午後の部

午後の部は、特にこちらのレッスン年数が浅い方、あるいは今回の発表会が初めての方の割合が多くなりました。
また、本番直前のレッスンで、修正出来るだけのことをして本番で良くなった人が何名かいました。
果敢に挑戦してくれたことに拍手を送りたいです。

初出演の方も、それほど緊張し過ぎず、無難に過ごせた演奏が出来てこちらもほっとしました。
あるいは、歌いながら苦しいのかな、と思わず手に汗握る場面もあるにはありましたが、無事に終わることが出来ました。
心から良かった、と思っています。

ところで、声楽は武道の修行に似た所があると思っています。
武道における精進の意味は、人間が持つ感覚を研ぎ澄ますことで能力を伸ばすことにあります。
これは、痴漢に襲われた時にどう対処するか?と言うようなことではなく(笑)とっさの機転を利かす感覚を研ぎ澄ます、というような意味です。
自然との対峙における感性を研ぎ澄ますことが出来るようになる、ということです。

日ごろから皆さんに言ってますが、今どんな感覚でしたか?どこに響いていますか?どうブレスしていますか?ということの積み重ねもあります。
また、誰も助けてくれない止まることも出来ない本番で、必死に演奏を行うことによって、無意識で自分の身体に目を向けること、その感覚を研ぎ澄ますことが出来るようになる訳です。

何となくきれいな衣装を身に付けて楽しく過ごせれば、というところから一歩進んで、身体の練磨や修練という意味を判ってもらえると、
また一段と進歩が大きく早くなると思います。
しかし巧くなれば、何より真の意味で歌うことが楽しくなりますので、どうか諦めずにこの趣味を少しずでも長く続けてほしいと思います。

各出演者の感想(イニシャル)
WN UM ST FY NM ADY OY AC IA

WN

ムジカCの発表会への出演は、初めてでした。
初めてにしては落ち着いた演奏はこびで、フォーレの音楽のスタイルが伝わるものになったと思います。
音程が良くメロディラインがはっきりていることと、ソルフェージュがしっかりした基礎が感じられるからです。
リハーサルでは、やや緊張気味で、レッスンで練習したことが出来るかな?と心配な面もありましたが、
本番の結果は、レッスンで練習したことが活かされていたと思います。
今回、一連のレッスンでやったことは、俗に言うお腹から出る声とはどういうことか?ということです。
まだ完全に教え切れてないですが、かなりな部分意識して実行出来ていたと思います。
ソロと合唱では、発声方のディテールが違う部分がありますので、その点は注意された上で、ソロボーカルの
発声法をこれからも身につけて行って下さい。そのことで、合唱の声の表現も幅が広がると思います。
おめでとうございました。

Back

UM
今回の発表会は、前回に比べ発声が良い方向に伸びていました。
きれいに当った音程感の良い声が、ホールに良く響いていました。
実際にビデオを見てみると、本番前の最後のレッスン時に、ブレスをする時の下顎の余計な動きが、かなり治っていました。
直前に自身で良く練習したのでしょうか?
発声が改善されたこと、特にチェンジをまたいだフレーズの発声が良くなったこと。
その意味で今回の発表会は成功でした。
今度レッスンしてみて、今回の発声が本当に実行出来ているかどうか?確かめたいと思います。
今回の成果を受け、自信を以て今後につなげてレパートリーも拡げて行って下さい。
おめでとうございました。

Back

ST

今回は、2段跳びくらいのハードルの高い作品を与えましたが、必要なことと考え思い切りました。
リスクもありましたが、彼女のまじめさと挑戦意欲にかけました。歌い通すことを優先課題にし、その中で改善できるだけのことをやろう、というコンセプトでした。
その意味では、良い結果だと思います。
本番直前のレッスンで、喉が苦しくなって歌い通せなかった点は、本番でも症状が少しあり、心配しましたが、完走出来たことが何よりの成果でしょう。
また、このことは、どうして苦しくなるのか?自身で理由を明快に把握できているかどうか?そのことはどうすると回避出来るのか?
レッスンで復習しておくことが、必要だと思います。
今ここで指摘出来ることとして一点だけ、換声点から下の声の使い方が重くなった点でしょうか。
総合的には息を楽に吐ける歌い方を覚えると、音程ももっと良くなるし、歌うのももっと楽になるでしょう。
元々、高音発声が楽に出来る喉なので、チェンジから上の感覚を基に中低音を規定して行く方法も良いでしょう。
これからも、様々なレパートリーを歌いこんで行くことで、自然に発声を覚え身体が出来て行くと思います。
おめでとうございました。

