2001年2月レッスンノート

レッスンノート目次
2月2日 | 2月4日 | 2月8日 | 2月9日 | 2月11日 | 2月14日 | 2月15日 | 2月16日 | 2月17日 |
2月18日 | 2月19日 | 2月21日 | 2月24日 | 2月25日 | 2月26日
2月26日

きょうはさわださん。上向の3度で軽く始めたが、声帯を合わせるあまり、口を閉じてしまい、喉の開きと軟口蓋の閉りが悪い。下降5度で喉の開きを促すように、軟口蓋を高くする発声練習。別に特別なことはなくて自分がやってみせる。ただし、この練習で気をつけることは、口を開くので舌が奥に引っ込みがちになること、軟口蓋を上げるために、口の奥が固くなってしまって、かえって喉を絞めてしまうことである。そして、音域にもよるが声は頭声と胸声の当てる割合を充分に考えること。喉が上がって頭声だけでは、俗に言う「白い声」になってしまう。喉の下のくぼみに軽く声を当てて胸声の成分を必ず意識して出すことが大事である。
彼女は、喉の暖まりが遅いのだが、基礎が出来ているので、喉を暖めてあげると、すぐに調子は良くなる。曲は、イタリア古典歌曲集から、Piacer d'amor モティフの部分の低声から中声にかけてが声が鳴りにくい。最初のPiacerのエの母音できちっと声帯の合わせを意識すること。
この曲をやる前に、曲選びのためレナータ・テバルディの歌う、ヴェルディのアリアをレコードで聞いたのだが、そのせいだろうか?tutto scorudaiの中高音部のメッザヴォーチェが妙に巧く行った。
曲を聞くことも、イメージトレーニングには役立つものだ。ただし、やり過ぎは禁物!レコードを聞き過ぎると現実と、夢の切り替えが出来なくなる。笑
そして、Gia il sole dal GangeもLasciar d'amartiもとても良く仕上がっていた。ほとんどこの辺の曲はOKが出せる状態になった。後は、本番のために覚えてほしいな。彼女の次回の目標は暗譜で歌うことだと思う。5月13日の発表会には出てもらうことにする。


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2月25日

今日も体験レッスン者。あきこさん。春から大学院に進むそうだ。大学で4年間合唱団に属していた。高校時代から合唱を始めているだけあり、音程や喉の開きはとても良い。ただ、発声を始めてみると息の送りや、横隔膜の使い方、声帯の合わせなどが、すべてに渡って小さくまとまっている。これは合唱団にいればある程度は仕方のないことだ。合唱は、声部で声質がまとまらなくてはならない。
一人の声が邪魔になることは許されないからだ。ただ、ソロとなるとそれが逆手に影響する。言い方は悪いが、聞こえない声は駄目だ。音楽性というものと、楽器としての声作りというものは相反する部分もある。どう擦りあわせていくかという難しさはある。
今日思ったことは、取りあえず喉の開きは良いので、声帯をしっかり合わせること、胸声の出し方を課題にする、ということ。声帯の合わせ方、イの母音の練習。胸声の当て方、喉の下のくぼみに声を当てること。腹筋は使い方が分かっているようだし、姿勢も悪くない。ただ、喉を開くあまりに口の開け方が固定的で、ややあごが固い。あごの開きは柔軟に。最初、特に低声部からあんぐりとあける必要はないと思う。イの母音で胸声を出す練習をやり、次にイからエ、そしてアの母音に響きを移す練習をやる。これもすぐに出来るようになった。ただ、いきなりアで始めると出し方がまだ分からないようだ。これは少しずつ覚えて、体に叩き込まないといけない。ただ、さすがに最近まで合唱でやってきただけあり、感は良いようだ。アの稠密な響きで高い声域まで持って行くと、2点ソまでかなりの良い鳴り方で出るようになった。曲は、アマリッリを歌ってみる。発音に少し癖がある。なぜか?アングロサクソン系のTの発音、アの母音も少し狭い。もう少し明るく前に発音すること。


