TK

本番前の練習も煮詰まってきたが、バッハ、コーヒーカンタータは絶好調で、とてもよい結果。
今の時点では、もうこれ以上掘り下げず、声の調子だけ大事にしておきたい。
集中が途切れるか、やり過ぎて調子のピークを過ぎてもつまらない気がする。
まあ、それくらい良く勉強したと思う。
ただ、本番で上がってしまうことは致し方ない。
だから、本番のイメージは良く掴んでおくべきだろう。
広い空間で歌うこと、声の響きがレッスン室とはまるで違うこと、お客さんが聞いていること、など。

ヘンデルのメサイヤ、Rejoiceでは、このRejoiceという発音の頭にあるRiの子音と母音発声の関係を練習してみた。
これが予想以上に難しいが、今は出来なくても知識として知っておくだけでも大切である。

我々は無意識で、日本語の感覚で「リ」と出してしまうために、喉の締まった平たい響きになってしまう。
これは、調音点が前過ぎるのが原因。

で、前過ぎて平べったい響きになる原因の大きな理由は、Rという子音の出し方にある。

彼女はRをイタリア式に巻けないのだが、幸いにして、これは英語である。
クラシックの歌の場合は、それが英語であってもRはイタリア式に巻くのが普通だが、この際だから発音どおりにすれば
前過ぎる響きのRiも上手く中で響いた感じが出せるのではないか?と思ったのだ。

舌先は上顎、硬口蓋のかなり奥にくっつけて発語するのだが、これが難しいようであった。それ以上に、このことが、彼女の発声の特徴と大きな関係があることが良く判った。

これは今回の本番の問題ではないので、うっちゃっておいて良いが、将来的には課題にして頂きたい。

その他は、やはりRejoiceという歌詞のOの母音でメリスマで転がる部分の響きが、気をつけないと少し♭になること。
上唇、上顎を好く上げて、上顎の天井をしっかり高くしておくことである。
そして、中間部のMeno mossoは、しっかりMeno mossoを表現すること。これはピアニストさんの課題としてであろう。

WH

発声練習の声はとても調子が良さそうだった。
実際、レッスン中の声もとても調子が良く、最後まで調子が保てていた。
だが、時々聞く話し声が少し枯れているような気もしたが、心配ないだろうか?

伴奏合わせは初回にも関わらず、とてもスムーズに行き、まったく問題なしだった。
モーツアルトは、レシタティーヴォのAccompagnatoの気合と勢いが素晴らしく、結果的に歌手が引っぱってもらえたと思う。
勢い、は大切と実感。

アリア部分は特に前半は、良く歌えて素晴らしかった。テンポはLarghettoだが、もう少しゆったり目が丁度良い。
ブレスも良く持つようになったな、と感心した。
後半のアレグロ部分は、早すぎると厳しいだろう。ほどほどに、である。
この辺はピアノの感覚と歌手の歌う感覚の違いがあると思う。

後半の高低差の大きいメリスマ部分は、特に終わり近いところの下降形は大分練習の跡が見えて正確に歌えるようになった。
後は、この領域の高音、は下から滑らかに上がる場合は、その響きに注意。浅く締まらないように。
逆にオクターブで上がって連打する所は、あまり気にしなくて良いと思う。

プッチーニのボエームからムゼッタ。
こちらは、ピアノとのアンサンブルを少し練習。
プッチーニは間合いが微妙にあるので、その辺りが難しい。
ただ、これは歌手の歌い方に関係あるので、歌手さんがどう歌いたいか?がはっきりあれば、伴奏が合せてくれる。
概ね、中間部でどう盛り上げて、どう収めるか?がはっきりすることが大切。

やはり最初のQuandoの響きは、やや高すぎる感じなので、もう少し低いポイントを狙った方が好みである。
というかいかにもソプラノです、という声にする必要は無いだろう。
むしろ彼女らしい声を出せば、それが一番良いと思う。
高音の声は、いずれもとても良かったと思う。

TT

発声練習はハミングをやってみた。
中低音域、鼻腔共鳴が足りない感じがしていた。
なかなか難しいのは、彼女の場合は頭声区の響きが多い目なので、低音は響きが出にくいのである。
その分、しっかり出そうとすると、やや上の開きの足りない印象が強くなるのだった。
発声で中声区と呼ばれる部分がもう少し開発されると、更に前に出た中音域の声が期待できるのだろう。
また高音にももう少し輝きが持てるかもしれない。

