夜の部

夜の部は、年数を重ねたメンバーの多い発表会になりました。
各々、入念に練習とレッスンを重ね、曲を何度も歌い込んで本番に良い結果を残せたと思います。
難曲に挑戦し、やり遂げた人の達成感もまたひとしおだったと思います。
あるいは、調子を悪くしながらなんとか本番に到達した人も無事終えて、ほっとしているのではないでしょうか。

印象に残ったことは、当然ですが、教えたことを忠実に守ってステップを踏んだ人の成長の跡が良く見えたことです。
これは私にとって、とても嬉しいことなのです。

発表会は、皆さんが精進を重ねて結果を発表する場であると同時に、私にとっても指導における自分のスキルの進歩が試される場なのです。
その意味では、今回の発表会では、自分が経験を積んできた結果が良く出るようになった、という満足感が得られるものになりました。
また、皆さんも発表会の意味を良く理解してくれて、目先の楽しみ以上に、歌うテクニックの向上に向けて、
同じ曲を何度も何度も練習してくれたことが大きかったと思います。

次回はまだ決まっていませんが、そろそろオペラの抜粋で1ステージやりたいな、と以前から温めている計画の実行と、
去年やったようなジョイントコンサートをまた別メンバー構成で秋に出来れば、と考えています。

皆さんお疲れ様でした。そしておめでとうございました。

各出演者の感想(イニシャル)
FT TA OM 
IS GH SM 
MM HA SNM
YC MT TC

FT

今回の発表会までの訓練のコンセプトは、最終目的として良い高音発声を目指すが、そのためには良い中低音の響きを追及することでした。
その意味は、なるべく歌っていて喉のリラックスを得られるように、ということです。
1曲目は緊張があったでしょうか?やや遠慮勝ちに聞こえた点が惜しかったです。
2曲目はピアノの前奏のテンポが軽くなってしまったのが惜しかったです。これが決まっていれば、印象は大分違ったでしょう。
3曲目トスティで、声を取り戻したように思いました。これは素晴らしい演奏になりました。
声は、しっかり鳴らさないと出ていない、と思いこむものですが、その点で喉そのものに頼ってしまう歌い方が残っています。
軟口蓋を使うことと声のポジション、声の出し始めで高くなってしまわないことが、とても重要なことなのです。
これは訓練を積み重ねるのみです。このことが完全に判るまでは、もう少し今回くらいの音域で歌う練習を続けると良いと思いました。
おめでとうございました。

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TA

高いモチヴェーションで難易度の高いアリアを、見事に歌ってくれて、心から拍手を送りました。
テンションの高さと抑制した表現の差が良く出せていました。
歌詞の意味を良く味わって、気持ちで歌う表情が良く見えていました。
音楽的なテンションとしても、演劇的な要素が強く影響していたと感じられる歌になっていました。
発声的には、大分口の開き方に無駄がなくなりましたが、まだ鼻腔の響きが未完成なので、声を抑えた時に、響きの通りが悪くなる感じがあります。
発音を自由にコントロールして、かつレガートな歌声にするためには、この鼻腔の発声を覚えて行って下さい。
声の換声点前辺りで、更に美しい高音が出来るでしょう。
それから、中音域ももっと声の響きを追求して、目の詰まった密度の高い響きを目指して下さい。
発音の美しさやその結果でノーブルな母音の響きや表現の域に達する子音の扱いなど覚えられれば、更にレパートリーが拡がるでしょう。
おめでとうございました。

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OM

今回は、この2曲にしぼりこんで本当に良く練習しました。
彼女は決して器用なタイプではないですが、一歩一歩確実に努力して進歩しているんだ、ということが良く判る演奏になりました。
中音域も、ようやく音程と声の芯が一致して、音楽的な歌が歌えるようになって来ました。
フォーレの歌曲の中音域では、きれいにビブラートがかかって来たことや、喉が開いて来た響きが聴かれたのは新たな発見でした。
こちらが教えたこと一つ一つを一所懸命やってくれたようで、この曲が持つ喜びの表現が歌声から伝わるものになっていました。これは大きかったです。
発声はこの方向で今後も頑張ってください。この曲で惜しかったのは、最後の最高音がファルセット成分が強くなってしまったことでしょうか。
これが出来ていたら完璧でした。
ラクメも、彼女の出来の中ではハイレベルだったと思います。
冒頭の歌い方から、涙ぐましい努力の跡が良く見え、最初から最後まで教えた通りにやってくれました。良かったです。
鐘の歌の部分も、メタリックで鐘のような効果がある良い声質になっていました。最後のトリルやメリスマも、丁寧に決まっていました。
後半から喉の負担が出たのでしょうか?声の切り替わりが気になったのか?発声を考えるあまりか?顔が下を向くことが多かったことです。
顔は、演奏を表わしますので、視線や顔の向きには注意されてください。おめでとうございました。

