2025年11月22日に行われたアトリエムジカCの試演会講評
総括
今回の試演会は、私にとって大きな学びを得た機会となりました。
改めて、声楽は発声が大事ということです。
普通に歌うことは誰でも出来るし楽しめますが、その歌心を持ちつつ喉を楽器を扱うように出来ることが声楽の本義となります。
この点が声楽を難しくする点であると同時に、面白さを与えてくれる点でもあります。
面白く感じてくれれば、あとは努力次第です。
本当に声楽が面白くなるのは、確かな技術を得て行くことで歌声の表現力を得られることにあります、
ピアノでも指使いや運指法が基本になったり、ヴァイオリンの弓使いやクラリネットやオーボエのリードの鳴らし方、フルートの息の当て方と響きとの関係等々、会得する難しさを理解できると思います。
声楽もこれらと全く同じです。
私にとっては、指導のあり方として何を優先順位にするか?という迷いがあることが、今までもあったことを否めません。
つまり歌を楽しむために声楽のレッスンに来られる方に、技術一辺倒の指導をすることが憚られるという理由からなのです。
しかし、今回の試演会を終えて思ったことは、やはり技術を正しく教えることが何より大事だという結論でした。
一昨年からの大病と長期にわたる入院を経て、この期に及んで思い残すことなくこの仕事を全うしたいという強い思いに至りました。
今回の講評は今までになく厳しめに書いていますが、私が感じた事実なのでご理解いただき今後に役立てていただきたいと思います。
最後に、このホールは今年12月28日をもって運営が終了となるそうです。
歌いやすく集客数が適度でしかも二子玉川駅から近く、サロンホールとして打ってつけの場所でしたので、大変残念です。
なお、各人の動画は各人のイニシャルをクリックするとyoutube動画にリンクされます。
KR 
長年オンラインでヴァーチャルレッスンを続けてきましたが、今回初めてのリアル発表会となりました。
以前も2回ほど対面レッスンを実現した時に感じましたが、予想外に頭声だけの声になっていることが課題でした。
その点が今回に向けて修正しきれなかった点が、指導する者としての大きな反省点です。
しかしリハーサルでの私の指導に良く従ってくれた結果得られた本番の成果は大きかったです。
未完成ではありますが、まず第一歩ということです。
アーンの「私の詩に翼があったなら」は、本人の声の修正のやりにくさを感じましたが、高音の声がとても良かった。
パーセルの「夕べの賛歌」は、よりスムーズに胸声のある発声で歌い通せたと思います。
慣れない胸声発声から、頭声を混ぜていくという発声の課題をこれから続けて指導したいと思います。
MMH 
直前までインフルエンザの影響で練習もままならず、本番をキャンセルしようか?という状態でした。
しかし、意を決して出演した結果が大変すばらしいものでした。
ドビュッシーの「ナイアードの墓」は低音から高音まできれいに表現できて、曲想を十分に表現していました。
「浅草橋の下」は、曲調に支えられたせいか、リラックスした歌声が心地よかった。
ミュージカル「ゴースト&レディ」より「走る雲を追いかけて」声も良く乗って軽快な音楽を楽しめました。
何より心を込めて歌っている姿が良かったです。
このように何を歌ってもそつなく歌える音楽性は貴重です。
その意味で発声の基礎、声を器楽的に扱う技術という面に更に踏み込んで研究を続けてください。
MO 
良い結果でした。
今年の6月に向けて備えたのが延期になったためか、余裕も出来て満を持した本番になったと思います。
トスティの歌曲Non t’amo piuのキーを下げたことは良かった。
これも余裕につながりました。
イタリア古典Tu lo saiも良い声の抑制が出来ていて高音にも無理がなく丁寧にまとまりました。
信時潔の「丹澤」最後に伴奏合わせで決めたテンポ感が良かったですね。
これは成功したと思います。
課題は発声です。
