イタリア古典からカロ・ミオ・ベンとモーツアルトのドンナ・アンナのアリア。
前者はとても良い。声が良く響くしブレスも伸びる。
しかしモーツアルトになると前半のゆっくりの部分は良いが、後半アレグレットで
音が回りだすと、途端に腰砕けになってしまう。
ということで、結果的に言えるのは彼女の声は予想に反してかなり重く使っているとのだろうか?

たとえば発声練習。
発声の声はとても軽いし声を押さないその傾向は良いと思う。
ただ、見ているとブレスが思いのほか浅く、喉も歌になると開くのが発声だとほとんどその傾向が見られない。
要するに発声練習では声を何かしようとしていないのだろう。
良く言えば発声の声は無理をしないで、喉を暖める程度。
歌になると音楽の要求に応じて声を使う、という具合か。

こういうことを習って得たのだ、とするなら、なるほど良い習い方をしているなとも思える。

カロ・ミオ・ベンはブレスも長く、声量も充分で、フレージングが上手く言うことがない。
今日はピアニストとフェルマータと歌とのアンサンブルを何度か練習したくらいである。
強いて粗を探せば響きがやや暗めでビブラートが多めということだろうか。
これも前述の声の使い方がやや重いことに起因していると思うが、この曲の場合あまり気にならない。
以前に書いたと思うが、いわゆるバロック的なあっさりした軽い歌い方ではなく、後期イタリア的な歌唱、それは
オペラの重い歌い方に通じるものだろう。先生の好みだったのではないかな。

モーツアルトは、前半のゆったりしたところは非常に美しい。
思わずうっとりと聞き入ったくらいである。
ただし、後半のアレグレット部で、廻す所になると途端に声量、息の勢いが出なくなる。
これも、テンポを調節して、彼女のブレスを極力尊重したことと、後は廻すメリスマ部では、上に行くクレッシェンドを大切にしてほしいこと。そしてブレスポイントも無理をしないでなるべく入れることである。

今回、レッスンに来初めて直ぐの発表会、しかも遠方からの通いなのでレッスンも少ない。
ただ、今までのある程度の蓄積があるので、一度先ずは出てみたら、ということである。

中長期的な課題としては、声をコンパクトに当てる方法を入手したい。
今の出し方は、あまり当てないで喉を開いていってクレッシェンドして声を出して行く方法に見える。
この方法だと息を強く出して行かないと響きが出てこないから、当然早いパッセージが声が出なくなってしまうだろう。
元々が重い声の持ち主であるならば、ある程度はいたし方がないが、彼女の持ち声はそれほど重いものとは思えないのである。

もし練習できるのであれば、狭母音のイヤエなどでこのメリスマの部分を練習してみて欲しい。
下手にやると喉にくることもあるから、注意して響きはなるべく高めに上顎から上で響かせるようにである。
狭母音で当たった声になると、上に昇るほど締まりやすくなるので上に行くほど口を開けて喉を開いて行くように調節するように。

色々書いたが、基本的には良く歌えているので今回はあまり課題にこだわらずに自分のペースで歌うことを基本にして欲しい。
声の課題は中長期的なことだから、じっくり対処して行くことを考えてもらえれば良いと思う。

あめくさん

声のチェンジの問題(2点C~Eくらい)が結果的に出るのだけど、これはどうもチェンジのことというよりも声の当て具合でかなり解決できる問題だろうと思う。
要するに声を押してしまう傾向が強いのではないかな?
声はチェンジしていない声で当てても良いのだがピッチを高く取ることと、特にフレーズの入りは軽く入ることがコツである。
ピッチを高く取る意識と軽くふんわり入ることが出来れば、自然に声はミックスして行く傾向になると思う。
ここを手に入れることが一番の課題ではないだろうか?

フォーレの「祈りながら」は歌い始めは声のコントロールがなく抑制が効かないのでちょっとうるさい感じがしたが、
フレーズの入りを柔らかく、丁寧に出来るようになって良くなった。後、ピッチに気をつければ、良い線に乗れるだろう。
Si la voixと入る冒頭のフレーズは、母音イからであるが、このイも充分に気をつけて!
柔らかく丸いイであること。ピッチが高いことに充分注意を。
この曲は上手く行くと非常にふくよかで品の良い声が聞こえてくる。
そういう点に彼女の可能性の大きさを感じるのである。

