ASY

声が温まらないと調子が出ないのは、誰しもそうです。
彼女の場合、温まると飛躍的に良くなるので、この点だけが当日の課題と言えます。
暗譜は諸条件あるので、不要ですが、声の準備だけは入念にお願いします。

グノー「セレナーデ」これが1曲目ということもありますが、声のことも考えて、テンポは軽めにしました。
そして声は抑揚をつけないで、しっかり歌いとおすことだけを主眼にしてもらいました。
時間的な制限もあり、3番まで歌わないという理由もあります。
軽やかに、しかし良い声でしっかり歌ってください。

同じくグノーの「アヴェ・マリア」
伴奏のテンポ感と、特徴的なアルページュに注意。
16分音符が正確に回ることで、歌の旋律との関係が良くなります。
出だしは声を揺らさないで、しかりきっぱりと出てください。
全体に低音に降りると揺れる傾向があるので、この曲では声の揺れに気を付けてください。

中田喜直「ねむの花」
これはテンポの設定だけで良かったです。
これも軽やかなテンポが基本です。
内容が意外と哲学的なので、重く歌うと暗い気分になりますが、暗い気分にならないように歌うと良さが出る曲ですので。

全体に、彼女らしいとても良い声が出ていましたので、当日の喉の準備がどれだけできるか?が要になると思います。

SNM

伴奏合わせでした。
3曲とも、ほぼ出来上がっていますが、強いて言えばカルメンの「ハバネラ」でしょうか。
言葉が多いので、ブレスポイントに苦労します。
それと、もう少しだけ声の響きに太味があると、良いと思いました。
とはいえ、良く歌えています。

「ファウストの劫罰」のアリア「愛に燃え上がる炎が」は、アリアらしいドラマティックな音楽が楽しめる演奏でした。
これも中低音の響きに厚みがもうすこしあれば、言うことがありません。

後奏は長いですが、曲の表現の大事な要素なので、全部弾いてもらいました。

中田喜直「悲しくなった時は」伴奏とのアンサンブルがテーマになりました。
特に楽譜の指示がなくても、音楽が表現していれば、テンポは自然に前に進んで行くと思います。
また、火が付いた音楽が収束に向かうときはどうでしょうか?
基本的には伴奏者の手腕が大きいですが、歌手がそういう意思を見せることも必要です。

声のポジションが全体に高い感じがしました。
「悲しくなった時は・・・」の最初の件は、なるべく喉を良く拡げた声で始まると良いでしょう。
そうすると、次の「海を見に行く」のフレーズの声が、あるべき低音域の声として、違和感なくつながると思います。

HA

中低音発声で、喉を深くして発声する癖があり、これが声をこもらせたり、微妙にピッチの低い中音域の発声につながっています。
声を出す時に、お腹に力を入れてお腹から出すようなイメージを持っていると思います。
それでよいですが、声の出だしを喉ではなく、頭部から出だす、あるいは軟口蓋から出だす、というように高い位置から出だすことに意を注いでください。
そして大事なことは、お腹を固定しないで、歌うにつれてお腹が自然にへこんで行くことです。

ヘンデルのAh mio cor伴奏とのアンサンブルが中心です。
テンポはあまり速くなく。適度にゆったり気味が良いです。
後奏は、立派な音楽を作ってくださいと伴奏者に頼みました。

ルッツィの「アヴェ・マリア」イタリア的に情熱ある音楽を目指しました。
3連符の伴奏は海を進む船を表現しています。
マリア様は、航海の無事を神にとりなして祈ってくださる方になります。
そのことが、この3連符の伴奏になっているため、どこか勇ましい雰囲気があるわけです。
イタリアはマリア信仰が強い国ですから、祈りの強さにおいても情熱的になるわけです。

オペレッタの「こうもり」から、アデーレのアリア。
大変良く歌えており、日本語の歌詞も良くわかる歌になっています。
ただ、子音Hだけが聞こえにくく、しっかり意識して出さないとただの母音に聴こえてしまいます。
ドイツ語のCHのようにしっかり出したほうが良いでしょう。
後は、最後の最高音は、本番のテンションではしっかりした発声でロングトーンを期待しています。

ST

歌声の根本的なことですが、確かに声の響きを意識しますが、意識の持ち方を間違えると、響かない声になるということをまず最初にはっきりさせておきたいです。

というのも、声を出すにはどこをどうして、どうすれば声が出るか?という集中だけだと、声のエネルギーの基になる「表現する」「言いたいことをメロディで言う」という
言葉が不在になってしまうからです。
エネルギーといういみでの言語感覚がなくなると、エネルギーのない歌になってしまうでしょう。

確かに外国語で歌いますが、外国語であっても、それは言葉であり、その言葉をある時は力強く、ある時はか細く、言葉の意味とメロディの性格を照らし合わせて、
歌というスタイルに結実しなければなりません。

のっけから難しい言い方になってしまいました。

要するにいつもそうですが、歌い出しで声が前に出てこない傾向が強いです。
それは、声の響き方、響かせ方だけに意識を持つからです。

たとえば、スザンナのアリアは、レシタティーヴォから歌いだしますが、まずGiunse alfin il momentoというわけです。
まずはGiunseのU、AlfinのIそしてIl momentoのEにアクセントがあります。
アクセントをはっきり意識して歌ってください。
それは、アクセントが言葉の意味を表す音だからです。

ただ単にカタカナの日本語でイタリア語の代わりにしたもの、ではないわけです。
日本人であることを捨てましょう。
大きな広場で、人々に向かって自分の言いたいことを公言する、というシチュエーションを考えてください。
基本は、どんな曲でもはっきりくっきり明快に、というスタイルをイメージすること。

それは、音程とリズムを明快に出す、と考えた方が分かりやすいかもしれません。

これらのことを、細かく指示したわけではなく、これらのような意味を以て、歌い方の指示をしました。
声は良く響くようになりました。
また、モーツアルトのRidente la calmaは、ほぼ出来上がり、と評しても良い出来上がりになりました。