最近は録音を聴いて譜読みする方が多いのでしょうか。
耳コピすると録音された声が頭に記憶され、その声をそのまま真似して発声してしまう傾向が否定出来ないです。

私の師匠のカミーユ・モラーヌ氏。
レコード(私の学生時代はCDではなくLPレコードだった)で聴く師匠の声は、バリトンにも拘らずどう聞いてもテノールの声でした。
確かに軽い声ですが、いくらバリトン・マルタンとかハイバリトンと言っても、誰がどう聞いてもその声はテノールですね。
ところが実際に留学してレッスン室で聴いた声はまるで違っていました。

結論から言いますと、先生は声の芯自体を太く出すことはしません。
その代わり、気道を良く開けて発声します。

こうした発声で出る歌声は、あたかもヴィオラやチェロなどのように、弦自体の響きが持つ引き締まった高次倍音の強い響きを、胴体にも共鳴させることで低い倍音成分がミックスされて、
バランスの良い声質になる、という楽器的な響きになるわけです。

このことが、最近までなかなかわかりませんでした。

これが自身で分かると、声帯の響きと口腔内や胸で響きが共鳴して出る響きとの違いが分かってくると思います。
耳に良く聞こえる声が声帯自体の声とすると、胸奥に響くものが低次倍音とすれば、その適度なバランスを考えることで、
喉自体の使い方も良くなるでしょう。

つまり自身の歌声に対して、良い集中を持つことが出来るわけです。

低次倍音が強いと、モガモガと太くこもった声になり、耳に聞こえる声だけになると、いわゆる近鳴りした薄っぺらい声になります。
このバランスは、テノールとバリトン、ソプラノとメゾソプラノの声質の違いという面もありますが、声のキャラクター以前の基礎と思っていた方が良さそうです。