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2月24日

新しい人がきた。あやこさん。今日は体験レッスン。
彼女も背が高く喋り声は低い。はきはきしている。ソフト開発の仕事をしているそうだ。日にちが変る時間まで働いて忙しくて忙しい中で、忙しさにうんざりしているらしい。少しは、ほっ…としたいよね。
早速声を聞いてみる。口が開かない。あごがやや固い。そして、舌が引っ込みがちだ。また、喋り声と比較して、やはり声が出ない。スカスカの声だ。しかし、低いところまで発声で出して地声を開発し上まで上げて声帯を合わせることを教える。腹筋の使い方、声の当て方、口の開け方など基本を教えて、イタリア古典歌曲集のアマリッリを歌わせる。ピアノを弾いていたので、譜読みは早い。
今の彼女にはやや高い音域だけど、しっかり腹筋を使わせると、意外と声は出るようだ。
地声で引っ張り上げる訓練をしなくても、高い声は結構使えるかもしれない。
イタリア語の発音を教えている内に、ひょっとした彼女の発音を聞いて、ふ…と英語を勉強していたのか?と思って聞くとアメリカに8年もいた、とのこと。耳は誤魔化せないものだ!笑
ヘンデルのOmbra mai fuを与える。これなら、地声の訓練の音域だから。
こうして、声楽的には未開発の人たちに一から教えることは、とても楽しい。大変だが進歩の結果が良く分かるし、概して初心者の人は素直なものだ。先入観念がないということ。
師匠のことは信頼してほしいもの。何よりも信頼感が進歩の大きな要素だ。

たにさん。風邪も治って今日は調子が良かった。
発声では、喉の開きと声のアタックの深いポジションを大事にした。元来彼女は声が良く鳴る方ではないのだが、美点としては、低い声で良く喉が開いている点にある。かえって鳴らそうとすると、声質の深さにとって大事な、ポジション、喉の開き、がつかみにくかったり、悪くなる。今日彼女の発声を聞いて最初に思ったのは、下降5度の練習で、低い声で自然に喉が良く開いていることを大事にすることだった。この開いている感覚を最初の高い音の時から使うこと。どうしても高い音を出す時に、その音で声帯を合わせようとするあまり、喉が上がってしまうのだ。それを押さえるために、喉を良く開き、深い場所で声をアタックすること。実はこのために、腹筋が必要になる。
このやり方で上まで行くとミの♭までは、相当良いポジションで声を出せるようになった。彼女は良く練習しているようだ。
腹筋が全然使えなかったのが、大分使えるようになっていた。ただ、瞬間的な腹筋はかなり使えるのだが少し長いスパンで使うことには未だ慣れていない。音程が変ったり発音が変ると、腹筋がすぐに緩んでしまう。腹筋が巧く使えると、たとえば胃の中がスースーするような感じになる。喉の開きと関係があるからだ。喉が開くこと、腹筋を使うことはリンクしている。
Dolce mio benというイタリア語で、ドーソーミードと降りる練習。最初のDoで声を胸にぶつけるようにしっかり腹筋を使って出す。この時、物を吐くように口をしっかり開けること、あごが上がらないように上半身を前に倒してやるのも効果的かもしれない。
曲は、リディアから。最初集中が悪く体が使えなかったのだが、すでに暗譜していると思ったので、楽譜を外してもらうと、たちどころに良くなった。目と言うものは、集中力と関係があるものだ。フレーズ毎に、問題点を見つけて直していく。一つ一つ良く聞いてすぐに直してくれる。ぼくが言いたいことをかなり理解してくれているようだ。次回にはこの曲もそれなりに、完成できるだろうと思う。
新しい曲、プーランクの「くじびき」から、1曲目「おねむ」をやる。これも、課題は同じ。声のアタックと音が上に飛ぶ際に腹筋を使って良く喉を開くこと。この曲をやりだすと、こちらの言いたいことはかなり理解出来ていることがわかった。あともう少しだな…ハートのクイーンも一回だけ歌う。


