彼女の発声上の課題は、下顎を下ろすことと同時に舌根を力ませることです。
声を出すという事で、下顎と舌のワンセットで喉頭を固定させるようにして発声するため、気道は舌根で塞がれるために暗くこもった声になりやすいのです。

今日の練習結果としては、下顎をほとんど降ろさないで発声してみると、少なくとも中低音域では倍音の豊かな響きが出ました。
この発声に、子音の使い分けを組み合わせることで、頭部から響きが出るピッチの高い明るい母音の響きが得られました。
TやDなどの舌をしっかり跳ねる子音で頭部の発声が出来てから、Jaなどの半母音を使う事で喉を開けた深い響きを作って行きます。

下顎を力ませない発声だけだと、確かに軽くてぺらっとした軽薄な印象が否めませんが、何より倍音が豊かに出る点がとても重要なことなのです。
力んだ発声は倍音がなく、丸い鉛筆の芯で文字を書いたような印象です。
太く力強いが、ぼてっとしている。
これが音程感を♭にし、かつビブラートがつかない発声につながります。

この発声の響きを覚えて、発音に必要な下顎の関与があっても、声が暗くならないように処理できること、を目指しました。

発声練習の声はとても改善されてきていますが、実際の歌詞発音を伴う歌になると、歌声がぼやっとあいまいになるのは、上記の理由によるでしょう。

イタリア語、あるいはフランス語もですが、半母音系の子音の場合は、1シラブルで歌わないで2シラブル化することで、
該当の母音発声が明快になります。

例えば Quellaの場合は、Quとellaを分けるようにします。
最初のQuで音程を意識してはっきり出すことで、正しい母音であるEが明快になる、ということです。
このような子音や半母音の2シラブル化は、母音発声を明快にすることに役立つでしょう。

TやDなどの舌の反発を使う子音の場合、下顎は固定しておいた方が、引き上げ筋が働きやすいのです。
下顎を下ろしてしまうと、この働きが弱体化してしまうと思います。

最後に、これらの発声の根本はブレスと姿勢です。
姿勢は非常に重要で、頭の状態が動かない事と、まっすぐ胴体の上に載っている姿勢が大事です。
この頭の状態の姿勢が決まることで、喉頭関連の筋群の働きが促されるからです。

発声関連の筋群を働かそうと意識するのではなく、姿勢と呼吸が決まることで、必然的に発声に関わる筋群が働くという発想の転換が重要なのです。