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自宅にレッスンに来る彼女が扉を開けて玄関で発する第一声の「こんばんわ~」という声が、とても綺麗な声だった。
彼女の調子によって声質もその調子も微妙に違うが、今日は落ち着いていて気持ちの良い清々しい声だった。

これはいつも感じていたことだが、今日は何かひらめいて、この声をもっと積極的に声楽に取り入れて行けないか?と思った。
というのも、今やっているプーランクの曲をこういう声で歌ってくれたら良いのだがな、と思ったからだ。

身体や喉のリラックスで得られることは彼女の場合、中低音の声のアタックの問題が大きい。
あくびをする準備とか、深く、とか、ブレス時のお腹の使い方、ということは、最終的に得る必要のあることだが、
実は大切な身体や喉そのものリラックスと相反する方向に行ってしまい勝ちである。

Hotelの出だしの低音Ma chambreのMaの発声も前回やったブレスであくび状態を意識するよりも、喉を楽にリラックスさせておいて、喉で当てる。
そうすると良く当った素直な明るい声が出る。
地声は避けたいが、必然的に地声にならないので、何も問題はないと考えたい。
全体的にこの調子で歌うこと、そして全体的に声をきちんと当ててしっかり出す方向で行くこと。

J’allume au feu du jourは、これも必然的にチェンジするから何も考える必要は無い。
その後のMa cigaretteは、充分にポルタメントが欲しい。

今日初めてのLa grenouillereも、まったく同じ方法である。
この曲は色々な表現が出来る。ベルナックは徹頭徹尾、メランコリーに歌っている。
名演だと思うが、バリトンの歌いかただしちょっとやそっとで真似しないほうが良い、と思う。

彼女の場合、リラックスして楽に喉を当てて出す低音が意外なほど魅力的なので、それを徹底的に出してもらいたい。
そうやって出てくる彼女の声こそが多分普段パブリックに見せない彼女の顔なのではないか?とすら思えるほどである。

強いて言えば、最後に出てくるPetit bateau,vous me faites bien de la peineだけは、深いブレスが必要。
なぜか?といえば、このフレーズだけは失われた過去を思い起こす悲しみが必要だからだ。
だから気持ちで歌うか?発声で意識するか?ということは、両方必要だ。
テクニックを知って意識して使えることも必要だし、ハートは勿論必要、ということになる。

Montparnasseは、とても真摯で情熱的な歌が歌えている。
歌心としては言うことがない。
声楽的には高めの声の後に降りた中低音が上ずってしまう傾向が強いので注意が必要。

逆に言えば、高めの声を出す時だけは、喉の深さあるいは身体の重心の低さに注意した方が良いだろう。
高めの音から低音に降りる際は、低めに感じてドスンと降りたほうが上ずらない。
逆に低音から始める際には、1オクターブくらい高い声を出す意識でアタックすると、喉が不必要に深くならないだろう。

ここでも、On n’a jamais si bien defendu la vertu,,は、歌うより低い声で語る意識、イメージ、声を大切に!

最後にLe voyage a Paris
これも何も考えなくても出だしのAhは、素直な明るい声が出ていてとても良い。
あっけらか~んとして、女の子の声で高らかに歌って欲しい。
途中Pour Paris!だけは、相当に子音を強調して、男のようにプール・プファリー!ぐらいにわざとらしく!
Paris joli!の下からのポルタメントも早めに始めて長めに大きくやって欲しい。

Ah quitter un pays moroseは、切なく息を混ぜて。
Charmante choseは、それこそ自身にとってのCharmante choseを個人的にイメージして欲しい。

次回は、訳詩を朗読することと、その結果を受けてフランス語の朗読を続けて勉強したい。
4曲のまるで別々の歌曲を1プログラムとして、一つの作られたストーリーやシチュエーションがイメージ出来れば理想である。