ISS

伴奏合わせだった。
シューベルトの「菩提樹」は、ほれぼれとした良い声の響きで、声のことには及ばなかった。
ただ、音楽表現がやや単調だった点が惜しかった。

この曲は、テーマが2回繰り返されて中間部に入る形式だが、繰り返される2回目が表面上同じメロディ、リズムのため
気を付けないと、まったく同じことを繰り返すだけになってしまう。
これが、単調になる原因。

詩をよく読むと、自己の経験や感情を呼び起こしている部分と、単なる風景描写をしている部分とに分かれる。
いずれも感情は入っているが、思い起こしている部分と情景描写は、違う読み方をするように朗読してみる。
それが、歌になった時に表現になって顕れる、という具合。

これは、どのような歌でも通用することなので、今のうちに覚えておくと、

フォーレ「墓場にて」
最初の通しはテンポが遅すぎて、息が持たない感じだった。
それでテンポを速めたが、特に最初のフレーズは一息で歌えるくらいに自分で歌い進む意識を持つこと。
結果的にはブレスを入れても良い。
ただ、3拍子を意識してゆっくり歌うよりは、淡々とした朗読を語るように進む方が私は好きである。
なぜなら、中間部に十分に劇的な部分が待っているのだから。
その意味でも、最初から濃い音楽性を表現する必要はない、と考えている。

今日の練習は、中間部の高音をしっかり出すための、その前のフレーズ間のブレスのタイミングの取り方。
ブレスがしっかり取れていることが最低条件だから。

そして、短い間奏で感情的に元に綺麗に戻ること。
そして、最後のIl dort un bon sommeil vermeilの意味。深い祈りと哀惜の念を感じて歌いこんでほしいところである。

「夕べ」
テンポ設定を決めた。
出だしの下降形のアルペジョは、弱拍も強拍も均等になるように。
中間部は、音楽が変わるわけで歌声に活気がほしい。
中間部後半は、弱声から強声へのダイナミックな変化を大切に、
後半、再現部はテンポをきれいに戻して、再度上昇形フレーズでピアノがアッチェレランドになると良い。

AS

フォーレの3曲。
全体に、声のことやブレスが足りない、という自己の技量不足にばかり頭が行き過ぎて、消極的な音楽になっていると感じた。
このためには、音楽全体を生き生きとした形にはめ込んでやる必要がある、と思った。

「夢のあとに」は、テンポが遅いように思われたみたいだが、速くしたとしても、ブレスの問題は変わらない。
音楽表現の基本的なことなので、1ブレスが無理ならカンニングブレスを入れるほうがよほど良い。
歌う様子を見ていると、1フレーズの中で、息を抑える箇所と、開放して息を吐き出すところ、というメリハリが感じられなかった。
特に吐き出さなければならないのは、3連符が続くところ、という単純なスタイルということを覚えてほしい。

「イスパーンのバラ」は、ピアノ伴奏が単調になるので、音符の形に即して、ルバート気味に変化を付けてもらった。
単純な形式だが、変化はあるので、その変化を逃さないで、音楽を作ること。
一緒に歌ってみたが、その後一人で歌わせると、声の活力が違うのは、やはり消極的になってしまっている証拠だろう。

技術は大切だが、この期に及んでは技術は改善出来ない、と観念して、積極的に歌うことに徹してほしい。

「月の光」
これまでレッスンで練習したテンポで、ゆったりと悲しみを表すように。
感情表現のパターンが作りにくい歌なので、いっそのこと悲しく歌う方が分かりやすい、と思ったから。
それに対して、中間部は、明るく開放的なものを感じて歌ってもらいたい。
ピアノ伴奏も形式が突然アルペジョに変わるので、テンポを3拍子ではなく1拍単位のように感じてもらった。
この曲を歌う頃には、歌声も活き活きとしてきた。

結局、本番は技術的な不足を気にしないで、活き活きと積極的に歌えるかどうか?という部分をイメージしておくと良いだろう。