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2月21日

ともこさんが来た。今日は、バルバラを歌う。発声は軽く暖める程度に。しばらくすると、中音部の喉の締まりが緩んで、聞きやすい声になってくる。彼女は、胸声が結構出るのだがチェンジ前の音域で相当に喉が締まってしまうのが悪い癖だ。これは、本人の感覚と耳の問題で矯正されていくのをじっくり待つしかない。
バラバラのQuand reviendras tu?と言う曲は、低い音域をたゆたうように語る前半部と、美しいヴァルス風の後半部の2部構成になった曲だ。前半部の語りは八分音符に細かくシラブルがちりばめられており、これを下手なフランス語でぺらぺらやると、忙しくてせからしくていけない!笑
まず、ゆっくり練習する。低い声の響きを一定にすること。この場合口をパクパクとアルティキュラシヨンさせると、声がボコボコと不揃いになり聞き苦しい。口の開きは狭い母音の響きを基準すること。本人は口の開きが足りなくて、これではっきりした発音に聞こえるのだろうか?と訝しげだが、案に相違して実に良く分かるのだ。歌と言うのは、喋りと違うのはこの辺にある。声の質を一定にしてメロディラインを滑らかにすること、ひいては、音程が良くなるし声も良くなる。
そして、子音の扱い。Dis〜と後半の歌いだしのDの子音は心持ち早めに出すこと。このタイミングが難しいが、これは慣れと練習しかない。そして、息のタイミングが多いに関係ある。そして、言葉を語り掛けるための、いわゆる「タメ」みたいなものかな。
この曲をやっていて、思い出したのはマルレーネ・ディートリヒの「花はどこへ行った?」彼女の歌声のにある、だるいような、それでいて芯に強さのある女性らしさ、みたいな感じが表現できたら良いな。


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2月19日

さわださん、2週間ぶりだ。彼女も風邪だった。が、今日は調子が良かった。彼女曰く、痰がからむから首も顔も動かさないように注意したのだそうだ。だが、そうではないと思う。歌うことに対する渇望感があったのだと思う。何事も慣れっこになるのが一番良くない。お互いにハッピーな関係でいたいものだね。
発声練習で、地声の響きを上まで持って行く練習をする。2点Cのあたりで止めて、あきらかに地声を意識して声を出すと、声帯や口の中の感覚はどんな感じになるのか?答えてもらった。彼女によると喉に力を入れるのだそうだ。後は腹筋にも力を入れるとのこと。まさに、その通りで、喉にも力を入れることをある程度はした方が良いのだ。何も分からない内から喉の力を抜くと言っても、力の使い方がわからなければ抜き方も分からないのだ。
良く地声は良くない・・・と言われるが、この場合の地声とは、何もしないで喉声で叫ぶ声のことである。地声=胸声と思われていることがあるが、これは誤解である。
ポップスの人たちの地声は地声そのものが悪いのではなく、その声の響かせ方がクラシックと違うのである。
適度な地声と、息の混ざった声とのミックスで美しい響きのある声が出来て行く。
彼女の場合は、声帯が大きくて比較的太い声が出る。このままもっと開発していけば男性のカウンターテナーのような、独特の魅力あるアルトかメゾになれる、そんな可能性を持った声だ。
曲は、イタリア古典歌曲集からL'asciar d'amarti,この曲は大分出来てきた。中間部で言葉が多くなると途端に、自信がなくなる。彼女は言葉が苦手だ。もう少し言葉をいい加減に扱うやりかたを身に付けてほしい。一生懸命アーティキュレーションしようとするのだ。発声の基本が出来ていたら言葉は口先で処理するように。特にこういうイタリア古典は、旋律の美しさが命だから。
ガンジスに陽は昇る。これは、かなり良かった。最初の1点Cの低い音をしっかり響かすこと。Pの表現を教える。出した声よりも、もっと中に込めて、息を混ぜるようにする。声を小さくしても駄目だ。


