歌いながらしばしば感じていることですが、音楽が醸し出している感情表現を感じ取りそれを演奏に反映出来るかどうか?
このことは、聴衆の耳目を集めることが出来る演奏力を導き出す大きな要素になるでしょう。
もちろん、楽器演奏も同じことではないかと思います。

音楽が持っている感情・・・例えばどこか物悲しい感じがする、寂しそう、楽しそう、怒っているようだ、、等々。
音符通りに演奏することだけに集中しないで、その感情を気持ちの片隅に置き、それを忘れずに演奏すること。

私は、レッスンで良く生徒に歌詞の朗読をしてもらいます。
歌詞を読むことで詩が表現している雰囲気や、感情表現を朗読者が表現できるかどうか?を見るためです。
そして同時に歌声にその朗読の声が上手くリンクすることが多いものなのです。

さて、歌と楽器を比べると歌の方が感情表現は素直に載せやすいでしょう。
歌詞がありますから、歌詞に表現の一端が明快に表れていますから。

しかし楽器はどうでしょう?
セリフをしゃべって演技するよりも難しいのは、歌を歌う楽器を奏でるという行為は、悪くすれば演奏行為そのものに集中してしまう可能性がとても高いのではないでしょうか?

セリフであれば、日常的な表現手段ですから、音楽行為への集中=感情表現に結びつけやすいでしょう。
難しさとしては舞台で聞こえる声か?活舌が明快か?劇中人物のキャラクターを表現出来ているか?というようなテクニックに要約されるわけです。

音楽は、抽象的なメロディや和音などの集積を表現しつつ、その音楽が内包する感情表現も出すという2重表現になるところに違いがあります。

従って音楽を徹底して理解することによって、表現の答えは見つかるでしょう。

一番簡単な方法は、今なら動画で聞ける名人たちの演奏をいくつか徹底して聞いてみます。
そして音楽が表現していると思われる具体的な感情表現やイメージを掴み取るのです。

気を付けなければいけないのは、声が良いとかモリモリと声量が沸き起こってくる声だとか、しまいには演奏者がカッコいいし自分がやれればきっとカッコいいだろうな~などと夢想してしまう。
あるいは、どこでブレスをしたか?とか、フレーズのアーティキュレーションの仕方とかを真似して終わってしまう。
これらのことが、難しい譜読みを貫徹する大いなる動機づけになることは、私も否定しません。

しかし問題はそれで終わってしまうことです。
そこで終わってしまうと作品の価値の半分しか表現出来ていないことになってしまう、と思うのです。

これを忌避するための練習はどうすれば良いのでしょうか?

考えたのは、音楽が表現しているであろう、とあなたが感じたことを言語化するということです。
例えばある音楽を聴いたら、その音楽がどういう情景でどういう人間感情を表現しているのか?を文章にしてみることです。

要するにインプットしたものを言語によってアウトプットすることです。
アウトプットしたものをきっかけに、もう一度譜読みした演奏を考え直してみます。

音楽とか芸術というと、ややもすれば直観を大切に、と思うでしょう。
直観は大事ですが、直観だけで良い演奏が出来る人はきっと天才でしょう。

凡才は、音楽を徹底理解して、冷めた頭で演奏を考え直すということが大切なのではないでしょうか?