アトリエムジカCコンサート8月一日の講評

今回は2部構成にしましたが、一部で印象に残ったのは皆さんの声の響きでした。

音楽性と声の力とのバランスがとても良い人もいたし、また声の響きよりも表現しようとする姿勢が見える人もいたり、声楽の様々な姿がそこにはありました。

良い声と歌詞をとことん歌いこむ知性、この二つのバランスが絶妙に揃ってこそ、本当の素晴らしい歌唱になるのだと思いました。

私自身が、教える仕事を始めてようやく10年。その成果が少しずつ見え始めたことと、

教える、という自分のスキル向上が少し感じられたかな?と初めて嬉しく思えた発表会でした。

ソロの部

KR

端正な演奏でした。柔らかく綺麗な高音の声だと思います。 一方中音域の声は、以前の胸声傾向のやや♭な響きから脱しましたが、頭声との段差が出てしまうのか?
声の揺れが少し気になりました。フランス語の歌詞も確実で綺麗な発音になっていました。
このアリアは歌うことが自然に感じられるまでになるため、相当な歌いこみが必要な曲です。
歌詞の意味がどれだけ自分のものとして歌われているかどうか? 機会があれば、これからも何度も何度もこのアリアに挑戦して下さい。歌詞の内容を真摯に歌い込めば、本当の意味で自然な表現として確立した素晴らしい演奏に到達出来る、と思いますし、到達してほしいと思います。
おめでとうございました。

 

 

 

 

 

AY

彼女が見つけて持って来た、ルネサンスのマドリガーレから2曲。特にモンテヴェルディのものは技巧的にも難しい物でしたが、レッスンで勉強したレベルを堅持出来ました。
また、Se l’aura spiraも同様に丁寧に歌った印象がありました。 全体に爽やかさ、を感じさせた演奏になりました。
緊張していましたが、歌うことに良い意味で一所懸命であり、それが爽やかさを出せた原因でしょう。
ただ緊張のせいで声の不安定が残ります。これは緊張が悪いのではなく、発声方法の確実性をまだ持っていないからでしょう。ブレス時に喉のポジションが決まることの一語に尽きるでしょう。ブレス、喉の開き、声を当てる場所、の3つを、歌い出しでいつも確実にしてください。おめでとうございました。

 

 

 

 

 

HA

Il bacioは、レッスン最終くらいでテンポが決まりそのまま本番に入れたので良い感じでした。
声は少し♭気味になるのが、恐らく中低音の発声だと思います。 喉は開くが響きは高く出す、というところの後者を大切にしてください。
オランピアのシャンソンは、彼女のモチベーションそのままで、何の衒いもなく歌い、また演技も良く出来ていました。お客様も喜び、本人も楽しく歌えた、最高のステージだったと思います。
最初であれだけ出来るわけですから、これからも機会があれば挑戦して下さい。
特にロボットの動きは、もっともっと洗練出来ると思います。 ステージの自由さは、素質があると思います。更に発声法を確立すれば、鬼に金棒でしょう。
歌いたい気持ちを持ちつつ、クールな視点で発声を意識して、更に良い声を伸ばしてください。
おめでとうございました。

 

 

 

WH

久しぶりの本番でかなり緊張して歌いだしたようでしたが、歌うに連れて調子が戻りました。
結果的に、声は綺麗に当たり、喉が開いた状態で歌えていたと思います。 フレーズも綺麗にレガートに歌えていたし、声のニュアンスも音楽に応じて出せていました。
少し惜しい、と思った所は、カデンツの高音発声です。力んで喉が締まったようで、声が飛ばない感じになったと思います。
もっとリラックスして出せる声を持っているはず、と感じました。 声は綺麗に当った響きで良いのですが、その上で、喉や軟口蓋はもう少し開いた状態での発音(発声)が出来ると、更に深みのある良い声になるでしょう。また、ブレスも意識できると思いますので、今後の課題とされてください。おめでとうございました。

 

 

 

 

 

AC

ラヴェルの「マラルメの3つの詩」1曲目はとても良い仕上がりでした。 会場の雰囲気も、歌い出すと、静かに聞きこもうという集中力が満ちていました。
2曲目は、想像ですが・・恐らく暗譜に不安があったのではないでしょうか? 結果的に問題なく歌えましたが、どこか力みがあって、必死に歌って終わってしまった感じでした。しかし、3曲目は、2曲目の力みから解き放たれて、最後になるほど良い声で歌えるようになりました。
最終フレーズは良い声が出せていました。 声の課題は、響きの高さをもっと研究して下さい。喉が良く開いているけども、天井の高い響き、です。フランス語や歌詞に拘らずに、母音での譜読みの練習を大切にしてください。おめでとうございました。

 

 

 

 

 

 

