岩崎さんの出来が早いのは分かっていたので今日の良い結果は予測が付いた。
予想以上といっては失礼だが、ピアノの出来が急速でピアニストの譜読みから音楽作りまでの速さに感心した。
特にアーンのL’heure exquiseの雰囲気作りの確実さは感心。
フランスの香り充分。
グノーは終始一貫続く16分音符のタッチが段々と気になったが、それも指摘すればたちどころに良くなった。
強弱をはっきり付けること。
ビゼーは最初からバッチリ!実にこちらの意図を汲んでくれて的を得た演奏。

この3曲は並びが良くて、まったくフランス的である。
古いパリの町並みの匂い、雰囲気が濃厚に漂う味わい深いものである。
目をつぶって聴いていると懐かしさに涙がこぼれそうになった。

こういうのを聞くと小難しい曲ばかりやるのがフランス歌曲をやることにはならないんだな、と我が身の過去を振り返りつくづく反省。
フランス的というならエスプリが大切だから難しさよりこういうシンプルな内容でエッセンスが詰まったものをやるほうがセンスの醸造には良いのだ、ということがつくづく判る。
例えば詩はどうか?恋の歌を我が身に即して素朴に歌い込めないで、なぜ象徴派やシュールレアリズムの詩を歌えるのだろう?
逆に言えばグノーやマスネーやビゼーの時代があってドビュッシーやラヴェルやプーランクがあるのだ。

ところで彼女は前回のレッスンから更に一段言葉の意味を噛み締めて歌うイメージ力が増していた。とても勉強家である。

いわさきさんの歌唱を改めて聴いてみて、あれこれいじって壊したくない、というのが本音。
本人は不満だろうが、声は機械的には行かない。
声帯の開いた息の混ざったミックスボイスで響きを頭部に入れるのだが、その方法に時としてカスカスした響きになりがちな要素を含んでいる、と見た。
口の使い方に特徴がある。下あごを良く降ろすこと、鼻の下がむしろ下に伸びるようにアーティキュレーションすることだ。

この特徴は恐らく喉を良く開くことにあるだろう。
軟口蓋も中であげているのだけど、バランス的に足りないこともあるかもしれない。
また、更に軟口蓋を上げようとすると声帯が合う方向に行くから、そこで引きつる感じが出て嫌なのかもしれない。
歌っている彼女にしてみると、無意識に近いかもしれないが、逆に言えばその方法以外のやりかたを取り難いのだろう。

単純な話、変えたいと思うなら上記の使い方のまったく反対のことをしてみることしかないだろう。
そうやってみて、声がどう変わるか?
今までも少しずつ指摘したが、そこから変わるとしたら本人の希望と意志によるだろう。
敢えて、変わらなくても今の彼女は良く歌えるから、強いて言えば高音をもっと伸ばすこと、とも言える。

それでも、私としてはそういうことだけが歌で大切なことだ、とは思えない。
仮に音域が狭くても、声量がなくても、綺麗な響きで人を感動させることが出来る歌が歌えるなら、他に何を求める必要があるのだろう?
必要なレパートリーを大切にして、ハートを更に高めることで充分ではないか?と言いたい気持ちがある。

ともあれ本番はとても期待が高まる。成功を祈る!

たかはしみかさん

今日は最後の合わせ。モーツアルトは心配なかったが、慣れないドビュッシーがいかばかりか?
心配だった。

モーツアルトは言葉も良く入り、顔の表情も良く、出来は上々。
声も彼女の良い声の部分が目立つ好演奏が期待できそうである。
Vedrai carinoだが、「薬屋の歌」という訳はちょっとおかしい、という話になった。
薬屋の薬にもない、というくだりがあるにはあるが、タイトルで薬屋云々では誤解を招きかねないからだ。
ただ良いのは短く表記できる、ということだろう。

形式どおりの前半部は、テンポと表現が良く合っていて好ましい。
強いて言えば言っていることをもっとはっきりと。
公言している意識を持って欲しい。
内容は恋人との対話だとしても、お芝居なのでたくさんの人に公言している感じがあったほうが良いだろう。

後半はテンポは変わらないが、ピアノの連打音はもう少し心臓のドキドキ感を出して欲しい。
前半のノンビリとは違うのである。
歌う方も、もう少し自分の実体験を生かして!?ドキドキした意識を歌うフレーズに載せてドキドキ感を表して欲しい。
手を使うのも効果的ということで、多少振りを練習してみた。
大事なのは歌のフレーズとの自然な一体感だろう。
声は今の時点では言うべきことはない。
安心して伸び伸びと歌って欲しい。

さて、ドビュッシーの歌曲2題。
聴いてみた感じとしては、アンサンブルの合わせにあと一歩の不足を感じた。
ピアノと歌、両者とも慣れない音楽、で留まっていた。

まずBeau soirはピアノはもっと全体に良く響かせて、ゆったりと大きな音楽を出して欲しい。
それから、歌の音楽の進展に伴って、同じテンポでも、ゆったりするか少し前に進むか?と言う違いを出して欲しい。
中間部の最後のAnimatoは、かなりやってほしい。
そして最後の節はanimatoから徐々に元に戻してゆったりと終わって欲しい。

歌だが、出だしは何度も言うとおりピアノの3連符に流されないように。
声を充分響かせて、ゆったりと歌い始めて欲しい。
後半のElle a la merの入りは、ピアノの和音を聞いてからブレスをして入って欲しい。要するに間合いを持って。
最後のNous au tombeauの最後のオの母音、胸声が強いと♭になるから気をつけて。

Romanceの1曲目は、地声を使うというよりも響きをもっと奥で響かせるように。
これはこの曲に限らずだが、彼女は声を前に処理することが強すぎる。
ピアノもシンコペの伴奏に入ったらもっと響かせて。

この曲は一点、彼女の声の使い方。くれぐれも前に当てて出さないで中で響かせること。
前に当てた中低音は汚い声になる。

モーツアルトは前日に試験もあることだし心配はないが、ドビュッシーの2曲は当日蓋を開けて見ないと判らない。
判らないが、それだけリスキーで興味深い。
こちらとしては、期待しているし成功を祈っている。