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2月18日

たにさん。風邪を引いたらしいが、声にはほとんど影響がなかった。発声練習に30分以上使ったが喉が上がらないようにするためには、イの母音が良いこと、同時に声の当てる場所として、喉の下やうなじを使ってみることを教える。それから口の開け方、喉まで良く開いた口の開け方を教える。
もう一つは、胸声の出し方。腹筋を使って胸に声を当てる練習。最初から高い声でやらずに、低い声のポジションを確認してから、オクターブ上の声でやってみること。
胸声は声のオリジナルだ。これが会得できないと響きのある声を出すことは難しいというか、ほとんど無理だろう。男性も女性も同じである。
胸声の最初の訓練段階では下手すると、叫び声を出してしまうかもしれないが、何も出ないよりは叫び声が出る方がまだよろしい。なぜなら、出ないものはやりようがない!笑
いや、冗談ではなく声楽は非常に洗練されたパフォーマンスであると同時に、もっとも原始的な肉体訓練を必要とするからだ。
曲は、フォーレのリディア。出だしの胸声は注意すればほとんどうまく出せるようになった。とても良い声である。上背もあるし声帯はそれなりに大きいのだ。私の指導もあるけど、本人がその声を良い…と認識することが上達の秘訣である。本人の弁によれば…女々しくない声!実にうまい言葉だ。
正にその通り!この美意識を確実に育ててほしい。
課題は、やはり1点Cくらいから高い声域までどうやって胸声を引っ張り上げることが出来るかどうかだろう?気をつけないと、すぐに声帯の状態をゆるゆるにしてしまい、不用意な声が出てしまう。
今日は、大分注意して一曲をやったので、かなり出来るようになった。
今後も忍耐強くこの訓練を続けてほしい。
新しい曲を探すために、私がフォーレやプーランクを歌ってみる。フォーレのLa bonne chansonを美しいと言う。珍しい!だがピアノが好きな人、あるいは器楽曲の愛好家は、おそらく誰もがこの曲を美しいと思うはずだ。一般的には声楽家は、こういう曲はあまり評価しないし、歌おうとしない。
フランス歌曲の難しさは、このように古典的な声楽家の快楽のつぼを刺激しないという点にある。笑
だが、私としては実に教えがいがある。


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2月17日

きょうは、体験レッスンで、たにむらさんという方が来た。普段はお勤めをされているけど歌が大好きな方だ。家では大きな声でミュージカルなどを歌っているそう。
顔の形や首の感じは結構パワフルな声が出せそうな感じ。良い声が出る体型や顔と言うのはあるものだ。骨相というのだろうか。
さて、実際に声を出すと確かに低い声は男性の声域のDくらいまで出る。地声が強い。ただ、地声が出せなくなる声域から上が完全にしゃがれてしまうか、鳴らなくなる状態だった。2点Cから上が非常に苦しい。声のことを聴くと、あたし喉が潰れてるんです…と本人はおっしゃる。どうも声帯の形が左右で不揃いらしい。それは実際に耳鼻咽喉科で見てもらうことだ。ぼくの聴いた感じは、良くポップス系で地声でガンガン歌ってる人のそれである。ポリープが出来ているのをそのままにしているのかもしれない。ただプロでもそんな状態の声帯をうまく使って、逆に良い声を出す人もいるから、一概に悪いわけではない。ただ、その道に詳しい医者にみてもらうことは必要だろう。

取りあえず、あれやこれややってみるが、イの母音だととりあえずFisまで行けた。そして、更に声のアタックを教えて、喉と胸の間の部分に声をあててやる方法が一番旨く行った。母音としては普通のアだと高い声はまったく駄目になる。Lの母音に舌の形でやると、うまく行く。喉の下のアタックと、Lの舌の形でやると、2点bまで行けた。
アマリッリを歌ってみる。これはクラシックでは高い音域ではないが、素人には高い。案の定喉が上がってうまく行かない。
そこで、1オクターブ下の音で譜読みをする。そして、元に戻すが、その際に充分注意して胸から腹にかけて声を広げるように声をアタックすること。
このやりかたは、成功した。まだ完全ではないが、本人が納得したことが一番の証拠だ。
とても楽しめたようで、これからも来てくれることになった。楽しみな逸材だ。


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2月16日

たむらさん。今日は声に力がついていた。声を出すことに集中できたという感じ。発声練習からそんな積極的な空気がなんとなく伝わると、こちらも嬉しい。逆に、集中できないのが目に見えるとこちらもやりにくいものだ。
呼吸法から始める。身体が疲れているようだったので柔軟体操をする。前屈、と腕を高くあげて上半身に適度な緊張感と、弛緩を与える。胸の筋肉は緩み過ぎると胸郭が閉じてしまい肺の運動が不活発になる。胸郭の開きと横隔膜の釣り下げを同時に行えるように、胸郭から腹部にかけて常に伸びやかな筋肉が使えるように意識出来ると良いな。
下降と上向の組み合わせ、そして同音でイエアの発声。まだ、喉に力が入りやすい。特に低音で声をこもらせてしまう。こういう場合逆にわざと平べったく、鼻声になるくらいにして、イの母音、たとえばミミミで発声をしてみる。
後は、腹部の使い方で声をアタックする方法を教える。みぞおちから下の部分で息を少し送る感じ。
全体的にもう少し声が前に出るようになると良いな。
曲は、イタリア古典歌曲集の「アマリッリ」少し妙なポルタメントの癖があるが、取りあえずは声を出すことに集中できたから良いかな。最初の声のアタック、要所要所の高い声のアタックで腹を使うことを徹底的にしてほしい。ニュアンスとかそういう細かいことは現在のところは考えなくてもいいと思う。

