昔からお腹から出る声、という言い方をします。
これは確かにそういう感じがありますが、声楽に限らず、邦楽の民謡でも、能でも、何でも、名人の歌う声は、腹から出ている感じがします。
そして、そういう声は、一般に良い声だと感じますし、歌っている本人も快感を感じています。

それは、一言で言えば、呼吸と喉の関係が出来上がっている発声である、ということです。
したがって、民謡などの邦楽系の声とクラシックの声楽との違いは、この腹から出る声のことではなく、喉の使い方の問題と考えてください。

人間、普段でも嘘をついているときや、よそ行きの声を出しているとき、白々しい営業トークなどなど、みな声は腹から出ません。
口先で出している感じがします。
したがって、声のことに通暁している人間には、それらの嘘が全部ばれてしまうのです(笑)

心がしっかりして、落ち着いて、リラックスしているときは、誰でも呼吸がお腹に依拠するために、声もお腹の声が出るのです。

こうやって考えると、はた!と気づくことはありませんか?

もし、このことが無意識でなく自意識で出来るとするならば、演技というものも、呼吸によって左右されるということを。
だとすると、歌声も一つの演技力の賜物なのだ、ということがわかるでしょう。

発声法や呼吸法というものが、これらの演技と関わる人間の感情を意識化に置く方法論に結びついたとき、良い指導も生まれるのではないか?
と考えています。