ミックスボイスは、フランスオペラが出自だ、というようなことがWikipediaに書かれていましたが、実際、伝統的なVoix mixteは、19世紀初頭の声楽家の時代ですから、その歌声を聴いたことがある人はいないのではないでしょうか?

フースラーの著作「歌うこと」によれば、Voix mixteで有名な歌手は、マヌエル・ガルシアという人で、その師匠は去勢歌手のアプリーレという方だそうです、
ここから類推するに、実際のVoix mixteはカウンターテナー的な用法に近い声のことではないでしょうか?
そうやって考えてみると、本来のVoix mixteは、低音域は実声だが、その出し方に工夫があって、バリトン的な声ではなく、芯があるが細くピッチの高い響きである。
そして、そのまま自然に支えのあるファルセットに移行して最高音まで持っていく、というイメージではないでしょうか?

このWikipediaに、我が師匠のモラーヌの声がその典型である云々、という記事を見ましたが、これはVoix mixteとは別物だと思います。
モラーヌやスゼーのこの声の出し方は表現の一つとして使っているのであって、低音から高音域までこの声で歌っているわけではないです。
また、強声で歌うときは、Wikipediaで書かれている、現在もっとも普及している意味でのミックスボイスである、声の変化を出さないで換声点以降まで声を持っていく発声も出来ていました。

ついでに書いておくと、スゼーのVoix mixteと呼ばれるものは、モラーヌのそれとは違って、一般的にいうファルセット的な歌い方でしょう。
これは、明らかに違うと思いました。

Wikipediaに書いてあったVoix mixteの典型としてのモラーヌの声がどういうものか?というと、ファルセットではない出し方だが声帯が開いた響きで、声の芯があまり感じられずに、息で声の響きが共鳴しているような響き、と言えばよいでしょうか。
この「共鳴」と言う言葉もアバウトですが、倍音の強い芯のある声質ではなく、息混じりのふわっとした芯の強くない響きです。
直線的にキーンとなる響きではなく、ふわーと周囲に広がるような響き方です。

私の認識では、Popsのミックスボイスは、段差のあるファルセットに替えて換声点より上を歌うやり方ではなく、胸声区の出し方をほとんどそれと分からないようにして、頭声区の高音に持っていくこと、ではないのでしょうか?

このためには、そもそも地声、という固定的な見かたで胸声区の声質をとらえるのではなく、胸声区の声質にも頭声的要素が混ざり得るということが分かって、初めてわかる(出来る)ことでしょう。
胸声区の声が力強く頭声の混ざりがほとんどない場合は、どうやっても限界点が出てしまいますから、当然限界を超えたときに声を裏返さざるを得なくなる、と言う理屈です。

ところが、胸声区自体がそれほど強すぎないで柔らかさとしなやかさを内包した出し方をしていると、実は換声点近くなると自然に換声する、あるいは換声のさせ方が自然にわかるようになるもの、と考えています。
実は、私は若いころは主に洋楽もの、特にSoul,Jazzを聴くのが好きでしたが、今では演歌やJPop、もちろん世界のPops何でも大好きで、良く聞いています。

ところで、演歌の世界に島津亜矢さんという歌い手さんがいますが、この方の高音発声などミックスボイスの典型ではないか?と思います。
日本人Pops系には珍しいですが、実は民謡の世界では一般的ではないでしょうか?

民謡と言えば、沖縄や鹿児島など、南方の民謡は高音をわざと裏声にするのが、一つのスタイルとして確立していますね。
それに比べると、東北の民謡歌手の声は、高音まで響きを変えないで続いていく傾向が強いと思います。
津軽の民謡などに、それを強く感じました。

美空ひばりさんのことを、先日テレビで某有名歌手さんが、高音になっても声の変化が出ないのが素晴らしい、というようなことを言われていましたが、私はこれには疑問を感じました。
美空ひばりさんの歌声の良さは、高音を非常にきれいにチェンジさせる歌い方で、換声点辺りから上はむしろほとんど女性のクラシックの声に近かったと思っています。
逆に中低音の声は、地声成分の強い声の出し方で、この声の段差の使い分けの上手さ、が日本人受けする歌声キャラクターに大いに寄与していたと思われます。