1ヶ月ぶりだったが、元気に良い声、健康的な声で安心した。
今日は、発声練習から、結構大きな声だった。
喉も深く、広く、何か堂々とした声で、声量もたっぷりと言う感じ。
ただ、後々響き重くなってピッチも下がってきたので、この発声は要注意だと思う。

喉側を深くするのは必要に応じて良いことだけど、それだけにならないように。
喉のポイントは柔軟に、表現に応じて使えるようにしてほしい。
ということは、基本的にもう少し上を開くことをもっと覚えて欲しい。

多分歌っていると、浅い感じや平たい感じがするかもしれないが、逆に喉の負担は減ると思うし軽い声で良く通るから、楽になるだろう。

重めの声は、どちらかというと、メゾ的な要素も必要な歌曲、というのもあるが、彼女自身の嗜好も働いているのかもしれない。
こちら側から見ると、やはり明るくコケットな声を基本に持って欲しいと思う。
シリアスな声は、何もしなくても出てくるものだが、色の付いた明るいコケットな声は、結構難しいものである。

下降形の発声を聞いていて、見ていて思ったのは、徐々に高音に上がると息の強さが体の使い方に良く現れる。
それは、やや胸を使って吸っている。
また、吸った息を最初の最高音でしっかり当てて、後は息の勢いに任せるだけという感じ。
いわゆる尻すぼみになっている。

低音に行くほど息を高く上げるように。フレーズの最後まで息を支えてコントロールすること。
そのことで、お腹が緊張するから、緩めれば息は入るだろう。
ただ、緩め加減というのがある。完全にドスンと落として下に戻すこともあるし、下腹部は閉めたままお腹の真ん中、横隔膜だけでほんの少しのブレス、というもあるだろう。
音楽によって、フレージングや表現に応じて、微妙に変わるだろう。

これから少しお腹の使い方は意識して、練習して欲しい。
後はやはり下顎、喉を開くバランスに対して、もう少し上を開く意識を大切に。

曲はラヴェルのシェラザードから。
声のことよりも、今日はほとんどがピアノとのアンサンブルを練習することになった。
何しろピアノが難しい。
オーケストラの音楽なので、テンポ感や和音の重さ、テンポ移動の方法などなど、じっくりとやりたい。
特に1曲目は難物である。

基本的にピアニストさんにお願いしたいのは、ピアノを弾く時にもっと大きなホールで音楽をやる、というイメージである。
遅い、ゆっくりのテンポ、という時には重さを感じること。
速いテンポの時は後一歩落ち着いたテンポを取る冷静さを大切に、自分の力量の80%で音楽してほしい。

きくちさんにお願いしたいのは、言葉を喋るときは、前にどんどん進むこと。
言葉のフレーズ、一まとまりを理解して大切にしないと、何を言っているか判らなくなる。
勿論、これは朗読ではなく歌なのだが、音符だけに依存してしまうと、言葉のフレーズ感による抑揚がなくなるので、音楽までもが平坦でちょっと退屈になる。
この曲はソプラノにとって声楽的に難しい、という曲でもないと思うので、その辺を大切にしないとこの曲の妙味、趣向が出ないことになると思う。
また、喋りの部分、あるいは中音域では、下あごを下げすぎないで、上顎で歌えるように練習して欲しい。

このシェラザードはそういう意味で良い勉強になる大曲だ。じっくりと練り上げて行きましょう。

はやしださん

発声もそこそこに、伴奏合わせとなった。
発声の声は相変わらず明るくて、元気が良い。
ただ、やはり軽い、というか、お腹をもう少し意識してお腹から出すことを大切に。
どうも今のところ、下側よりも上を上げる方に意識が働く傾向が強い。
いわゆり、口を横開きにする、頬を上げる、という傾向である。

大分それは定着してきたと思うので、今度は喉側を少し開く、あるいは下げるポイントも掴んで欲しい。
そうやって声のバランスを取って行くと、最適なポイントが見付かってくるはずである。

曲はシューベルトの「冬の旅」から「老楽手」
これは声のことは現時点ではほぼ良い感じである。
低音も力みが消えて、滑らかになってきた。
ただ、高音の力みがまだあるために、声が抜けてしまうと言うか詰まってしまうのが惜しい。
喉を下げすぎてしまうのだと思う。
もう少し素直に高く当てれば、音程も良く抜けた高音が出る。
バリトンといっても、あまり意識しないで、自然に高音を出せば良いと思うのである。

この音楽は当時の辻音楽師が使っていた、ライエルという素朴な手回しオルガンのようなものを
模倣した伴奏だから、その味わいを出すために、妙に表情を付けないで、淡々と、インテンポで
むしろニュアンスのない、モデラート気味の音楽が良いと思う。
最後のページの声の低音がとてもよく響くようになって良かった。
雰囲気も出ている。

「道しるべ」はどうもこれもピアノのテンポ感。
すっきりと、2拍子を大切に。8分音符の4拍子ではないということ。
タッチをすっきりと、柔らかくしてもあまり意味がないので、滑らかに大らかにすっきりとである。
歌のほうはさすがに長く勉強してきた甲斐があり、とても雰囲気を大切にした歌唱である。
高音だけは少し苦しいが、これも力んで喉を詰まらせないで、楽にテノーラルに出した方が良いと思う。

最後に「魔王」
ピアノの3連符は厳しいが、これはどうしてもどんなにしてもこの通り弾いて欲しい。
音符のリズムの形が変わってしまったら、これはオリジナルとは似て非なるものになってしまう。
これは不可である。

歌のほうは気持ちがやや先走って、テンポがきつい。
きつい、というのは先走りが強いということ。
あまり激し過ぎないで、もう少し冷静に全体を捉えた上で、盛り上げるべきことは盛り上げて欲しい。
特に一番最後の音は、低音のせいもあるが、冷静に出さないと音程がかなりずれてしまう。

それでもその姿勢はとても素晴らしい。良く気持ちを込めて歌えているし、であればこそのアマチュアの歌である。