声楽の演奏は、基本的にPA(拡声器やマイク、アンプなど)を使わないことが原則です。

しかし、昨今はPop系の方もクラシック系の楽曲を演奏することが多くなってきました。
Popの歌手の方々が声楽作品を歌ってはいけない、という法律や不文律なども、どこにもありません。

ライブハウスは小さいですが、残響や響きの質と併せて、PA利用前提の楽器とのアンサンブルになった場合は、PA利用が必然となります。
ただし、この場合はアコースティック(生)な音楽の響きの豊かさは、消滅してしまいます。

一方、クラシックの名歌手などが行う大ホールでのリサイタルや野外劇場など、特殊な場所でのコンサートではPAは当然使っています。
極力PAの拡声の出力を落とし、なるべく自然な音場を再現しているようです。

かつて、パリのサル・プレイエルという1000人以上収容できるホールで、往年の名歌手フィッシャー・ディースカウ氏のシューマンの「詩人の恋」を聴きましたが、マイクを立てていました。悪い効果はほとんど認められませんでした。
声を張り上げない、歌曲向きの発声による詩的な歌声を、1000名以上の聴衆が固唾を呑んで見守る中を彼の至芸が成立出来た、と言う意味でも大成功の名演だったと思います。

本来、ピアノ伴奏による歌曲演奏と言うものは、どんなに大きくても2~300名以内のホールで行われるものですが、有名人などの興行上の理由で、大ホールで行わざるを得ない場合、PA利用による公演は当然の成り行きではないでしょうか?

だからといって、発声をPA向きにして勉強する必要はないでしょう。
しかし歌手にしてみれば、PAのまったくない1000名以上収容の大ホールで歌う場合と、PAがある場合とでは、発声の余裕が違うでしょう。

余裕があると、表現力に幅が出ます。
余裕が、芸術的な演奏に寄与するならば、現代のようなテクノロジーが進歩した環境では、PAの使用は積極的に認められる要素になると考えます。