今日のレッスンとは関係のない話だけど、声楽でも器楽でも教えていて大事なことは、本人がどういう感覚でそれを行っているか?どんな音がしているか?何をしたらそうなるのか?ということに関するフィードバックである。どこまでいってもやるのは本人なのだ。ぼくが言ってその通りになるのは良いことだけど、その時の感覚をつかむのは本人だからだ。
だから、ぼくは何かをやらせてうまくいってもうまくいかなくても、「どうでしたか?」と問い掛ける。
本人は言葉で答える。
この作業を繰り返して、本人は言葉でも身体でも自覚を積み重ねて行くと思う。
さあ、わかりませんね。何もわかりませんので…といわれるとがっかりする。


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2月15日

からしまくん。
声は安定してきた。少々風邪気味の声だったが、低い方も太くなってきた。発声練習は下降5度でゆっくりと始めて上向でFisまで。2点Fくらいまでは、アペルト(開いた)な出し方で良いのだがそれ以上は無理だ。それに出せたとしても叫び声になる。少し口を閉じ気味にして声を当てる場所を変えることを教える。脳天か後頭部に向けて当てるように、あるいは鼻母音気味に鼻腔に響かすように。要は声帯を細かく振動させる必要が出ることと、そのために声帯をしっかりと保持させるためには、それまでの音域と違うことをしなければいけないということ。
煎じ詰めれば、声という楽器の調律をどう行うか?という感覚の問題だ。前回も書いたが、最低音部そして中音部、高音部と3段階くらいに分けて声の調子を見ること。そしてこれが大事だがその音域の変わり目をどう無理なく処理するか?ということだ。
声楽家でもソプラノとテナー以外は大体2オクターブの音域があれば、充分なので、その音域の音質を下からまで滑らかに、音質の変化が出過ぎないように声を作っていくことが、声楽家の仕事だ。

さて、呼吸だがやはり下腹部を突き出すように息を入れているようだった。それなりに慣れると安定するのだが、大事な横隔膜前部の筋肉が使えなくなり、声のアタックがしずらくなる。声の出し始めが音が下がり気味になり、また音の出だしが遅くなる。
これは、背筋部を使って後ろに引っ張るように息を入れた方が良い。そのことで胸郭が上がるし、横隔膜も適度に下がって、肺に息が良く入ると思う。

曲は「夢の後に」から。発声で出ていた明るい良い声が、言葉がつくと、こもって暗くなる。
これは、フランス語のせいでもある。フランス語は狭い母音が多いのでなんとなく口の開きが悪くなるのだ。言葉に左右されず声のポジションを維持し、その上で言葉、母音、子音を処理すること。
まずは、広い母音だけでもしっかり広く出すこと。このことだけに集中するだけで随分良くなった。
2曲目の「ゆりかご」もそうだ。出だしのGrandのアの鼻母音は低い音だが充分に喉を開いて、胸に軽くしかし深く響かせるように。
モラーヌが良く言っていたが、鼻母音は胸に響かせる感覚が大事である。彼に教えたらとても うまく行った。
しかし、一番問題なのはぼくが忠告してその通りになったとしても、それだけでは何もならないということ。問題は、出来た事の結果を彼なりに理解して実行できるためには、どういう作業をすれば良いのか??彼自身が答えをみつけられるように、ぼくが指導しなければいけないということだ。


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2月14日

たかはしさん。2週間ぶりだったが、どうしてどうして良く声が出ていた。
今日も、リラックス発声を心がけた。ゆっくりと、そしてたっぷりとしたブレスでゆったりと発声に時間をかける。20分は続けてやる。下降形と上向形の5度、オクターブ。

