TMK

久し振りだった。
フォーレのLe secretから。
レッスンでちゃんと歌うのが久し振りだったせいか、ブレスがやや短い印象はあったが
それよりも彼女らしい声が音楽と共鳴して、とても雰囲気のある歌を歌ってくれた。
ブレスはカンニング的に入れても問題ないところは、むしろ積極的に入れるべきだろう。
それで、安心して歌えるなら、その方が彼女の歌は活きるだろうから。

次に、プーランクの歌曲からC’est ainsi que tu es
これは低いだろう、と思いきや、自然に地声領域が軽く使えるし、最後の中高音のピアノで歌うところTu puisse croireは、かすれるが、それはそれで理にかなっていて、何の問題も感じない。そこも、むしろEt direの前で積極的にブレスをすることで、ブレスをしたことすらも表現にになるはず、である。
曲調とは裏腹に清々しい歌だが、それが活きているのが美点だと思う。

そして、マックス・ジャコブの5つの歌曲の「墓地」
ぼくも大好きなのだが、やはり女性が歌うべき曲である。と思わされた。
少女のようでいて、力強さがあって、死ぬことすらも明るい自明の理であるかのような歌声に感じられた。突き放したような明朗さと女性らしさの優しさ、強さ、そんなものが一杯詰まっていて、とても良い歌を歌ってくれた。

プーランクのエリュアールからTu vois le feu du soir
こちらは、最後のSecretementの高音2点Gが難しい。
久しく声をきちんと出しなれていない喉のせいだが、綺麗に頭声にチェンジした無理のない高音を確実に練習してから挑戦すると良いだろう。

そしてドビュッシーのGreen
こちらは、高音が続出するが、かえって歌いやすいようである。
ピアノがきちっとうまく弾いてくれて、緩急も自在につけてくれれば、彼女はその上で自由に歌えるだろう。そうすれば、メロディの2連符は、ピアノの3拍子を気にしないで歌えるはずだから。

最後に再度プーランクの「偽りの婚約」からFleur
歌い急がないで、ゆったりといつくしむように歌って欲しい。
ブレスも無理をしないで、入れていけば、ゆったり出来るだろう。
自然にこの曲の情感が活きてくるはずである。

TF

今日のレッスンは、発声から通して、上顎を良く使う、あるいは上顎の中を高く、ということが課題となった。
良く上がった上顎の天井から声が出始めること。
そして、その時同時に喉は開いていること。

ブレスはその状態を作るためであり、肺に息をひゅ~っと入れる音がしないように。
喉が開いて、上記の状態が出来ていれば、胸で吸う音をさせなくても、必要な息が入る、というイメージが理想である。

逆に言えば、胸でスースー一所懸命吸っているときは、上記の喉の準備がおざなりになっているはず、である。
馴れないと難しいが、いつもそのことを観察して練習して欲しい。

今日、教えた発声のポイントは上述のことに尽きる。

今まで、喉を開く、あるいは軟口蓋を高く、という個別のことをバランスを取りながらやってきたが、これもバランスであり、煎じ詰めれば息の支えのある声、すなわちブレスをすれば必要最低限の息で1フレーズを楽に歌えて、かつ、音程差の山のあるフレーズのどこでも、音程が必要に応じてはまっていることが出来ている、という歌声を求めることが目的である。

だから、個別の課題というのは、あくまで最終目的のために、個別にやっているのであり、それぞれの個別のディテールそのものを目的化しないで欲しいのである。
音楽がいつも目的で、声そのものではなくて、あくまで音楽的な声が目的であることをくれぐれも忘れないように。

それさえ、掴んでいれば、どんな課題があっても、自分で応用が効くであろう。
課題と言うのは、必ず個人の応用があって成り立つものであって、課題だけをただこなしても
あまり意味を持たないのである。
そして、そのことが本当に理解できていれば、曲を歌うのでも、自分で応用が効くはずである。

最後に。
歌う姿勢も、発声に関与してくるから、大切にしてほしい。
首を長く前に出すように歌うのは、どこかに無理な力が入っているからであろう。
その何処かの無理な力?が何処か?ということも、歌いながら自分で探して欲しい。
自分で意識できないものは、直すことが難しいであろうから。

逆に良い、といわれる姿勢で歌おうとすると、歌えないとしたら、どこにその歌えない無理が感じられるのか?という発想でも良いだろう。
その無理と感じられる自覚が、実は自分の発声の課題を乗り越える大きな鍵になっていることが往々にしてあるからである。