TSS

ドゥランテ「愛に満ちた処女よ」ティリンデッリ「おお春よ」いずれも出来栄えは上々だった。
こちらに来て半年あまり、必死に何かをつかんでくれたようである。
特に中低音の発声の安定は手にしつつあるし、今回の2曲ではチェンジ前までの音域で明るい声の響きが聞こえてきているのが、教えた身としては心強い。

ところで、今回はこちらに来て低音発声の開発から、高音の換声点の課題へと移行しつつある中、結局根本的な声のポジションをどうするか?という所にたどり着いた気がした今日のレッスンだった。
特に、ティリンデッリ「おお春よ」を歌うところを観察していると、身体つきが硬いのと喉の緊張を感じた。
持ち声を充分に活かすと考えれば、まず喉をリラックスさせて発声出来るフォームを、もう一回トライして見る必要があるかと思った。
そのことが、換声点から上の高音発声に威力を発揮すると考えている。

ここでは、方法は単純で、出そうと意図する音程の和音内の下の低い音を発声して見て、その喉の状態を保つようにして、本来の高い音を発声してみるわけである。
そうすると、喉が不要に上がらずに音程を出せる。
歌っていると太く感じるかもしれないが、ホールの響きを考えてもちょうど良い。
声は録音で聴いたイメージではなく、現実の劇場でどう聞こえるか?を見据えた視点を持ち、自分の声でどうするか?

TS

今日も一段、進歩がみられたレッスンだったことが収穫。
発声の声、音程を意識した発声だが、その分、線が細くなり初歩的なレベルにおける「声量」が心もとない感じであった。
発声で喉を詰めないで息を流すことは大事だが、今度は上に流すことだけを意識すると、声のポジションが高くなって、
結果的に細い頭声だけの声になってしまいがち。

単純に声の出始めをみぞおちあたりに感じることや、そのことで太くなる分を、上顎を良く使って発音することで、良い音程と共鳴のある声の響きを目指す、という感じだろうか。
全体に声量が一段上がって、良く響く声になったと思う。
まだ微妙に締まる傾向があるのだが、息を上顎の硬い所めがけて歌うと、より響き感の強い、喉の締まらない声になるだろう。

Ridente la calmaでは、音程の跳躍時に上に意識を持つのではなく、一旦喉下に当てることで、上あごにその響きを反射させる
という方法を取ってもらったのがうまく行った。
彼女のチェンジ近辺の発声で音程がうまくはまらないのは、ほとんどがこの方法によって解決するだろう。

Dans un bois solitaire et sombre は、すでにRindente la calmaで練習した成果が、こちらに活かせていた。
細かい修正の指摘はあったが、この調子を本番まで維持していただきたい。

IS

発声練習の声が、以前に比べると一段しっかりしてきた印象だった。
特に中音域~高音チェンジ後が、響きが一段増してきた。
以前のスカスカした響きがすっかり変貌した印象。
また、音程も良くなった。

この印象は歌になっても変わらず。
モーツアルトのケルビーノのアリア「自分で自分がわからない」は、驚くほど弱声を上手く使った演奏に仕上がっていた。
実際のホールでこの声がどこまで通用するか?は、私も確約できないが、オペラホールではないしオケ伴でもないので、
モーツアルトのオペラアリアとしては、良い仕上げ方だと確信出来た。

ロッシーニの「ダンス」は、ほぼ楽譜指示のテンポを確立できるまでになった。
イタリア語の早口がかなり厳しいが、良く出来ていた。
時々つっかえるが、暗譜を目標に残りを頑張れば問題ないレベルだ。
声は全般に、彼女ららしい明るく前に響くものだが、以前と比べて音程が良いので良しとしたい。

AC

練習した成果があった、と感じられたレッスンになった。
伴奏合わせだったが、結果は概ね良かった。

モーツアルトの「皇帝ティートの慈悲」のアリア「花の美しいかすがいを編もうと」は、高音の発声が当初に比べて、より抑えが効いて安定したものになっていた。全体に声楽らしいノーブルな声の響きになりつつある点が進歩。
中低音も良い声が聞こえているが、あと一歩の感がするのは、声のポジションがまだ定まっていないことや、
喉が単に温まらないこともあるだろう。

ただ、2曲目のフォーレの「よき歌」2曲目の「朝焼けが広がるのだから」は、何か声が口先になってしまった印象だった。
表現を抑制しようとしたのか?
声の強弱を出すことは大事だが、楽器としての基本を抑えた発声を確立しておくことはもっと大事だ、と考えている。

それで、これがきっかけとなって、声の線をもっと太くするポジションの取り方を教えられた。
単純にもう少し喉元に発声の意識を向けた出し方を意識するだけである。
少し声のラインが太くなるが、しっかりするだろう。
気を付けるのは、太くなり過ぎて音程がはまりにくくなること。
これは、本人の感覚でバランスを取るしかない。
本番直前だが、この声の出し方は覚えておくべきだろう。

喉を使わない、あるいは喉に負担がないように、という意識があるとしたら良いことだが、ほどほどに考えないと、
実は喉の使い方を誤ってしまう面がある。

喉も楽器と同じなので、やってみれば判るが、出し過ぎないのも良くないし、出し過ぎも良くない。
声の楽器としての響き方の良いバランスを、いつも探す姿勢を持ち続けてほしい。

SY

発声練習では、母音をI出始めてからAに変更して、響きの密度を高めてもらった。
それから、高音で喉を上げないように意識すること。
以前にも教えていて、覚えているはずだが、いつの間にかどこかに行ってしまう。
恐らく、やり過ぎて矯正すると、今度はそれが逆方向に行き過ぎてしまうのだろう。

しかし声を出せば出すほど良い声になって、本人も調子を上げて行く所は、さすがに長年教えて来ただけのことはある、と自画自賛は出来る。また良い持ち声の人ではある、と思う。
彼女と共に私がムジカCでのボイトレ経験を積んだわけだが、当初考えていた声に対する直感は、今でも間違ってはないという確信を持たせてくれる、いわば一つの基準点でもあるわけだ。

フォーレの「イブの唄」「蒼白い黎明」は、ピアニストのテンポ感の調整で、何度も合わせて行くうちに、非常に良い声が出るようになった。やはり声の温まりが鍵であると思う。基本的には。
あとは、「薄暮(たそがれ)」でもそうだが、低音は高く前に出すだけだと、薄っぺらな声の響きになるので、これも喉を開けて低音の共鳴も狙った響きにしてほしい。

母音のEは、Aに近くし広い母音の響きを意識しないと、締まった声の線が出て聴きづらい。
特に2点Cから上の発声で注意してほしい。
あとは、Uの狭い母音の唇を突き出す発声。
Luitなどのyの半母音+Iは、Iで伸ばすように。半母音のyは、音程を出すアタックとして発音して良いが短く。結果的に2シラブルに聞こえても良い。