発声は一通り声を聴くために、下降形2点Dから降りて上がって、下から上向形で上がって、ということをした。
彼女の現在の傾向は、息の強さがまだもう一つ弱いこと、声区の変換がやや不安定である、ということだろうか。
総合的に言えば、いわゆるお腹から出る声がもう一つ確立していない感じである。

2つあるのだが、声区が不安定というのは、決して地声を使わない中低音なのだけど、どうも少しだけ地声っぽい
声の当りが裏返った声質に混じって、大げさに言うと少しビリビリした響きが混じること。
これは声を出そうとして力むとなる。

もう一つは、声のアタック、声の出だしが、喉が開かないせいなのか、細く弱い傾向にあること。
どうも身体がリラックスしてなくて、喉が硬いというか、やはり開き方が弱い傾向にあるかもしれない。
これに関しては、また2つあって、姿勢に起因することと、基本的に腰からお腹にかけて、声をしっかり出す
身体の使い方に慣れていないこと。

難しいのは姿勢に起因することだけど、このことはリラックスしていることと関係がある。
腰がやや硬くて、いわゆる中に入った姿勢になり易いので、そこが後ろに寄りかかって
尾てい骨から背骨にかけて、真っ直ぐになって立つ姿勢が出来るようになると、恐らくほとんど自然に
腰もお腹も使って声を出すことが楽になるだろう。

これは彼女だけではなく、男性よりも女性の方がどちらかというと傾向かもしれない。
声を出す運動力、神経は、重いものを持つ力と似ているところがあるからである。

顎を引いた姿勢も、喉を開くことに関係するので、出来ればいつも注意して欲しいが、これは注意する所がピンポイント的で
かえって、上半身を硬くするかもしれない。
それよりも、身体全体のリラックスと、そのことで得られる腰の力、お腹の力を出すために、少し片足立ちに近く立ってみることも
感覚を養えるかもしれない。

こういう姿勢があった上で、積極的にお腹を使って声を出す、という身体の回路を目覚めさせて欲しい。
側腹部を歌うときに張り出すようにすること。フレーズを歌いきる場合に、そのフレーズが昇りだろうが下りだろうが
同じである。音程が上がると張って下がるとしぼむのではなく、張り出し続ける意識。
そのことで、フレーズを歌いきると、お腹が緊張するから、それを緩めると、自然に息が入る、という循環も大切だ。
これは逆に言うと、下腹部、丹田を中に入れて行くように使うことでも同じことになる。
意識しやすい、やり易い方を取って欲しい。

これを判りやすくするために、最初は息だけでは~は~と規則的にやることで、吐いた後にお腹を緩めると自然に胸に息が入るという
感覚が得られると思う。
息で練習したら声を出して実際にやってみること。一音だけで良い。口を少し開き目にした方が彼女の場合、喉が開いて出しやすいだろう。

以上が身体全体のこと。

それから喉のこと。
あるいは口の中の状態。
いわゆる喉が開いた状態や、軟口蓋が上がった状態というのは、あまり強く意識しなくても、ある程度は声を出すことで
自然についてくる面もある。
彼女の場合は、今はどちらかというと、楽に下あごを下げて口が開いた状態を意識することで、喉が開いた状態を
感得出来るだろう。これは感得できる、わかる、意識できるために、という意味。
実際に歌詞がついて歌う場合は、逆に口先を開かない方が中が開くということが往々にしてあるので注意。

これに関しては良く皆さんにやるように、指をくわえて歌詞で歌うことが有効な練習方法。
顎を引いた姿勢も、喉を開かせる要素がある。

以上のようなことを、今日は色々とやった。
発声練習でもやったが、実際に歌う中でもやった。
歌はイタリア古典の2巻、O leggiadriocchi belli

これもやはり声の出だしの息の力、思い切りが全体に弱い。
この声の出だしに、すぽ~んと脳天めがけて飛ばす感じが出来るようになると、大分響くようになると思う。
今日は順番が逆になってしまったが、レッスンの最後に喉を開くために、下あごを自然に下ろすと、声質が深く柔らかくなったのが
判ったと思うが、そういう状態を準備しておいて、お腹の力で息を強めに当てると、喉さえ開いていれば、きれいに高く響くのである。
その響きさえ出せれば後はその響きに乗って、お腹の力でフレーズを歌いきるだけである。

現在の状態は、少ない息を経済的に音符単位で使う、という感じなので、大きなフレーズ感が得られないのが残念なところ。
マイクを使わない声楽の醍醐味は、声質や声量も含めて、このフレーズを大きく歌いきる、息の力、ほとばしる息のエネルギーが感じられるところにある。

今日やったこと、今日やって大切なことはこのことだけである。
最後にプーランクの「あたりくじ」から、1曲目のMon sommeil est un voyageをやった。
フランス語の発音はとても綺麗である。ほとんど直すところはない。
それよりも、やはり息の力によるフレージングを出来るようになってほしい。
出だしのPPで始まる、Mon sommeil est un voyageのフレーズですらそうである。
特にSommeil est~unの~で表した2点Dに昇るところなどは、

楽譜に書いてある、PPなどの音量記号は、声の出し方がきちんと出来るまでは、特に小さい方の指示は無視してほしい。
とにかく声のアタックをきちんと飛ばせるようになることが最重要課題。

それから、歌詞を歌う際に下顎が動きすぎると、そのことで喉側が硬くなって喉が開かずに締まり易いために、中音域の響きが落ちてしまったり息を伸ばすことが難しくなったりする。
指をくわえて練習ということもやってみた。

今日は盛りだくさんになってしまったが、ポイントは絞り込めて来たと思う。身体を使う必要性、それが音楽表現、純粋に歌いたいという気持ちとリンクさせる方法を知ることを大事にして欲しい。

歌心も音楽理解力もそのための感性も知識も教養も人並み以上に揃っている人なので、バランスとしてそれらを、身体をどう使ったら
音楽、歌に反映させられるか、そのための基礎をぜひとも身に付けて欲しいと思う。