発声の始まりは中音域で、声帯がピリピリと振動してしまう。
単純に喉が温まっていない、あるいは喉だけで歌ってしまうという状態になるのだろう。
姿勢に気を付けて、顎をきちんと引いて、前に出ないように。
それはブレス時点で顎を出してしまうため、むしろ顎を引くようにブレスしてみてはどうだろう?
そうして声を出す瞬間にも顎が動かないようにして、Huなどの喉が下がりやすい母音で発声をすると、滑らかになる。

ただこれだけだと、声がこもるので今度は上顎の意識が必要になるが、この時はやらなかった。
彼女の場合、声を出す際のブレスと姿勢の関係で、特に中音域で喉だけで当てるような感じになるのを注意したい。
喉で何かしないで、息が喉を通り抜けて結果的に声が出ている、という感覚だろうか。
喉でビリビリいってしまうのは、声質としても良くないと思う。
まずはこの点を注意。

歌はプーランクの「あたりくじ」
最後の「四月の月」から。
やはり発声では比較的しっかり声が出るが、歌になると歌詞の発音が喉側にこもる声質のせいか、通りの悪い声になる傾向。
Luneと出るイの母音から響きを起こして、口を突き出して決めること。
フランス語のYはドイツ語のUウムラウトみたいにしない方が声としては良いだろう。
ある程度高い響きが意識して出せるようになったら、喉の深いUウムラウト的な深みのある発音で良いと思う。
今はとにかく、中低音は高く当てること、高い響きを意識することに集中して欲しい。

逆に彼女の場合中高音域、2点C~Fくらいの間では、重心を低く取っておいて、息はしっかりと前に吐き出すようにしてほしい。
中にこもってしまうので、これも声を出すエネルギーの割りに外に出てこない印象である。

ただ、恐らくいずれも歌詞の発音が関係することではないだろうか?
横で歌うところを観察していると、発音の際に恐らく舌根が硬くなっているのではないかな。
発音の丁寧さを捨てても良いから、舌を脱力することと、舌先が引っ込まないように下歯の裏に少しついている状態を維持しても良いかもしれない。
勿論、子音発音の後の母音状態の際の舌先に意識である。
それだけでも、声が前に出てくる気がするが、どうだろうか。

それはIl bacioを歌っても印象は同じで、発音字の舌根の力みが声のこもりに繋がっている感じがした。
単純に喉を浅く感じて、下を脱力しただらしのない発音を意識してみると、案外声が前に出てくると思う。

基本的な譜読みやフランス語にはまったく問題ないので、声を出すため、良い響きを出すための発音や、発声へのバランスに重きを置いて欲しいと思う。

いわさきさん

今日は高音の練習に特化した形になった。
喉が締まり易いのだが、締まり易い原因は声を出すことそのものよりも、息を強く細く当てる、或いは出すという感覚が
足りないのではないだろうか、と推察した。
他にも先生に就いてらっしゃるそうだが、身体の力みは絶対禁止、喉が硬くなっても絶対駄目、とのことで、良い意味で
しっかり吐くこと息を送ることが出来ていないことが最大の原因だと思う。

最初から完全な脱力は難しいと思う。
身体を使って思い切り出す、やってみるというトライをしてみて初めて脱力の意味が分かるのではないだろうか。
脱力といっても、全て力が抜けるのではなく、必要なところで力のポイントをかけるために、ある部分は脱力している必要がある。
これは声楽に限らず、スポーツや芝居や身体を使う芸事には共通したテーマだろう。

口の形は、結局その口の形そのものよりも、口の形を整えることで、喉の開き具合、あるいは締め具合というバランスが
出来るのだと思う。そのことで、息の通り道が出来て、声を出すための呼気を呼び寄せるような効果があると考えて欲しい。
これは基本的に姿勢も大きく関係ある。

発声練習ではどうしても2点Aを過ぎると、喉が完全に締まっていたが、歌になるとむしろ良くなる傾向はあった。
ベッリーニのMalinconia、Vanne o rosa fortunataなどは、かつて歌った曲であるせいもあるが、高音はぎりぎり綺麗に出せていた。
ただ、Vanne o rosaは上に行くほど薄くなって喉が上がりそうである。
喉から逃げよう逃げようとしても、かえって喉が締まるだけである。
逃げないで歌うためには、逆に口を開けすぎないこと、横開きにしないようにすることによって、中が開く道筋が見付かるだろう。
そのために、恐らく下顎に力は入るだろうが、それは止むを得ない経過的なことである。
問題は、声による判定が大事なのであって、出ない声をいくら力まないでやろうとしてもそれは無理である。

だから力め!という意味ではない。
力を必要としている場所があって、それによって結果的に良い声が出ているのであれば、その方法から端緒をつけようということである。

ドビュッシーの歌曲Nuit d’etoileの高音2点Aが一番締まって出なくなっていたが、これも顎が出ない姿勢と口の開け方を開きすぎないで
声を入れるポイントを後頭部に持っていくことで、良いメッザボーチェで綺麗に出せる良いポイントが見付かった。
顎を出さないことと、口をすぼめ気味にすることである。
恐らくいわゆる吸って出すような感覚だと思う。

彼女は経験が長いようで、基本的に歌の核になる体、あるいはその使い方が出来ていると思う。
先生の教え方もある面で成功しているようで、声を押さないで良い響きを探して歌うことは、彼女の場合成功していると思う。
ただ、フレーズを大きく歌う気持ちよさや、高音の開発のためには、クリアしなければならない体の思い切った使い方があると思う。
慎重さは大切だが、怖がらないで思い切り伸び伸びと歌うことも大事にして欲しい。