「歌を歌える妖精」は、言葉数の多い旋律であり、文節がはっきりしないと何を歌っているか分からない歌になってしまう。
分からない、というのは言葉の意味ということではなく、フレーズの単位と言葉が紡いでいる構成感のことである。
これがあるかないか?で歌の上手い下手、良し悪しが大きく決まるので、歌曲、アリアに限らず大切なことである。
これについは、知識がないのでこちらで徹底して教えた。
時間がなくて完全に教えられなかったので、自分で良く見て確認して欲しい。
その上で分からないことがあったら質問して解決しておくことである。

声のことはこの曲に限らずすべて同じテーマ、すなわち声のアタックに細心の注意を、である。
特に当りやすい母音、イやエなどは注意。
当てない、のではなく、当て方を注意である。

エの母音が多い「愛の唄」は難しいようである。
元々エは声帯が閉じ易いので、頃合を出すのが難しい。
かといって当ててしまうと、響きが重く♭でこの曲にはどうも不似合いな声である。
声を完全にチェンジしてしまうのが、一番簡単だし、今では完全に意識してチェンジしても音域的に聞こえるので問題はないと思う。
ただ、完全にチェンジすると喉がどうしても浅くなるので、その面を補うように意識できれば、良いと思う。

この曲は騙されるみたいな転調が多いので、その点には注意してもう一度譜読みの確認を怠らないで欲しい。

にしむらさん

彼女自身のこの半年の成長ぶりは目覚しいものがある。と、今日の彼女の歌を聴いていて思った。
声の面では特に中低音域がきちっと響きを出せるようになったこと、そして高音が安定して上に伸びたことである。
以前は高音が重くて2点bもアップアップだったのが、3点Dくらいまでは確実になってきた。

歌として聴いてみると、声質が本質的に変わったわけではないのだが、声の扱い方を工夫したことでノーブルになった。
それは声の無駄な揺れをなくしていることと、響きのポイントが少し深くなったことである。ただ深くても声は前に出るようになっている。
良く練習しているし研究しているのが如実に分かるのである。
当初、フォーレを歌うということで前回の演奏会に続き、どうか?と思ったが、明るく響く声で明快でいながら、ノーブルなフォーレの音楽が表現出来つつあるのを感じている。

「夢の後に」音楽的な設計がこちらの指示通り的確に歌ってくれて好ましい。
ブレスも持つので、こちらが気を使って8分音符を進めていく奏法をせずに、きっちりとした古典的なインテンポでも
確実に歌えるし、クレッシェンド~ディミニュエンドをしてくれるので、安定してノーブルな歌唱になった。
後は、フランス語の発音を更に洗練させて欲しい。
特にYeuxとか、Cieuxなどのj+狭母音である。
これは実際は1シラブルなのだが歌の場合は、微妙にイ+母音の2つに聞こえるようにして欲しい。

Serenade Toscaneは、素晴らしい。実にノーブルな声と男性的な歌の要素が絡み合って、独特の色気の漂う歌になっている。
この曲は男性が歌えば 普通に男らしい歌である。
女性が歌えばこそ女性の持つ芯の強さがにじみ出て、それが色っぽさにつながる。
これを昔は仇っぽいと言ったのだろう。

この曲に限らずだが、後はメッザヴォーチェの声を覚えられれば、完璧ではないだろうか?
彼女の場合メッザヴォーチェは、ただ単に声の音量が小さくなった、という印象であり、実際のホールでは弱いだろう。
息はむしろフォルテよりも使うくらいで、声帯をもっと開いておいて、頭部の共鳴を利用した響きをこれからの課題として欲しい。
この場合どちらかと言うと母音の扱いも広く大きな傾向になるはずである。

彼女の場合声を集める傾向が強く、口をあまり開かない発声であるが、喉も開いて軟口蓋も良く上げた口奥の広い発声で
息の良く混ざった声で共鳴がつくと、鬼に金棒だと思う。
出来ればこの発声を会得して欲しい。きっと出来るようになるだろう。

Adieuxも前述のメッザヴォーチェが出来れば完璧、というくらい良く歌えている。
伴奏を弾きながらうっとりと聞き入った。
最後に、OLYMPIAを聞かせてもらった。
ちょっと挑戦的なつもりで彼女に与えたのだが、こちらの思惑通り、なかなかお似合いのキャラクターであることを確認できた。
声も以前ではほぼ絶望的と思った3点C以上が届いている。
上に引っ張り上げる力が弱いので、後半の2点bが続いて打つ部分で、喉っぽくなってしまうことがこの曲の要だろうか。
最後の3点Esはかすらないで、喉を怖がらずに一気に高く当てられれば、先ずはそれで良いと思う。
慣れることから始めて、更に洗練させて行けば良いから。