KY

今回、声の響きに力と優しさの両面が出て、とても良い演奏になりました。歌声の優しさも、一つの表現に感じられました。
特にヘンデルのLascia ch’io piangaは、優しさ、哀しみが自然に表現される良い演奏でした。
高音も力まないで、柔らかく綺麗に処理出来たのが、大きな成長の証でしょう。プーランクの3曲は、今回で二回目の演奏ですが、以前に比べると、曲の持つ魅力が出せた好演でした。
発声と表現とのバランスが良くて、この曲の持ち味を充分出せていました。気負わない自然な歌の良さが彼女の持ち味だと、以前から思っていましたが、そこに忍耐力や我慢が付いて、良い演奏につながった面もあるでしょう。
人間的な成長があったのでしょう。 おめでとうございました。

 

 

 

 

 

 

SY

暗譜にするか、譜面を見て歌うか?最後の最後まで迷いましたが、歌声の安定と言う意味で良かったと思います。
ただ、視力がかなり低い方なので、譜面を見ることや、普段のレッスンの勉強も大変な方です。
その意味で譜面を見て歌うと、逆に譜面に集中してし過ぎてしまうことが、メロディーを歌う素朴さをそいでしまうことにもつながってしまいかねません。
今回は、そこを彼女なりのイメージ戦略で頑張って歌ったのだなと思わされました。
その意味で、2曲目がレッスンで一番苦労したのに、本番では一番良い結果につながったのが、収穫でしたね。
惜しむらくは、もう少し顔を上げて歌って良かった、歌えただろう、と思います。
3曲目は、良く歌えていたし、歌詞も良く判る歌になっていました。 これはオペラと同じで、歌詞の言い方、みたいなものをもっと出せれば素晴らしかった。
これから日本語の歌は、ぜひこの点を挑戦されて下さい。おめでとうございました。

 

 

 

 

 

MT

ステージの演奏は、今までにない、彼の真摯な気持ちが強く感じられる、内面的な演奏だった印象が強かったです。
歌詞を良く歌いこんでいることも、歌の端々から感じ取れました。 気持ちを込めて歌っていたのだと思います。
声も綺麗に音程良く歌え、必要充分な役割を果たしていました。 欲を言えば、声の扱いにもう一工夫あれば更に良かったです。
例えば、上向フレーズで高音の声区に入る時、響きが上に行くほど響くようなフレージングの仕方は、発声が強く関与します。あるいはフラットなニュアンスのないフレーズを歌おうとする時に、歌詞発音の影響を受けないで、声の響きを紡ぐような歌い方等々。
そのような声の技術において更に向上してほしい、と彼の歌を聴いて思いました。
おめでとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

YC

久しぶりでしたが、以前にも増して良く響く声になったな、と感じました。 特に「からたちの花」は、良く共鳴した響きが会場を満たして見事でした。
この曲は、直前の2回のレッスンで音楽を作りましたが、これも美しく歌い通してくれました。
アリアは、彼女らしいブレスの長い良い高音の響きを聞かせてくれましたが、中音域では、少し太い声を意識しすぎたかもしれません。
これは、私の指導のせいですが、喉の開きと軟口蓋を上げることとのバランスで、上あごを上げるバランスが足りていなかったのでしょう。
もとより、声帯の使い方が上手いので、喉を開ける作法はほとんどなくても、綺麗に歌えるのですが、これから、この喉を開ける発声を覚えると、特に中低音は力まずに美しい響きを得られると思います。おめでとうございました。

 

 

 

 

 

第二部のオペラアンサンブルですが、このステージは、 私自身が声よりも歌詞を明快に、ということと、動いて歌うこと、を主眼にしました。
そのため、ソロよりも歌声に関してはアバウトになっても構いませんでした。
活き活きと動いて歌って、ステージを進行させることだけに主眼を置きました。
進行感とそのテンポ感が、全体のステージの印象を決めるようになってもらいたかったのです。一つ一つの演技の巧拙を追い求めなかったのは、その意味でも、実は通し稽古が大切でした。所々、動きが止まって所在ない姿勢に見えることがありましたが、皆さんの演技は概ね活々として良かったと思います。
何より、あれだけ少ないレッスンと、たった一回の通し稽古で、リハーサルを迎えただけでも、どうなるか?とても心配だったので、こちらの思惑以上に頑張ってくれた、とエールを送りたい気持ちです。
今回、特にそれぞれソロで苦労している人ほど、活き活きと動いて歌ってステージを盛り上げてくれたことが、成功の一番の理由だと思います。
誰ひとりとして、適当に、あるいはやる気のない人、はいなかったです。 そのような意味でのチームプレーも成功でした。
今回のようなことは、やればやっただけ、どんどん巧くなりますから、また機会を見てやりたいと思います。
おめでとうございました。