TYさん

久しぶり。
学校で合唱祭があって、所属クラスが最高得点だったようで、喜んでいた。
合唱の練習を一所懸命続けていたせいだろうか、声の勢いが強かった。

発声練習ではHuで始めた。
喉が上がって締まらないように、滑らかに呼気が出るように、と思った。
予想外に声が出ていてびっくりした。

コンコーネは11番。
大体譜読みが出来ていたが、小さなミスが目立つ。
ピアノの音と2度でぶつかると、引きずられて間違ってしまったり、ちょっとした3度くらいの音程を間違ってしまうようだった。
この辺は、ピアノに引きずられないしっかりした声を出すこと、後は練習量だろう。
彼女はちょっとやれば出来るので、逆に地道な積み重ねやちょっとした注意、などがいつでもどんな時でも大切なことを知って欲しい。
他の勉強でも応用が効くようになるだろう。

リディア。
この曲は、結果的にお好みに合わなかったかな?
再度譜読みからやり直す結果となった。

声の問題、フレージング、発声は元気があるが、やや雑である。
もう少し丁寧に、細心の注意と力強さとの絶妙なバランスを大切に。
それは、単に発声の問題というだけではなくて、この音楽を扱う気持ちをもう一度見直して欲しい。
譜読みは何度もやったし、フランス語は勉強していた、と思う。

歌を口の端に載せ、気持ちが良いかどうか?
嬉しいか?いとおしいと思うかどうか?
何回歌っても、興味が持てない、あまり好きになれないということもあるかもしれない。
あるいは好きであるなら、そういう部分を一所懸命表現することが大切であろう。
声のディテールも大切だが、好きで歌っているかどうか?
もし好きにさせられなかったならば、こちらの指導法もあるかもしれない、と反省もある。

ある程度こちらでも、曲を用意したいが、当然ながら本人の好きだという曲もやって行きたいし、本来そうあるべきだと思う。
音大受験などを考えているのであれば別だが、趣味で続けていくならば、好きなものをどうアカデミックに勉強していくのか?
あまり回数が来られないので、選曲はとても大事なことになると思う。

WHさん

彼女は頭声の発声が上手くなってきたのだが、その分胸声区の声の開発が、後回しになっている感がある。
彼女が言うように、頭声の出し方のほうが遠鳴りして響きがある感じが持てる、というのは本当かもしれない。
ただ頭声だけでは、響きに芯がなくなって、音程感(和音感にも関係する)や、声質の血色の良さ、艶など、様々な要素が出せなくなることである。
単に高音の声域を伸ばす、とか、一見喉に負担が無い、というような問題だけでは済まないこともある。

もう一つ大切なことは、発声の方法論だけに拘泥しないこと。
発声というのは方法論であって、元にあるものは音楽であり、人が作った感情表現であること。
方法論だけに拘泥すると、元の意味が何処かにすっ飛んでしまうこともある。

Intorno all’idol mio
細かいことを色々練習した。
始まりが弱すぎるために、入るタイミングが非常に曖昧である。
ここはきちんと当てて出す、入ることである。
当てないからタイミングがはっきり持てなくなる。

クレッシェンド、デクレッシェンドをはっきり出せると良い。
それから、フレーズの終わりの低音はピッチに気を付けて、揺れないように。
ディミニュエンド出来ればなお良い。

そして何よりも、そう歌うことに意味があるかどうか?そうしたいと思って思わず歌っているかどうか?
音楽をそこまで、自分の物にして欲しい。

Dove sono
こちらは、1回通しただけにした。
前回同様に、レシタティーヴォは上手くなった。
最後の高音も劇的な効果を上げていて、発声が改善されたことを感じた。
アリアも、微妙に音程が♭な気がするが、これもやりだすときりがないので、良い意味で妥協したい。
今の彼女がこのアリアを歌う場合は、声のディテールよりも、全体を安定して集中して歌い通す集中力を養いたいところである。