この中で、オクターブには意味がある。初心者に一番難しいのは、声域の中で1点シくらいから声区が変化するのだが、その際に喉が上がってくる。これをなるべく押さえてそれまでの胸声区の響きと劇的に変らないようにするテクニックが大事である。あまり押え込み過ぎると、今度は音程の低いぶっとい声になってしまって、これも駄目だ。
たかはしさんの場合は、これがもっとも過大である。彼女はこの声帯のコントロールがなかなかつかないのだ。そのために、高い声を出すとすぐに声枯れが起きてしまう。
あごが上がらないこと。首の骨を胴体の背骨上にまっすぐに立てるように。このためにはややあごを引くような感じを取る。

イメージとしては、高い声に飛ぶ際に素直に飛ばないで、飲み込んでしまうように出す。あるいは口をしっかり開いて、喉の奥で鳴らすような感じ。
発声練習では出来るのだが、歌になると出来なくなる。ブレスに余裕がなくなるからだ。
曲は、プレヴェールの「バルバラ」最近フランス語を習っているせいか発音がすごくはっきりしてきた。
ただ、今度ははっきりさせるあまりにあごをパクパクさせて声のレガートが出来なくなる。
集中力が発声よりも発音に行ってしまうので、ブレスも浅くなってしまう。

フランス語の発音は言葉の発声と歌声の発声の間の違いを理解してほしい。言葉は常に前に前に発声するが、歌の場合はケースバイケースである。ユとかウ、イなどの口蓋母音は、言葉では非常にはっきりと前に発音するが、歌の場合は必ずしもそうとは限らない。レガートやダイナミークによってはこもったように出さなければならない場合もある。
ブレスを充分に意識してゆっくり練習すること。

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2月11日

ゆうこさんがきた。今日もたむらさんと同じやりかたで呼吸を教えた。そのせいか、ブレスが短かった彼女の欠点が大分改善された。集中力も増すのかな…分からないが今日は集中力もすごく良かったような気がする。発声練習の前の呼吸練習は、やはり効果があるようだ。心の落ち着きと肉体の程よいリラックスは発声、歌の前には欠かせないものだ。
曲は、ベッリーニ。Vaga luna che inargentiブレスが長くなって、ワンフレーズで出来なかったところが出来るようになっていた。声も前に良く鳴っている。
彼女の声はやはりイタリア物が合っていると思う。声が前に良く鳴るし、声質に暖かみがあるからだ。勢いを駈ってVaga lunaをやる。これも一発でうまく行った。うまく行ったので、テンポの設定を少し自由にしてみる。最後のページのTuの母音がやはりまだ、喉がつまってしまうようだ。
元々良く開いた発声なので、狭母音になると、出し方が分からなくなるのだろう。
ともかく、この2曲は合格!次はロッシーニをやろうか?

たにさん。彼女も呼吸の練習から始める。彼女はブレス自体は短くないのだが、上半身がやや固い。発声練習は、下降の5度から始める。このパターンはリラックスして出来るので、声の出し始めにはとても良いと思う。
さて、声を出し始めると、オヤと思うほど低い声が響いている。決して地声ではないのだが、地声が混ざってきれいな響きになっているのだ。前回初めてのレッスンでは、まったく地声が出せなかった低音部から中音部が驚くほど良くなっていた。良く練習をしたらしい。
ただ、チェンジしてから上の声が、やりにくそうだ。声帯をきちんと張ることを要求する高い音域になってからの身体、顔、あご、口の開き、首の張りなどの訓練がかなり必要みたいだ。
曲はリディア。出初めが胸声域で始り、2点ミの音まで上昇するので、そこまでとにかく我慢して下の声で持って行くこと。途中で低い音に降りる場合、しっかりそのあるべき低い音に降りる意識がとても大切である。
2ページ目の頭から高い音域に入るが、この最初のLeの1点Cの音で身体をしっかり支えること。あごを前に出したくなるのだが出してはいけない。あごを引くこと。そのことで声帯をしっかりと保持させるきっかけをつかむこと。イメージ的には1オクターブ下の音を出す声帯のポジションでそのまま実音を出す感じ。そしてがいしてあごの開きが少なすぎる。あごを開いて口を開けない方が音程感がつくのだが、喉を開くきっかけがつかめないし、胸の筋肉も使えなくなる。
この声区の変わり目から上の声をきれいに鳴らして楽に出せるようになるには、かなりトレーニングと
我慢が必要である。しかし、良くついて来てくれるので、大分きっちりとレッスンすることが出来た。CDなどで聴く歌声と自分が出す声との落差に困るという話をした。これは良く初心者が陥ること。
CDの音は、ホールの響いた音を拾っていることを考えなければいけない。それ以上に自分自身が声を出すことと、耳で他人の声を聞く…という作業の間の大きな違いを良く分からなければいけない。
あの美しい美声を響かせている彼女や彼らの肉体の中はとてつもない戦いをしていることを知ってほしい。でもこれからが楽しみですね。

