声楽と歌の違い、というのは声の出方ということに集約されると思います。
まずここでは、「声楽」の定義を、欧州で伝統を積み重ねた古典的な音楽で作られた歌の歌唱法、ということに限定します。

仮に声楽としての発声が未熟でも、マイクを使わないで演奏は成立するかしないか?と問われれば、成立するでしょう。
200人くらいのホールでも音程が良く明るい声であれば、という条件付きです。

しかし、声楽を訓練した人と未熟な人との違いが大きいです。

そこで、声量という言葉と、響きという言葉の使い分けをしたいと思います。
声量というのはふつうの声の音圧が大きい感じですが、響きは音圧がなくても声に芯があって良く通って来る感じです。

楽器の響きをイメージしてください。

バイオリンやチェロ、あるいはクラリネットやオーボエ。
そばで聴いてとても大きな音には感じませんが、ホールで聴くと驚くほど良く響いている、と感じるはずです。

声楽の歌声も同じです。
つまり、楽器としての完成度が高いということです。

私たちは、普段、声を使って喋っています。
そして、訓練を経ないでも歌えることは歌えます。
しかし、この歌声は、いわば喋り声の延長線上にあるわけです。

声楽の歌声は、この喋り声の延長線上から脱して、新たな歌声というものを作り直す必要があります。

一般に歌が上手い、という場合は、歌詞発音が明快で、その歌詞の内容とメロディの情緒が上手く溶け合って一つの表現になっていることを指すのだと思います。
しかし、声楽の場合はこの「歌が上手い」以前に、声の楽器としての完成度の高さが必須なのです。

良い声、良い声質、という要素があった上での歌の上手さが活きてくるのです。

アマチュアの方であっても、声楽をものにしたいと考えるならば、この点だけは必ず抑えていただきたいと考えます。