胸に当てるハミングや、前歯に当てるような発声が良いのではないか。
今日はやらなかったが、本番が終わったら少し拘りたいところである。

モーツアルトのAbndempfindung
テンポを少し早めたいとの彼女の希望で、少し早めにした。
哲学的で瞑想的なこの曲にどうか?と思ったが、実際は気持ちの良い軽快さが良く感じられ、彼女の声の響きには合っていることが解った。
ただ、最後の部分で繰り返し出てくるO sie wird in meinem Diademeのフレーズはそのために、1ブレスで処理することになった。
その他、こちらは本当の最後のSie wird die schonste Perle seinも1回目は1ブレスだろう。最後だけは、Ritするからカンニングは入った方が良さそうである。その最後のDieの入り、16分音符になるところだけは、In tempoから少し外れても、ブレスに間合いを持たせた方がせからしくない。あまりにIn tempoの処理にこだわると、音楽がどうもせからしい感じがしてしまうからである。
前回指摘した、中低音域の響きの抜けは、今回は感じられず、それなりに、きちんとしっかりとした中低音の声の表現になっていたと思った。

「オランピアのシャンソン」は、出だしから声は調子が良かったが、やはり前節の長いAhでメリスマ部分。ブレスが足りないのは
後半、ブレス記号が入っているように入れたらどうか?と指示。あるいは何度も言うようにRitをしないこと。
息が苦しいと、自分で遅くしてしまう面もあるだろう。

そして、今までのレッスンで散々練習をした、AhAhと何度も出てきて、最後に2点bを繰り返し、電池切れで終わる所。
この2点bの繰り返しを素早くやることで、声の問題を上手くクリアしているのはさすがだった。

コロラチューラソプラノの課題としては、この2つに代表されるような長めのフレーズの支えを決める響き、共鳴はまだまだ良いポイントを探せる余地があると思う。良いポイントが見つかれば、苦しいブレスももっと長くなるはずだからである。
すでにそれなりに良い声が出せているが、上述の点からの発声へのアプローチは課題として今後も持って欲しい。

最後にSMさんとモーツアルトの二重唱を。
手紙はほぼ問題なし。最後の方で伯爵夫人の声の関係で音程が不確かだった点だけ注意。
コジ・ファン・トゥッテは、気合の入った歌なので良しとしたが、まだ不確定要素があるのはある。
Amoreのメリスマはとても大切だ。後はコーダでの二人の重唱部分。ドラベラの対旋律は、正確さを更に後一歩。
引きずられないように、である。

SM

二重唱を練習したせいか、発声練習をしなくても声の調子は非常に良好だった。
そのためだろうか?懸案だったドビュッシー2つのロマンスの1曲目は大成功。
2回通したが、2回とも成功だった。

冒頭のフレーズが一番心配だったが、その声が安定して音程も決まっていたので、後は芋づる式に良かった感じ。
今回の成功が、彼女の中で具体性を持っていれば心配ないのであるが。
姿勢や声の出だしのポイントである。
発声練習でもやったように、Lという子音の作り方と声の出だし、アタックのさせ方が判っただろうか?
それが上手く行くと、出にくい低音でもきちんとした音程で、上手く低音が操れるようになると思う。

「麦の花」は、最初ピアニストのイメージが違っていたか、テンポがサクサクと流れていて、彼女の発声には少し早い印象だった。
彼女がこれを歌う場合は、微妙にゆったりめの方が、声が安定するし良く響くのである。
これも声は全体にとても良かった。
響きが彼女特有のポイントにはまっていて、それがために、レガートな歌唱が実現出来ているのだった。

やはり1点だけ、冒頭の歌いだしである。
ピアノの短い前奏で入るので、慌てて歌いださないことだけ、くれぐれもお願いしたい。
そのために、前奏もゆっくり目で入って、歌が出てからテンポに戻せば良いと指示した。

最後にカンタータ「放蕩息子」リアのアリア。
これも、声は言うことない。細かいことはあるが、それらが気にならない安定感、響きの統一感が感じられてとても良かった。
全体的なテンポ感もである。
こちらの聞く集中を、一度も途切らせることなく、最後まで歌い通せたのは立派。

最初の通しでは、アリアのAzaelと呼び掛ける場所で、ピアノ伴奏が前のめりに少し流れていたので
流れないで、ビートで弾くようにと指示。
これで、かっちり決まったと思う。
中間部もテンポは適切。
最後のPourquoi m’as tu quitteの低音も、無理しないで丁寧に出来ていた。あまり気にしないことである。

発音の細かいことはまだまだ課題は残るが、今回は発音の細かいことよりも、全体的な音楽を大切にしたかった。
後は声の安定感である。
何より、お客さんが安心して音楽に集中できることがまず第一であろう。