伴奏という仕事は、ピアニストとしての経験を積む努力が確実に報酬になって跳ね返ります。
芸術とビジネスは両立するという典型ではないでしょうか?

しかし、伴奏のプロとして活躍するためには相応の技能を持つ必要があります。
演奏家として表面的には主役とは言えないが、演奏を支える意味で大きな役割があるだけにプレイヤーとしての充足感も大きいはず。
それだけに、技術の会得と経験を支えるためのしっかりしたプロ意識と技量が必須です。

声楽家の私から見ると、声楽家はメロディだけを受け持つ、いわばヴァイオリンなどの単体の楽器と同じですが、ピアノは同じ単体楽器であっても、
オーケストラの代わりが出来るだけの大きな幅を持っています。

つまりオーケストラに指揮者が必要なように、ピアニストは単に楽器を操るプレイヤーとしての能力と共に、指揮者としての能力が必要なのです。
指揮者としての能力というのは、せんじ詰めれば音楽全体を見通す力と、音楽の構想力にあります。

それは例えば協奏曲をやるとすれば、ソリストの間違いや音楽的な未熟さを的確に判断して、相応の対処を瞬時に素早く対応出来るかどうか?
あるいは、ソリストに対して言葉で指導することも必要になるでしょう。

絶対的と言っても過言ではないほどの、高い音楽性が要求されると思うのです。

そこに到達するためには、当然伴奏の仕事を多く積み重ねることと同時に、ソロも同じように経験を積み重ねる必要があるでしょう。
両者は車の両輪のように補完する関係であり、どちらかに偏ってしまわないことが肝要だと思います。

ソロの作品を勉強することで、ピアノ音楽としての独立性を学ぶことが出来ます。
そのことで、伴奏音楽にあるピアノ音楽の魅力も引き出すことが出来るからです。

卑俗な話で恐縮ですが、伴奏ではギャラが出ますが、自主公演に頼らざるを得ないソロ演奏の場合は手弁当になってしまうと思います。
それで、いつの間にかソロ活動から離れてしまうのではないでしょうか?

せっかく幼少から技術を錬磨して、相応のピアニストになられて皆さん。
伴奏の仕事にだけに埋没せず、ソロ活動もぜひ続けていただきたいと願っています。