AY

発声練習では、ハミングの練習を中心にして、明るい声の響き、声帯の良く合った密度のある響きを目指しました。
これは練習なので、良い声の響きのイメージではなく、単に「音、音質」という面だけを重視します。

彼女の現状は、ブレスと喉の準備の段階で、深く奥に入った発声をすることと、喉を押さない、という2点が
特に中低音発声では、声が前に出て来ない、通らなく小さな響きにつながっている、と思われるのです。

例えば喉を「押さない」という言葉は、発声上では良い、とされ勝ちな言葉ですが、言葉が独り歩きして、声帯やその周辺への神経支配が
希薄になる、というデメリットもあるでしょう。

あと、母音発声では、IとEで練習しました。
特にEにすると、喉を深くしないメリットが自然に出てくるからです。

私の類推ですが、彼女の経験の中で、喉を深くして(開いて)歌うことの中に、歌声の支えを見出しているのでは?と思います。
発想をまったく逆転させて、声の場所は頭の中である、という転換をしてください。

どちらでも大切なことは、声を支える喉のポジションは一定であれば良い、ということです。
深いか浅いか?は問題ではありません。

このような視点で歌の練習をしました。
最近、皆さんに勧める朗読をしてみます。朗読はなるべく高いキーで響きを頭の中に入れるような感じで
喋ってみます。

いわゆる大きい声、胸で強く太くして大きな声を出すのではなく、頭の中にカンカン響かせるような、
適度に甲高い声、を連想してみてください。

この練習方法は、声帯の合わさる感覚を蘇らせてくれるでしょう。

もう一点は、発音・発声時の下顎の抑制です。
母音のAとかOは、特に下顎で母音を発声していますが、そうではなく、上あごだけを使う意識を持って下さい。
このような練習は、歌よりも朗読で練習すると良いでしょう。

バッハのカンタータ2曲と、ヴィヴァルディのアリア1曲を練習しました。
イタリア語の方が発声の課題には良いと思いますが、ドイツ語であっても同じことです。
母音のAは特に気を付けて発声して下さい。下顎で発音しないで、軟口蓋を開ける、上げること、と思ってください。

EM

発声は、喉が自然、明快に明るくなって、余計な力みがなくなって来たことが良い点です。
そのため、低音域の声も自然に拡がりをみせるようになりました。

ただ、まだ力みは残っていて、細かいちりめんのようなビブラートがあること。
これは、特に高音に入る辺りで出て来る傾向が多いようでした。

理由は様々な要因が絡み合っていて、どれとは言えないですが、身体が硬くなっていること、
結果的に喉がまだ締まっている傾向にあるのではないでしょうか?
そのため、高音になってくると、喉頭周辺から下顎のどこかで揺れが出ているのだと思います。

今回もシューベルトの「竪琴の歌」から、2番と3番で始めて、最後にシューマンの「君は花のように」を練習しました。

今回の感想も、発声そのものよりも、歌い過ぎないこと、ということが一番感じたことです。

声は色々なアタックが考えられますが、彼の場合は、語ることをもっと重点的に覚えると、
結果的に発声がもっと良くなるような気がします。
平たく云えば、悪い意味での力みがぐっと抜けるように思います。

音符を歌うことと、歌詞を語ることの配分を、5:5くらいに考えて下さい。
旋律を歌えるようになったら、あとは練習時間の大半を歌詞の読みと朗読に費やして下さい。
朗読の感覚を徹底させたら、少し歌ってみます。

こういう勉強方法をしばらく続けてみてください。

歌うことが目的ですから、朗読はあまり面白いこととは言えませんが、朗読の声の使い方が、
発声に大きな影響を与えることと、音符を歌ってしまいがちな歌唱を、歌詞を歌う歌、に
自然に移行させてくれる大きな要素になるので、ないがしろに出来ないです。

SNM

発声練習はIで始め、途中でAに換えて、一通り上り下りしました。

喉の温まりが早く、良い発声をしている、と思います。

発声する姿を見て、その声と共に一番感じたことは、顎が力まないで発声出来ることです。
そして、そのための首の座りがしっかりしていること。
そして、そのための姿勢全体が良いです。

というように、身体全体の状態がすでに発声を良くするための作りが出来つつあるように見えています。
強いて言えば、少し力みがあるかな?というのは、肩とか胸辺りの力みです。

この辺りの力みが取れると、或いはその力みの意味が本人の自覚する所となれば、
喉の扱いに更に余裕が生まれて、そのことで、声量が増すと思います。

曲は「月の光」から、私の勘違いでオリジナルの♭5つではなく、3つの方の高声用で始めた、
歌い終わってから、指摘されました。
指摘されても、まったく違和感のない声でしたから、それだけ声域の柔軟性もある、と言えるでしょう。

それから、実際に高声用で歌う方が、彼女の声の資質が活きるように思いましたので、今後はこの
高声用でやることにしました。

指摘したことは、このキーの場合の最高音2点Gの声の扱いです。

Jouant du luth et dansantの2点G,Tout en chantantの2点G,そして最後のPami les marbresの2点G
3か所ありますが、普通に張るのは、最後のフレーズだけ。
あとは、柔らかく少し抜くように廻して下さい。特に2回目のChantantの高音は、ささやくように出せれば理想です。

中間部のAu calme のリズムを間違わないように。

「サンソンとダリラ」は、歌い込みが進んで声の充実感を感じさせてくれる演奏になりました。
厚みのある重厚な響き、というわけではないですが、必要充分な声質の中低音の声を持っており、
このメゾソプラノのアリアを、充分に聞かせてくれる声だと思います。