夜の部も、感動させられる演奏を経験しました。
感動できる演奏とは、必ずしも発声が良いとか声量が豊富だとかフレージングが芸術的というような意味ではなく、心がこもった演奏が聴けたという意味です。

歌はただ単に声だけではない、ハートの問題も大きいです。
それは、詩的な解釈という意味もありますが、歌うことにどれだけ集中して、丁寧に処理しているか?
この、丁寧に、大切に、という部分です。

これは、自分の演奏でも反省が多々あるのですが、発声のことばかり考えて歌うときの表情というものがあります。
一方、歌詞の内容をイメージできている歌を歌う表情は、どこか自然で魅力的です。
このことは実は声楽的な技術の高さ、経験度や長さと、必ずしもリンクするわけではないこと、も考えさせられました。

そんなことを考えるきっかけになった、夜の部でした。
大変、充実した2時間あまりで、あっという間に過ごすことが出来ました。
本当に素晴らしかったです・・・と言いたいところですが、少しだけお小言を(笑)

フランス語を歌う方は、せめて鼻母音だけはしっかり鼻母音の発音を把握して鼻母音らしく発声してください。せめてNを言わないようにお願いします。
そして、歌うときに、気持ちに集中するのは良いですが、目をつぶって下を向いてしまうのは、ステージとしてはもったいない。
一応、基本は目を見開いて前を向いて歌いましょう。たまに気持ちが乗って目をつぶったり、ニュアンスがあって下を向くのは良いです。

ともあれ、皆さんおめでとうございました。

最後ですが、各々演奏写真に動画がリンクされています。
なお、録画、録音は、あくまで表面的な部分の参考程度に聞いてください。特にピアノと声のバランスは気にしないでください。
実際に聞いた印象とかなり違っております。

各出演者の感想(イニシャル)
ISS TNA UM NM AS FT SM SA  MT AC  HA

ISS

ikeshitaフォーレの「漁夫の唄」グノーのファウストから「ヴァランタンのカヴァティーナ」2曲を歌ってくれました。
彼の年齢と経歴を見れば、ほぼ完ぺきといえるほど、発声の安定と音楽性のバランスは良かったです。
頭声と胸声のバランスが良いのでしょう。音程の良さが、そのことを証明しています。
欲を言えば高音域のブレスがもうすこし伸びれば、と思います。
バリトンの声質は、作らないで自然に出来て行くと思えばよいです。
素晴らしいフランス歌曲のレパートリーを更に増やした今後のソロ活動を期待しています。

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TNA
tanakaマスカーニの「アヴェ・マリア」とプッチーニのラ・ボエームからミミのアリア「あなたの愛の呼ぶ声に」
今の彼女の持つ技量で測れば最善の演奏が出来た、という第一印象です。技量と歌心のバランスがとても良かったです。
特にミミのアリアは、ミミその人そのもの、という感覚を持てました。
「アヴェ・マリア」も弱声を上手く活かせて、曲が持つ美しさが出せていました。
発声は緒に就いたところです。
今後も少しずつ覚えて、持ち味の表現力の幅を拡げてください。

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UM

uchiyamaバッハのカンタータNr51からアリアとコラール、ハレルヤの部分を歌ってもらいました。
少ない練習回数と伴奏合わせだったので、当初は心配しましたが、それは杞憂となりました。バッハらしい、知的で幻想的な美しい音楽を感じられました。
音程感が良く軽やかでみずみずしい歌声が聴こえて来てて、明るく善良な歌唱となりました。
課題としては、中低音の発声がもう少し高く集まった響きが実現できることと、最高音もう少し開いた発声になればより美しいです。今後の発声の開発に期待しています。

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NM

naganumaフォーレの「ネル」「朝の唄」ドビュッシー「グリーン」「ロマンス」
音楽に良く集中して歌えた好演だったと思います。
それは絶妙なバランス力、でしょうか。
課題となっている中低音の発声と共に、音楽をとても丁寧に処理し、大切に歌ったことで、声の課題を超えた演奏を良く成立させました。そういう丁寧さ、忍耐力みたいなものが、ステージ演奏としての品位を高くさせた見本だと思います。
発声の課題の克服は、現状理解していることをより推し進め、地道に研究と訓練を続けられてください。

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AS

ariyoshiプーランクの歌曲から4曲。
冒頭の「失踪」で、レッスンはだいぶ苦労しましたが、本番になってジャストピント!というべき、良いポイントにはまった歌声になりました。それが、4曲ともそのまま持続して、素晴らしい演奏結果となりました。
特に「モンパルナス」は、プーランクの背後霊が憑りついたのではないか!?と思うほどの良い出来で、感動して聞かせてもらいました。
一つの理想的な集中力が生まれたのだと思います。
結果的にホールの響きもあって、発声もとても良いポイントで歌えました。ルイ・アラゴンの2曲も大変良かったです。特にFete galanteは、歌うほどにノリが良くなって、楽しい演奏になりました。真心のこもった歌を、これからも期待します。
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FT

fukaya今回の発表会は、恐らく今までで一番の出来だったと思います。
信時潔の歌集「沙羅」からの「丹澤」は、長く歌いこんだだけあって、音楽的にも声としても、良いバランスで演奏できたと思います。特に出だしのメロディのリズム感は、この曲を品位あるものとしました。
また、ドニゼッティ「愛の妙薬」のアリア「人知れぬ涙」は、歌自慢、声自慢ではない、本来、この曲が持っている心が、直截に歌声になって表われた名演だったと思います。本人が何を以って歌ったのか?分かりませんが、その集中力の高さ、強さの勝利でしょう。オペラのアリアを、コンサートでピアノ伴奏で歌うとき、名人芸の物まねではなく、曲が持っている味わいを良く抽出した歌を歌うことが、いかに大事なことか?という見本となりました。物まね芸ではない、本物の個性的な歌と感じました。

