GH

バリトンのアリアを2曲。モーツアルトの「フィガロの結婚」の伯爵のアリア。
テンポが速く、爽快な音楽。
貴族的な男らしさの表現の中に、どこか憎めないユーモラスな様相があって、モーツアルトの演劇性の面白さが良く出ている秀逸なアリアだと思います。

譜読み途上なので、譜読みだけに徹底して練習をしました。
アリアよりも、レシタティーヴォが難しいようです。
これは、音符通り、リズム通りにまずしっかり読み込んでおいて、歌いこんだら、歌詞発音が自然に出来るように、特にアクセントを少し強調するように語る練習をしてから、歌ってみるを、自然な抑揚をつけるポイントがわかると思います。

譜読みが不完全なので、あえて声のことを言いませんでしたが、次に歌ったヴェルディ「椿姫」の「プロヴァンスの海と陸」のアリアで、バリトンの声を徹底してもらいました。

歌曲のように、芝居ではなく、抽象性の高い詩を歌う場合は、声のキャラクターはあまり要求されません。
むしろ、テノーラルな音程の良いきれいなメロディラインが良い場合が多いですが、アリアになると、バリトンという特性をしっかり出さないと、スタイルが出てこないです。

特にこのアリアは、分別のある年配の男性ですから、口先の軽い声になると、表現に適いません。
どうも、声が軽くなるのと、特に上の1点C近辺の音程が不安定なのは、軟口蓋だけを意識していたようです。

軟口蓋が上がるのと、喉が下がろうとする力のバランスの均衡が取れることで、音程が良く、かつ音域に応じた最大限の良い響きを得ることが、声帯の働きです。
したがって、音程を気にして、軟口蓋だけを上げることだけに集中すると喉を下げないで発声してしまうことになり、結果的に声帯がきちっと張られた状態にならない声になります。
これが、音程が不安定になったり、声質が軽くなってしまう大きな原因です。

彼の場合は、顎を引くよりも、下顎を良くおろす発声をしたほうが効果的なようです。
また、声を出す際に、上顎だけではなく、逆に喉そのものや、喉から下の意識も持って、太くどっしりした声質を求めるバランスを考えてみるのが良いでしょう。

それから、高音になると音程が上がろうとしますので、音程を跳躍する際には、逆に声の方向を下に向ける意識を持つことも、男らしい高音発声を作るコツになるでしょう。

OM

コンコーネの37番から。
きれいに丁寧に歌えていました。
リズム感、メロディの音程、気配りの良く行き届いた歌声になっていました。

ドビュッシーの「夕べ」
声の力強さと積極性が良く出ていて、伴奏を弾きながら好感が持てるものでした。
歌声のナイーブさが良く感じられました。

声楽家が声を練磨することの大切さは、言い過ぎても足りないことはないのですが、彼女のドビュッシーを聞くと、かつて村田健司先生によく言われた歌声のナイーブさについて、思い起こすことが多いのです。
うるさく言われていた頃は、その意味が良くわからなかったのです・・・・。

特に歌曲の場合、声量や声質の洗練という問題と、歌うことの純粋さや歌う意味、とのバランスをどう取るのか?
これから勉強していく彼女には忘れないでもらいたい、と思います。

ドニゼッティの「ルチア」より狂乱の場のアリアを聞かせてもらいました。
良く譜読みがなされておりますが、ところどころ3連符の扱いがあいまいでした。
また、全体に最高音域よりも、中高音域の細かい音符の歌い方が、アバウトな傾向がありました。
歌いやすいところ、楽なところも、最高音域と同じくらいかそれ以上に、細かくしっかり練習してください。
そういうことが、演奏全体のクオリティを引き締めると思います。

顎、あるいは顔全体をしっかり引き付けた姿勢で歌うことを、改めて教えました。
身体が理解できるため、あるいは喉が覚えるために、少しやりすぎるくらいにしてもらいました。

何か起きているか?というと、輪状咽頭筋という筋肉の代用をするためです。
結果的には、歌う際に、喉が上がらないようにする効果があります。
いわば、喉のつなぎとめが出来ることで、結果的に軟口蓋を働かすことによって、より声帯が伸ばされた状態が出来るために、良く響く声になる、という理屈です。

先ほどのドビュッシーでも書きましたが、まだ発声は緒に就いたばかりです。
今回教えた発声は、中低音~チェンジを過ぎるまでの発声の根幹を成すものですから、高音発声や、声域、声のキャラクターに関連するものではなく、基本的なことなので、徹底して練習して覚えてください。