最後に歌いたいと持ってきた、ベッリーニの歌曲、Vaga lunaを歌って終わりにした。
今は、歌曲だアリアだということで声の違いを考える必要はないと思う。
抽象的な詩なのか、劇中人物の感情か?という違い。
分析は詩の方がややこしいだろうが、これとて立場を良く見れば、劇中人物と言えなくもない。

彼女にはDonaudyなども良いし、Arditiも良い曲がたくさんある。
Tostiの歌曲も彼女の滴り落ちる美しい声なら大歓迎である。

ACさん

今日は発声練習でも、中低音も最初から良い声が出せていたし、中高音へのチェンジもスムーズに出来るようになっていた。
本人はチェンジが気になると言っていたが、発声練習の簡単なスケールやアルペジョの音型であれば、ほとんど問題がないと言って良いだろう。
後は実際の歌唱の中で、歌詞の発音の扱いと、発声上大切なことをどうやってすり合わせていくか?である。
これは、一点、発音によって、母音の違いや子音のせいなどで、喉を締めないようにすることのみ、と言えるだろう。

曲はドビュッシーのみやびやかな宴1の「月の光」から。
今日は少し細かく練習をした。
やったことは2つ。
一つは、母音だけで歌うことで、前述の締めない発声によって、レガートに響きをつなぐこと。
それを確認してから、歌詞で発音して歌うこと。
歌詞で発音する際に、最初は指をくわえることで、口の中を閉じない、開いた状態のまま歌うことである。

そして一番大切なことは、中高音の発声である。
特にIls n’ont pas の辺りとか、Au calmeの辺りの音域。
声の出だしで、喉が上がり過ぎないように、ということは喉を締めないことである。

この中高音域の声を締めない発声で処理できると、彼女の中低音の声と折り合いが良く付いて、旋律の全体的な同一感が生まれて更に美しい歌唱が実現出来るようになるのでとても大切なことなのである。

喉を開いた状態で、狭母音を処理すること。
そのことで、喉が上がらない。
下顎を良く降ろした状態も大切だし、あるいは、声を当てる場所を低く意識すること、強すぎないが、弱すぎないこと、などなど。
これは練習して、上手く行ったと思う。
後は、これに慣れれば、更に声質を柔らかく出せるだろう。

二つ目は、テンポである。
テンポの変化に注意。
Toute en chantant..からはUn peu animeであり、少しずつ前に進むように。
ただ、Ils n’ont pas l’air de…は早すぎて前のめりにならないように。
次のフレーズでDimとあるのは、ディミニュエンドだが、同時にテンポも落ちていくはずである。
そして、Au calme clair de luneは、A tempo となり、最初のテンポに戻るように。

En sourdineもやったことは、まったく同じである。
声としては、中高音の難しさはこちらの方がない。
むしろ、彼女のトロ~っととろけるようなメローな中低音の美しい響きをもっともっと充実させて欲しいところである。

特に出だしのCalmes dans le demi jours の響きは、基本的に良い発声になったが、更に、音楽的な形と歌詞の意味、そのシチュエーションに対して彼女が共感を感じた声を具現化して欲しいのである。
どんな状況なのか?
そんな状況を一発で表せる、声が欲しい!!

Fondons nos amesからPeu a peu animeを忘れないで!
Parmi..でRitである。
Fermes tes yeuxから再びAnimantで、前に進むように。

盛り上がりの最後、Qui vient a tes pieds rider les ondes de gazon roux
は、はっきりとクレッシェンド。
最後の2点EisのRouxが、彼女は難しいが、Rの子音をはっきり言うことで、声のアタックを鼻腔に入れられるようになれば、
上手く行くだろう。喉だけで鳴らしてしまうために、不安定になるのである。

今回は、なんとか発声を安定させて良い表現につながるように、と心から願うばかりである。
まだ20代中間の若さ!だし、これから先も大きな将来性が控えている。
自信を持って本番に臨んでもらいたいものである。