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SM

sugitaフランス歌曲の「月の光」「夜想曲」そして、マスネーの「エロディアード」から「美しく優しいきみ」を歌ってくれました。
このところ体調不良でレッスンもあまり多くできず、本番自体も出演できるかどうか?という状態でありながら、見事に難しい3曲を歌い通してくれました。
フォーレの幻想的な2曲は、曲調に相応しい柔らかでナイーブな歌声の響きでしたし、エロディアードのアリアは優しさと甘さの中に、このキャラクターが持つ強さが表現されていた、と感じました。課題としては、発声です。なるべく喉を開けようとしないで、むしろ閉じる方向で、響きを高く鼻根に集めるような発声を、更に開発してください。そのことで、息も持つし結果的にフレージングの美しさが表現できると思います。今後の更なる精進を期待しています。

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SA

saitou3曲とも、発声上の技巧の進歩が感じられた、今回の発表会でした。
曲は、山田耕筰の「野薔薇」から。伴奏の繊細な音色で一気に霧深い高原に咲くモノクロの野薔薇のイメージがわきました。
中高音の声の響きが締まらないで良い共鳴が感じられ、品位の高い演奏に結びつきました。
サン・サーンスの歌曲から「ロマンティックな夕べ」は、レッスンで低域発声の難しさが露呈しましたが、本番は上手く処理してまとまりました。
ただ、低域が続くため高い方も力んでしまった感が、惜しかったです。もっと楽に解放的に歌えればよかったです。
「愛しあおう」伴奏の荘重さもあって、良い重さを感じる好演でした。
低域の発声は、鳴らそうと力まないで発音に留意しておいて、むしろ中高音発声をもっと開放的に、あるいは口を開けた開いた響きが出せるようになってください。

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MT

manabeプーランクの歌曲集2つ、素晴らしい演奏でした。
1つ目の歌曲集「変身」は、男性が歌う場合、男性の声質を意識してほしいと思い指導しました。プーランクは、歌う者の性差が要求される歌が多いと思っています。
純クラシックというより、少しPop系の色があるのでしょう。レッスンでは、低域の声を意識すべく、声の出し始めのポジション低くしてもらいましたが、これが功を奏しました。録画ではその効果があまり判別出来ないかもしれませんが、客席から聞いていた私の耳には、この曲の表現として完璧でした。良く響いていました。
「パリジアーナ」の2曲も同じコンセプトでした。特に2曲目は寄席芸らしさのざっくばらんな雰囲気も出せていました。こういう点もプーランクらしさにつながりますね。今後も、フランス歌曲のレパートリー拡充と表現力の向上に期待しています。

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AC

abeバッハの「マタイ受難曲」から「哀れみたまえ我が神よ」そしてドビュッシーの「美しい夕暮れ」「愛しあって眠りましょう」バッハの「哀れみたまえわが神よ」安定した歌声で、破綻のない演奏でした。
惜しい、と感じたのは、もう少し伴奏合わせをして、リハーサルでテンポ設定をゆったりさせて、歌とピアノの音量バランスを調整すれば良かったと思いました。ピアノ音楽がやや頑張ってしまいました。声は、中音域の声が、もう少し鼻腔に響く声を実現できれば理想でした。
ややこもってしまいます。喉を下げる力が強いのは緊張のためか?低音発声は、逆にもっと下の声区とミックスできると良かったです。
ドビュッシー2曲も教えたとおり、大変良く歌えていて文句はないです。これも上記の中音域の声質に前に出てくる明るさがほしいところでした。中低音の発声を、今後の課題とされてください。

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HA

hanamuraヘンデルの「ああ、私の心である人よ」ルッツィの「アヴェ・マリア」レハールの「こうもり」アデーレの「侯爵様、あなたのような方は」いずれも、落ち着いた安定した歌唱でした。
3曲とも、曲調を良く考えられた歌唱であり、歌への情熱と、演劇性への嗜好が感じられる秀逸なステージでした。
このところのレッスンの課題は、中低域でやや喉を掘る発声により、倍音が少な目の声になり、ピッチと明るさが微妙に低い感じになります。
一般的にはほとんど問題ないレベルですが、より一層輝きのある良い声を求めてほしく、今後の発声の改善を期待しています。
もともと、日本語の語感が優れていますし、演劇性も高い素養がありますから、日本の歌のレパートリーも更に拡げていってください。

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