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2月9日


たむらさん。発声練習をやると少し口の開きが硬いのと上半身の固さが見える。
手をバレリーナのように前に軽く上げながら息を楽に吸う練習を5分以上やる。この時手を上げる、あるいは手を使うことが大事である。そのことにより、逆に上半身、胸の筋肉がリラックスして楽に胸が開く。良く腹式呼吸というが、腹に息をためるのではなく、当然胸にも無理なく息が入ることが大事である。そのことで腹部の筋肉に適度の緊張状態が生まれて、これから行う歌うための筋肉の準備状態になるのである。このことが出来てない人がとても多い。いわゆる、上半身が死んだ状態になっている。
声を出すということは、体のエネルギーが声になって飛び散るという感覚だとすれば、身体そのものがそういう活力の溢れた状態になっていなければならない。表面的には非常に静かであるが身体の筋肉はバネを巻いた状態になっていることが理想である。ただ、巻き過ぎはいけない。
さて、歌はボサノヴァをやってみた。元の楽譜のキーが低いので、もごもごと楽に歌えるが身体を使った声の出し方には程遠い。伴奏も難しいのでうまくいかない。Corcovadoでどうにかどうにか!笑
楽譜の編曲が必要だろう。
彼女に関しては、間で練習が出来ないので気の毒だが、それにしても声を出すことのイメージが未だ出来ていないようだ。まず自分がイメージを持つことが大事である。たとえば、結果的に汚い声になっても、もっと声を出したい!と思えば自然と声が出るようになるのだ。多分彼女は声をしっかりだすことよりも息をしっかりさせて、レガート(なめらかに)で癖のないビブラートの範囲の柔らかい歌唱が肌に合っているのだと思う。今後は、そのことを留意して教えていきたい。


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2月8日

からしまくん。
発声練習から、おや・・・と思わせる練習の成果。こうやってレッスンを重ねていって各人なりに工夫や練習の跡を見せてくれる時が一番うれしい。その結果に多少難があってもそれは二の次なのだ。問題は鍛練しているということの証が大事なのだ。彼の課題はバリトンとしてどう楽器作りをしていくのか?ということ。たとえば、約2オクターブくらいの音域の音色をどう作っていくか?まろやかで良く響く低音、ノーブルな中音、男らしさを忘れない高音、、、というように3つの音域で声の音色を考えていく。前回私が言ったこのことをそれなりに発声練習で見せてくれた。低音部はやや鳴らし過ぎであるが、相対的に良くなっていた。鳴らそうと思うあまりに、喉を硬くしてしまうのが良くない。
曲は、前回の「夢の後に」から。発声練習で見せた、しなやかさが歌になると、消えてしまう。それは歌おうということに、力が入り過ぎるからだ。歌う前に楽器としての自分の体のコントロールが出来ているか?という冷静な姿勢が大事である。
彼の場合は、腹筋部のしなやかさを得ることと喉の硬さを取ること。声のアタック(出し始め)の際に必ず腹部、横隔膜の動きによって声をアタックすることを忘れずに。その時に当然姿勢は良くなければならない。首の前部の筋肉を楽にすること。低音部はやはり鳴らそうとするあまりに、喉をつめて品のない響きになってしまう。HelasのFの声はバリトンらしさ、男らしさを失わないように、声のポジションを上げ過ぎないように注意すること。
新しい曲は、Les berceaux「ゆりかご」発音だが、Jやgeなどの発音をイタリア語のヂュにならないようにあくまでジュである。濁点は一つくらいというニュアンス。笑
これも口先で小細工した歌になってしまっている。息をけちらないで、必ず腹筋を使い息を声に乗せるようにしてほしい。そのために息が足りなくなっても良いのだ。

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2月4日

昨日は豆まきをした。関係ないか…笑
きょうは風邪のせいで頭がもうろうとした状態でレッスンだった。しかしレッスンをすると頭がしゃんとするから不思議だ。これを書いている今はまた、もうろうとしている。笑