Back

FY

1曲目から3曲目まで、こちらが教えた通りのことを、丁寧に歌い通せた能力に感心しました。
かなり緊張していたようですが、それを抑制して均整のとれた美しい演奏にまとめ上げたことを評価します。
ヘンデルLascia ch’io pianga こちらの言った通りにやってくれて、堂々としたヘンデルらしい音楽にまとめてくれました。
特にレシタティーヴォは現状ではほぼ完璧です。アリアは、これもどっしりしましたが、少し喉を掘ってしまったかもしれません。
声の出し始めで重心を低く感じることと、喉そのものを下げることは別の事なのです。
モーツアルトの2曲は声のバランスは良かったですが、「寂しい森の中で」は、やや軽かったかな?
声が軽かった理由は、フランス語の歌で初体験だったこともありますが、発音自体を明確に自信を持って出来ていたら違った展開になったと思います。
アリアのVoi che s’apeteは、発音も実に明瞭で音楽に適った表現になっていました。
演奏全体に関しては、音楽的な歌が自然に醸成される良いセンスを持っている方だと思います。
これからも、更にレパートリーを拡げて精進されてください。
おめでとうございました。

Back

NM

今回は、彼女のお気に入りの2曲だったのではないでしょうか。
自信を持って歌っている様、好きな曲を歌う本人の満足した良質な集中が、演奏として伝わってきました。
ドイツ語の発音も自信があるようで、とてもきれいに処理していたと思います。特に子音の処理が良く伝わりました。
発声としては、換声点領域の処理が今後の課題だと思います。
高音発声そのものよりも、いかに中音域の声から音程良く高音に持って行くか?という領域の発声です。
以前から指摘していると思いますが、鼻腔共鳴を開発することです。
今後も楽器作りの面を、更に高めて行ってください。そのことで真の意味で歌うことが楽しくなるでしょう。
おめでとうございました。

Back

ADY

本番は、3曲、しっとりと落ち着いた演奏を披露出来たと思います。
特に落葉松は、曲の持ち味が良く出ていました。
彼女が本来持っている、音楽的な集中力が良かったと思います。
緊張と相半ばして味わっている彼女自身の音楽への快感のようなものが伝わってきました。
アリアは、1曲目に歌うことがどうか?と思う面もありましたが、本人のモチヴェーションを優先させました。
厳しい面がまだありますが、これは順番の問題と言うより、単に発声の課題を、更に強く考えてもらうきっかけにすればよいと思います。
フォーレの「ネル」は、どの曲もよりも今の彼女には良い課題と思いました。
明るい曲調やテンポ感のある、このような曲を中心に、これからの課題を克服してもらいたい、と思います。
発声の課題は、ずっと続けている声帯の伸展と結果的な意味での合わさりを良くすること、に尽きます。
母音はAを避けてEやIを基準に考えて下さい。また、舌根の力みを極力取って、下顎の発声への関与をなるべくなくすことです。
発声の改善は、今後も根気よく続けられてください。おめでとうございました。

Back

ON

天性のテノールの喉を持っている人ですが、今回はその身に付いた発声を少し変えようと試みたようです。
これが、やはり難しく、本番直前になって調子を崩した原因になったようです。
発声は気長にじっくりと当らないと、本番直前では、失敗する可能性も多くリスクが伴います。
リハーサルは少し心配がありましたが、本番はナーバスにならず積極的に歌えたようで、本来の調子を戻して完調でした。
発声は変えるとなると、1年かかりくらいでじっくり構えないと出来ません。
もし変えるのであれば、1点C~Fにかけての、換声点直前くらいの領域の声を太くしようとしない方が良いと思います。
むしろピッチを高めに意識して、細く前に当たる声、をイメージされると良いでしょう。
それ以上の音域はあまりいじらないでおく方が良いと思います。
ともあれ、テノールアリアのだいご味を充分味わうことが出来た、立派な演奏でした。
おめでとうございました。

Back

 

AC

リハーサルの時から、豊かな声量で朗々とした歌声に圧倒されました。
本番は緊張したのでしょうか、1曲目のフォーレで少し神経質になったように思えたのが惜しかった。
こちらに伝わる声は良い声でしたが、ブレスが足りなくなりそうな感じが見えました。すこし上がり気味だったのでしょうか?
このフォーレの歌曲演奏は、教え方のせいかな?
もっと気楽に歌ってもらえるようになれば良かったのかもしれない、とこちらの反省でした。
今回の収穫は、「サムソンとデリラ」の歌声で、ようやく低音の発声が明るくなりピッチが良くなってきたことです。
そして武満徹の「翼」で、日本語の母音の抑揚表現が活きていたのが教えた者としての喜びでした。
この曲も以前に比べると低音の声が通るようになったことが、進歩でした。
これからも、地道にコツコツ続けて下さい。発声の方向性が大分見えてきました。あともう少しです!
おめでとうございました。

Back

IA

彼女も勉強家で、良く練習と伴奏合わせ、打ち合わせを綿密にやって、演奏会に臨まれるようです。
今回もレッスンは少なかったですが、結果的に彼女の曲に対する思い入れ、美学のようなものが、充分に感じられる演奏になっていました。
自分の声を良く知っているのだと思います。
どの音域の声が良い声であるか?苦手な音域か?あるいはブレスはどうか?
その上でテンポを決め、またそのテンポが音楽的な必然性を持つように、歌いこんでいます。
高音発声は、無理なく不要に張ることがないため欠点が出ないですが、もう一歩インパクトがあっても良いかな?という印象を持つことがありました。
高音で怖がらないで、思い切って解放的にに声を張っても良い場合もあると思います。
今後も果敢に挑戦されてください。
おめでとございました。

Back