高音の発声も徐々に覚えていますが、それ以上に歌詞の子音を丁寧に出すことと、矛盾するようですがレガートに歌うことをどのように技術的に克服するか?ということです。
そして歌いやすい中低音域が、やや舌根や喉周辺に力が入りやすいようなので、この点はまだ修正が必要でしょう。
SKM 
熱演でした。
1曲目のPlaisir d’amourは歌詞が明快で情熱的な表現が印象的でした。
2曲目のAve Mariaは、歌詞というよりもメロディが本質的に持つ熱感を表現しようとしている点が関心しました。
3曲目は本当に教えた通りの表現で、ドラマティックにまとまり、聞いていて感動させられました。
素質なのでしょうが、音楽的な表現に自分を載せるのが上手いと思います。
良い意味でクールではない。
これを逆にとらえれば、クールに発声のことを課題としてほしいと思います。
大分声の共鳴がついてきましたが、さらに緊張を解いた低い喉で歌う中高音域の声質です。
その結果、高音ももっと声量のある声が出せるようになるでしょう。
またブレスが足りるか足りないか?を練習段階でち密に考えてフレーズを丁寧に処理すること。
SNT 
良い演奏でした。
声量も十分で音楽も十分に表現できていました。
特にヴォカリーズは出色の出来でした。
3曲とも自画自賛になりますが、良い選曲ですからご自身のレパートリーとして大切にされてください。
2曲目「天国の美しい3羽の小鳥」は、音楽的な表現として間合いを大切にと指導しましたが、半ば実現していたと思います。
フレーズ毎の変化も間合いに関係しますので。
3曲目は、リハーサルで指摘した3拍子の1つ振りのテンポ感が良く出て楽しい歌になりました。
惜しむらくはせっかくの前奏に比べて、歌が重く始まったこと。
微妙な違いですが、アンサンブルとか声の問題というのは自分の感覚を超えたところで合致しますので難しいです。
重くなったのは声量を頑張ったせいだと思います。
確かに声量のある歌声は必要ですが、そこからマイナスして軽やかに歌うことという表現も覚えて行ってください。
ST 
今回はいつもの声を引いてしまう癖がなくなり、積極的に声を出せるようになりました。
そのため声量不足はまったくなくなり、このホールに満ちた声の響きとなりました。
彼女はKRさんと同じ課題ですが、頭声だけで歌ってしまう傾向がありました。
それを、胸声を基本に変えてかつピッチを合わせる発声を教えてきました。
これは会得するまで年季が要ります。
発声に迷いが出ると、だれしもこの点が一番ネックになるものなのです。
これ勘違いされると困るのですが、特にソプラノの場合はソプラノらしい美しい高音発声と相反するというイメージになりがちなのもあるでしょう。
そういうイメージで歌うのではなく、発声のもっと基礎の基礎という意味での喉の扱い方になります。
そしてこれは喉と腹式呼吸とのコラボになりますので、ブレスの身体使いも大きな要素になります。
もうしばらく忍耐は必要ですが、発声の基本を会得してください。
HA 
堂々たる演奏でした。
このところのレッスンで、喉を低くする発声を教えてことが大きかったと思います。
一方で高音発声は、本来頭声と胸声のミックスが自然に出来ている喉だったことで、自然に対応できています。
発声面で課題がなさそうに思えますが、軟口蓋は高くブレスは深くということは大事です。
それと関係しますが、子音の発音と発声の関係もしっかり深めてください。
歌心があり表現力は十分にありますので、
Vagaluna は、テンポ感が良い所で歌えました。
この時代の古典的なベルカントであるという対処法であれば、いわゆるてにをははあまり出さない方が良さそうです。
歌詞をはっきりと、という世界ではなく、声質とフレージングで魅了するのがソプラノの作法かもしれません。
Qui la voceはも同じです。
最後の高音はきれいに決まりましたが、もう少し響かせられると最高でした。
声の換声が関係あるので、5点Aから上への換声の技術を磨いて行けると良いでしょう。