今日はみむらさんから。彼女は最初から良い声を出していた。ただどうしても2点Fくらいからポジションが高くなってしまうので、喉の開き方を教える。Lの子音を出す時に舌先が上顎に付く。このままの状態で発声練習をする。まだ完全ではないが2点Gくらいまではしっかりした声になりつつある。
曲はLascia ch'io pianga.Recitativoの基本はまず、In tempo。Signorのところから少しゆっくりとEspressivode歌うようにすること。曲の出だしが決まりにくいが、これもうまいことに子音がLだから充分にLの準備をして喉の下から声が沸いて出るように意識すること。体が高い声を出すとどうしても浮きあがってしまうことを注意すること。今後もこの曲で、発声をきっちりさせたい。
しかしヘンデルのこの曲は実にノーブルで良い曲だ。あらためてこの職業をやっていて良かったと思う瞬間である。

ゆうこさん。彼女も2週間ぶり。ゆっくりと発声練習をやって息を整える。彼女の場合も2点Eくらいから声が逃げてしまうので、Lの子音を使った練習をする。すぐに分かったようで輝きのある声が出るようになる。みなそうだが、普段練習が出来ないので、一度やってもなかなか身に付かないのだが、これも致し方ないだろう。ゆっくりとやっていくしかないのだ。
曲は、ベッリーニ。Vaga luna che inargentiでは、フレーズの終わりの長い音符を伸ばし過ぎて、次のブレスのタイミングを逃してしまう。そのことで、ブレスが苦しくなってしまうことを注意。
Vanne o roza fortunataでは、高いFくらいから上の声をLの子音で意識した喉の下に声を当てることを注意。このFあたりのやや高い音域の声がしっかりして、輝きのある声になる。
この喉の開きは大事である。特に高い声でウやイなどの狭母音を歌う際、どこに声を当てればいいかわからなくなる時に有効である。

新しい方。たにさんが来た。
彼女は、ピアノを長くやっていたせいか譜読みが早い。ただ、声の使い方がわからないので発声をしっかり教えたい。そして専門がフランス語なので、フランス歌曲を教材に出来るのが個人的にうれしい。早速フォーレのリディアを使って始めた。
最初に発声練習から。彼女は喋り声が軽い声なので、まず声帯をきちんと使うこと、地声の訓練から始める。声が暖まるととりあえず2オクターブ出るので、特に声帯に問題はなさそうだ。また、体もそこそこの体格なので訓練するとかなり声が出るようになるだろう。
最初はスカスカの声で歌い出したが、Lの子音で喉を開くことを教えたら、驚くほど低い声が鳴るようになった。実に素直に聞いてくれるので、上達は早そうだ。ただ、腹部の筋肉は未発達のようなので少し腹筋などは鍛えた方が良さそうである。
個人的には、未発達の人を育てるのは楽しみである。なぜなら可能性が未知数だし、がいしてこういう方は素直に聞いてくれるからだ。

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2月2日

たむらさん。レッスンをはじめたばかりだし、2週間、間が空いて最初は調子がつかめなかったようだ。発声を始めたら首も胸も肩もカチカチに固まっていた。姿勢を安定させるためか、身体の重心を後ろに倒して応援団式の発声になっていた。そこで、楽で自然な呼吸法だけをすこしやった。普通の深い深呼吸である。この時に呼気(吐く息)を音を出して一定にゆっくりとリラックスして出すことがこつである。
吸気(吸う息)の際はあまり力を入れ過ぎない様に。
発声で一通り喉を暖めてから、曲をやる。イタリア古典歌曲集の「アマリッリ」を歌ってみる。前回、バルトリのCDを貸してあったので、譜読みは大分出来ていたが、まだリズムの理論が完全には呑み込めていないようだった。
腹直筋(下腹部)がまったく使えていないので、教える。それと、あごが上がってしまうこと。
たむらさんは、バランスの良い体型だけどやはりまだ、下半身がしっかりしていないので上半身にかなり力が入ってしまう。そのために、腹直筋がまったく使えていない。
レッスンでも話したが、発声の基礎は相当にスポーツ的である。大事なことは姿勢と筋肉の使い方の基礎を充分に身につけること。そして何のためにそういう基礎に時間をかける必要があるのかを自覚すること。簡単に言えば、そうなりたい、そうありたい…という目的意識の確立が一番大事なことだ。

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