声楽愛好家の方は、誰しも名人が歌う歌唱に魅せられて自分も、と思って始めるのではないでしょうか?
大いに素晴らしいことですが、単純に名人の歌を聞いて真似るだけではなく、聴いてくれる人にその音楽のすばらしさを理解してもらうことを目標にして欲しいのです。

俗に、声楽は喉を楽器に仕立てるという言い方をしますが、それはどういう意味でしょうか?

例えばヴァイオリン。

ヴァイオリンを弾けるようになるためには、まず開放弦(指で弦を押さえない)で、ボーイング(弓の上げ下ろし)だけの練習をすると思います。
想像してみてください。
単に弦をボーイングするだけでも、良い音になるか?のこぎりを引くような音か?という違いが生じるでしょう。

次に指をフレットに乗せて弦を抑えて音程を出す。
指を変えて音階を弾く。
音階からフレーズに換えて、弓のボーイングの仕方も覚える。
指を揺らして、ビブラートをつける。

このような練習を積み重ね、1年くらいでやっと簡単な曲を人に理解してもらえるレベルまで到達するでしょう。

声楽も、形こそ違え全く同じことなのです。

何が違う点でしょうか?

声楽は、歌うという人間が本来持っている能力を全く違う観点から捉えなおし、その能力を再構築することです。
その意味では、楽器に習熟することより難しい面があります。

その技術的な難しさは、歌う行為に関する固定観念を変えることが出来れば、思ったより容易に手に入るものでもあります。

そのためには、自分の声を更に良い声にして効率よくホールで響く声に仕立て上げること、に関心を持ってください。
そこに興味が持てないと、ただ難しいだけ、で終わってしまうでしょう。

音楽を聴くのが好き、というポジションから自分の立ち位置をくるりと変えて、音楽を発信するのが好きというポジションに移りましょう。

客席から舞台へ、という転換です。