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IS

今回、ヘンデルのアリアとモーツアルトの歌曲の2曲を本当に良く練習したと思います。
やり始めの当初、特にヘンデルは発声が定まらない感がありましたが、本番の直前からぐっと良くなりました。
当初は換声点の直後の音域で、喉が締まって苦しい発声になり勝ちでしたが、レッスンを重ねて歌い込むに連れて力みが取れたのか、楽に響かせる高音発声になってきたと感じました。
モーツアルトは慣れないフランス語の歌への挑戦でしたが、素直な歌唱で好感が持てました。
発音に悪い癖がないので、違和感がありません。
ただ、響かせる意識が強くなると、ピッチが少し低目になる点があることは、今後も注意してください。
鼻腔の共鳴を意識した発声が出来ると、ピッチと声質の一致が出来るようになると思います。
中田喜直の日本歌曲「むこう、むこう」は、曲のキャラクターと彼女の素直なキャラクターが一致して、良い歌になったと思います。
ポルタメントは効果的でしたね。この曲に限らずポルタメントを表現の一つとして使えるようになって下さい。
これからも、このようなシンプルな日本の歌をたくさん歌ってください。おめでとうございました。

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GH

シューベルトの「冬の旅」をずっと勉強して来ましたが、今回で最後の3曲となりました。
これらの歌曲集は、一見地味な声楽作品ですが、それだけに基本的なソルフェージュ力や、声質が問われるものです。
特にバリトンが歌う場合、広くない音域の中音域を、どのような声で聴かせるか?と言う点がもっとも難しいです。
音程はどうか?声質は表現に適ったものになっているか?発音は?子音の処理は?
一番苦労したのが、中音域のちょっとした音程でした。
また声を抑制すると、音程が♭気味になる点もありましたし、声の換声点にさしかかると、喉が締まりました。
これらの細かい点を毎回のように潰しながら、ようやく目的地に達した感があります。
気が付いて見ると、非常に滑らかな中低音の声質が聴かれるようになりましたし、低音もバリトンらしく、低い方にも音域が伸びたと思います。
今後は高音の換声点直前の音域に更に磨きをかければ、素晴らしい歌声を持つことになるでしょう。
また「冬の旅」全曲演奏を目指して頑張って下さい。
おめでとうございました。

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SM

今回は特に基礎的なテクニックを決めてもらいたいと思い、かなり力を入れて教えました。
一番の課題は、歌うことにおいて、良い意味で譜面どおりに音楽を丁寧に落ち着いて処理することでした。
縦のリズムを大事にして横に流れないこと、フレーズの終わりを短く端折らないこと。発音を明快にすること。
フォーレの「5月」は単純なメロディとリズムですが、単純だからこそこのような点が大事になります。
「5月」はこの点でほぼ満点の出来だったと思います。「トスカーナのセレナーデ」はピアノ伴奏の前奏リズム感に対して、やや前のめりになりましたが、ぎりぎり踏みとどまってくれた感じです。
声のダイナミックの差は良く出せていました。そして「フィディレ」は冒頭の第一節のリズム感とフレージングの処理でした。
これは、教えた通り踏みとどまってじっくりとした音楽表現が叶い、フィディレの雰囲気が充分に出せましたね。
これらの、漠然とした情緒ではない、数理的とも言える表現こそが音楽の美しさを伝える、ということを教えようと思いました。
簡単そうで実は一番難しいことなのですが、今回の演奏に接して彼女には判ってもらえたと思います。
今回学んでもらったことは他のどのような曲であれ、イタリアものであれドイツリートであれ通用することなので、このことをしっかり抑えてこれからも精進されて下さい。
おめでとうございました。

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MM

久しぶりのムジカCコンサート出演でした。
レッスンでは確実に訓練を積み重ねて、このところ成長著しい姿を見せてくれていました。
今回の本番も、とても良い演奏になったと思います。
彼女は少し上がり症ですが、それも影を潜めて落ち着いた演奏姿勢になったと感じました。
特に曲を追うごとにそれが改善され、3曲目「月夜のララバイ」は、彼女の出来としてはかなり高いレベルで演奏出来たと思います。
1曲目は少し声の響きの迷いがありましたが、それよりも強声で喉を下げようとする方向に発声が向いていました。
これは課題です。声を出そうとする際、喉は下げるというよりも、喉を締めないために上げないだけという理解にして、声を前に響かせるようになってください。
言い方を変えれば、単に声量を増やすイメージよりも声質を鋭いものにする、鋭利な刃物にするようにイメージする方が良いのです。
講評ののっけから注文が多くて申し訳ないですが、それだけ彼女は良く練習を積み重ねていて、レッスンではこちらの言うことに高いレベルまで応えてくれていたるからなのです。
さて、良かった点を書くとすると、特に心配だったチェンジ近辺のメッザヴォーチェで出す声の音程が、綺麗に決まっていたことが、彼女の成長を物語っていると思いました。
これから、更にいろいろなレパートリーに挑戦して下さい。おめでとうございました。

