練習覚え書き
1,「5つのギリシャ民謡」から

2.「5つのヴェニスの歌曲」から

3、「夕べ」
フォーレ−サマン「夕べ」(中声用) 2000年9月24日

この曲はフォーレの歌曲作品でもぼくの大好きな作品の一つです。ただ、モラーヌの録音は聞いたことがなく、耳に残っているのはぼくがピアノを弾いて先生に歌っていただいた時の声だけです。
特に出だしのVoci que les jardin de la nuit vont fleurir..
という始まりのフレーズ。Voiciのヴォワは1点Fの音。これが声のポイントになります。たったこれだけの響きをどう作るかだけで芸術か否か?という分かれ目になります。
きれいに処理することは出来ますが、バリトンのような地味な声域がこの作品を取り上げる時、どれだけ声質に留意を払うか?でその声楽家の価値が決まるのではないでしょうか?

モラーヌの声は、最初の1点Fの声で完璧な音程感を持った胸声で処理していました。そうです、モラーヌはバリトンです。
低い声は自然に胸の声が強くなりますが、声帯の当たりを柔らかく、そして、軟口蓋を高くあげて、声帯で発した響きを脳天めがけて響かせます。1点Fという音程はバリトンにとっては、難なく出せる音程ですが、それが足をすくう原因です。雑に出すと音程が低くなります。音質が暗くなります。

ここで、うまく行けば、後はその意識で処理していくと同じページのLes sons deviennent vagueのSonsのC♭の音程をきれいに決めることが出来るはずです。あとは2ページ目の中間部に入る前のEntneds tu pasのPasのD♭。これがスッキリ響けばばっちりですね。
そして、3ページ目の中間部から再現部のC'est la pitieの最初のFの音で、きちんと低い音域の胸声に収まるように。
ただし、このアタックの時も息を押さえこまないで息を軽く出してアタックすることを心がけて下さい。

最後のページのIl semble qu'a mon..で始る最後の盛り上がりはしっかり声を出していって下さい。このIlの始まりの声は少し鼻母音気味に響かすと、うまく声が上に乗ります。
そして、盛り上がりからコーダに向かう最初の音。Et si douxのEtのFの音は決して胸声で押さないように、息を上に持って行き軽く出しましょう。

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「5つのヴェニスの歌曲」から 2000年09月22日

少し休んだけど練習はしている。フォーレの5つのベニスの歌曲は日本人の好きなフランス歌曲だけど、特に最初のマンドリンはぼくにはむずかしかった。弱拍開始ではない強拍開始のリズムは案外声の準備がやりにくいものだ。
それほど遅くない軽快なマンドリン風のピアノ前奏に軽やかに声を伸せ一気に2点Dまで声を持って行くこと。その2点Dの音が決まらないのだ。

それは、最初の声の出だし、フランス語の定冠詞 Les を1点Gに乗せるところで決まるのだ。これをゆっくりのリズムで何度かトライし、声のアタックでポジションがピタリ!と来るように練習をする。そして2点Dの音に入る時、厳密にはserenadeのNの子音の準備では完全にその音のポジションが決まっていなければならない・・という具合に細かく練習をしていく。

何の事だか分からない人もいるかもしれないけど、ディテールをおろそかにすると、大きいことも駄目になることがある。
いつも心がけていることは、歌曲集の最初の曲をとても大事にすることだ。プレイはとてもメンタルな作業だから、出だしでつまずくと後を引く。

まあ、こんな調子で練習をしているが、まだ課題は山積している。それは、更に高い音を出す際に同じポジションで処理しようとしても難しくエイヤ式に声を出してしまう癖がまだ抜けないのだ。
特にフォーレ後期の小品、ヴェルレーヌの有名な「牢獄」の 2ページ目から始るF−Fisを叫ぶ表現のところの声の扱いだ。
問題は、出せてもその後に声枯れが出てくる。表現としては叫んでいても音楽的には叫んではいけない。

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5つのギリシャ民謡から・・・2000年09月18日

きょうはラヴェル編曲の「5つのギリシャ民謡」を練習しました。これは、ギリシャの民謡をラヴェルがピアノ伴奏で歌曲風に編曲したもの。エスニック音楽のはしりみたいです。5度4度8度の重なりがモード(旋法)の使用とあいまって独特のラヴェルサウンドになってます。ブルガリアの音楽が好きな人は、とりこになるでしょう。

この中に追分節みたいのがありまして、超むずかしい!この歌はぼくは何度もトライしたけど、全然下手糞だった。今回取り上げた原因は、頭声が少しうまくなったかな?というチェックの意味がありました。

この曲集のポイントは、全体にバリトンにとっては、キーが高いです。しかし、バリトンでも充分に歌えるキーであることも確かです。師匠モラーヌはこの曲集を実に美しく歌い上げていました。ぼくがレッスンに持って行くと「まだ難しいだろう、ペレアス(ドビュッシーの歌劇のタイトルロール)のキャラクターを持たないと無理だ!」と言われました。その時は意味が良く分かりませんでしたが、今になるととても良く分かります。

ラヴェルのこの一連のエスニック風歌曲の伴奏は、実にシンプルで音の重なりが少なく5度や8度と言った間のスカスカした和音が控えめに出てくるので声が裸になってしまうのです。勢い、声の欠点が目立ちます。ピアノ伴奏と声が適度に混ざらないからです。

したがって、この歌曲作品は真の頭声を持った歌手のみが美しく表現できるものだといえるでしょう。頭声というと、ドイツリートでディースカウ先生が中高音部で使う半分ファルセットみたいな声と言うイメージがありますがそうではなくて、高目のポジションに声の特異点を作ること。音程の取り方を例えば、一つの音程というものにいくらかの幅があるならば、天井の部分にしっかり合せて音程をつくって行く感じですね。そして絶対に声を押さない。押さないと言うことは平たく言えば出来た響き以上に声を出さないと言うことです。

ピッチ(音程)がはっきりし、明るい音質になります。ビブラートもあまりつきません。旋律をきれいに歌いまわす際に非常に有効です。しかし、声量はそれほど出ません。必然的に、強い表現よりは、優しいイメージ、柔らかいイメージに向いた声の使い方かも知れません。頭声の反対が胸声です。

声楽家は、この分類ではっきり分けますが、この両者を混ぜ合わせて声の表現を確立します。
なんといっても、しっかりした声帯の保持と軟口蓋を高くする技術が大事です。大げさに言えば、針の穴に先がピンとした糸をきれいに通すように声を作ります。

これがうまく行ったのでピッチがきれいでブレスが信じられないほど長い民謡的な歌い回しを下品になることなく出来たのです。胸声で処理するとピッチが太く空気感の欠けたおっさんの羊飼い歌になってしまいます。笑

ポイントは、軟口蓋を高くそして声をその高くなった部分でまずそっと歌ってみること。ただしそのために声帯の位置が上がり過ぎないように注意すること。声は絶対に押さないこと。

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