである。
もしかして歌っていて気持ち良かったとしたら、そのことが上がったことと関係があるのだろうか?
良い意味で、お客さんを意識しないで、作品、音楽だけに集中出来るように、イメージしてこれからも本番に臨んで行ってはどうだろうか?
せっかくの美声と、フランス音楽作品への良い理解をお持ちだから、これからの本番も期待しているのである。