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HA

今回は、心技体、3方向にわたってほぼ満足のいく結果になりました。バランスが良かったのです。
身体演技の面、声の面、見せ方と聴かせ方の良いバランスが、素晴らしく良かった。
このバランスが大事です。今回、彼女は高音の難しいメリスマがある曲を選びました。
レッスンの中では、喉を掘ってしまう発声に傾いていたため、高音のメリスマが動きにくい傾向でした。
レッスンでその点を修正して来ましたが、どうにか間に合って良かったです。
どちらかというと、レッジェーロなキャラクターのアリアが彼女には向いていると思います。
これからも発声を大切に、声楽を続けて行って下さい。
おめでとうございました。

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SNM

今回は本当に良く練習しました。特にアリアには相当入れ込んでいたようです。
アリアの音域は、彼女としては本番で歌うにはぎりぎりのところだったと思います。
彼女も、ここに至る途中でくじけそうになりましたが、何とか踏みとどまりました。
しかし、踏みとどまって良かった結果となりました。
今回の彼女の歌声は、中音域~高音域まで、密度のある、前に良く通る声で声量も充分でした。
高音発声も、今回の曲はレッスンを始めた頃に比べても、脱力が出きたせいか?良いビブラートがかかるようになっています。
歌曲は2曲ともブレスが気になったのか、テンポを速くしましたが、聴いていてやはりもうすこしゆったりするほうが良いと思いました。
この辺り、これからの課題になると思います。声の響きのポジションとお腹の支えでフレーズを滑らかに保つこと、でしょう。
フランス語の発音は、他に比べても明快であり、良いと思いました。それでも特に歌曲は、発音に積極的に関わる発声にも
トライして行って下さい。そのことが理屈抜きで、フランス語の歌を好きになって行くモチヴェーションにつながるでしょう。
おめでとうございました。

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YC

ノルマ、運命の力、2曲とも有名なアリアですが、その名に恥じない演奏だと思いました。
ノルマのアリアは、細かい半音階のメリスマに最後までこだわりましたが、きれいに処理出来ていて感心しました。
この曲は、強さよりも優雅さが必要なので、なかなか難しかったと思います。
もう少し年齢が行ったら、冒頭の有名なメロディの声がもう少し厚みが出たたっぷりした声になると思います。
この中低音の声質も、これから追求し続けて下さい。将来ぜひまた取り上げて欲しい曲だと思います。
ヴェルディの「運命の力」では、高音の伸びる声の魅力が彼女の美点です。
その点で、素晴らしいと思います。
これから、特に5線の中の声は例えばイタリア語の歌であれば、そのイタリア語が求める声の響きや抑揚が必ずあります。
それは日本語の声の嗜好とは一線を画するものになります。
ヴェルディの場合、特にイタリア語のアクセントの扱いがフレージングの形を形作るので、その点もこれからは勉強されてください。
今後、更に声楽のテクニックを高めることが出来るとすれば、この点になるのではないでしょうか?
おめでとうございました。

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MT

難しいプーランクの歌曲集を軽々と歌い通して、楽しさと影のあるプーランクの世界を楽しませてもらえました。
シリアスな表現からカフェコンセール的表現まで、プーランクの作品は幅と深みがあり難しいものです。
詩の内容を良く理解しそれを真摯に歌うことによって、結果的に曲の持つ演劇性を出した演奏になったと思います。
今回の演奏で、課題と思ったことは歌詞の表現よりもむしろオーディオ的な要素、中音域の発声にあると思いました。
中音~中高音にかけての声の芯をもっと作ることでしょう。それは強声が大事だという意味よりも、弱声のテクニックを伸ばすことにもあります。
また、恐らくこのことが高音発声の表現力にも良い影響をもたらすのではないでしょうか。
今回のホールで聞く限りは、声の芯が薄いために、メロディラインが不明瞭になるところがありました。
ソルフェージュ力や楽器も扱える能力があり、音楽家として良い条件に恵まれているわけですから、楽器としての声作りもこれから研究し高めて行ってください。
それから、今回発音をうるさく言いましたが、所々開母音が狭母音になったりする部分も気になりました。発音も音楽の重要な要素なので、これも課題とされて下さい。
おめでとうございました。

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TC

本番の数日前まで、絶不調とのことでしたが、発表会前日のレッスンでは問題なく、本番は絶好調!だったのではないでしょうか?
彼女は長年にわたって良く発声を研究されていて、一つの完成された声楽の歌声を持っている方と思います。
プーランクの「愛の小径」を聞くと、声楽的な声の響きとメロディが織りなすことの喜びを感じました。
たっぷりと艶やかな響きと声量は声楽の魅力として他に代えがたいものがあります。
ただ、ドビュッシー2曲を聴いて、もう少し歌詞が判る歌であったら、と感じました。
確かに発音に意識を強く向けると、唇や顎、舌に力みが入り、母音の響きにまで影響を与えるでしょう。
しかし発音や発声の開発は、慣れることによって力みから解放されますので、まずは歌いこんで、慣れて行くことも必要ではないでしょうか。
少なくともフランス歌曲の場合、発音の明快化によって、フランスらしい音楽を表現出来るようになると思います。
その点は今後に期待したいと思います。
おめでとうございました。

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