SA

発声練習は久しぶりに低音から昇る形で始めた。特に問題を感じないが、低音は、ぎりぎり1点Cまでが声区のポイントだろうか。
更に下の声が今回の歌曲で使うために、低音区の練習もしておいた。
切り替えは上手く対応出来ていると思う。
後は中高音も、息の勢いと声帯の合わせとの関係がとても良い感じである。

信時潔、歌集「沙羅」より4曲。
前回より、低音が声量が出てきたのだが、今回は、それがために低音の歌詞がこもること。
4曲に共通することは、低音発声のせいで、歌詞発音が不明瞭になる。
技術的にはもっと軟口蓋から上が大きく開いたイメージで発音、発声出来ると明解になると思う。が、この発声法の会得が一番難しい。

もっと簡単で、劇的に歌詞が明解になる処理としては、特に8分音符をシラブルの一個一個を切るように歌うことで歌詞が明解になるだろう。
特に反響の長いホールではこれは有効である。
特に2曲目の「あずまやの」は、このシラブル唱法がとても有効で、日本語らしい歌の面白さが出てくる。
あたかも、謡曲の語り口のような面白さである。
最後の「沙羅」が音域もあって、発声上、自然に歌えていて好感が持てた。特に最後の中高音のメッザヴォーチェが新鮮で綺麗だった。

フォーレ、「秘密」
こちらは前述の作品と反対で、きれいなトロリとした声質によるレガートが身上の歌である。
8分音符、16分音符いずれでも、アウフタクトの始まりの響きから次の小節線をまたいで流れる旋律のレガートを大切に。
くれぐれも切れないように子音の処理に最新の注意を。

「愛の唄」
音が間違いやすいので、譜読みには注意を。また、ちょっとした変化音の違いが、節の違いで出てくるので、それらの違いを丁寧に処理すること。
J’aime ta boucheの後で、急いでブレスを入れるがあまりに、Boucheの語尾のあいまい母音が途切れて、無声子音に聞こえてしまうところに注意を。
全体に声のピッチが高めになるのが、譜読みのせいなのだろうと思うが、だとしたら譜読み、歌いこみにひたすら時間をかけるのみである。
自信を持ったピッチにならないと、発声や声質の問題に至れないので、こればかりは、譜読みの確実さと、ひたすら歌いこむ練習をしてほしい。

AY

発声は上向形から始めて、下降形、そして再度上向形へと練習。
ここ最近の彼女の声は、高音発声で声帯が綺麗に合うようになって、音域も上に伸びてきたことが収穫だと思う。
ただ、基本的に喉がやや高い傾向がある。いわゆるポジションが高い。

声の出始めのポジションが高いのだが、多分一所懸命出せるうちは、声帯が頑張って張っているから出るのだが、
声帯の負担が心配である。実際、声枯れも出るので、心配は残る。
イメージで恐縮だが、あたかも細い弦をぎりぎりに張ってはじいてる感じに聞こえるので、弦が切れないだろうか?と心配になる。

こちらの意図としては、声の当たりを太くしろという意味ではなく、ブレス、声の準備で喉が開いていることを確実にすることで、
結果的に声のポジションが低くなり、実際に歌う者も、喉が閉まらない感覚で高音が歌えるようになってほしいということである。
息の吐出が太い所を通るイメージがあることで、自然に喉は下がるからである。
高い声を出そう出そう、と意識すればするほど喉が閉まるのは、イコール喉、気道が細くなるのである。
この太さのバランスが彼女の場合は細過ぎるのではないか?だから、もう少し太いイメージを持ってみてはどうだろうか?ということである。

楽譜のPPとかFとかのダイナミックスを出さなくて良いのですか?と問われたが、今は意識しない方が良いと思う。
特に声を小さくする方に意識が働くと、喉が余計に上がり易いものだからである。
高音発声で、まずはなるべく上がらない(下がらない)方向を、定着させてほしいのである。

歌う様子を見ていると、顎を引いているのは良く判るのだが、これがやや形骸化していて、喉は上がったままという感じである。
顎を引くのは、うなじから喉頭を支える筋肉が働きやすい姿勢であり、当然その実感が無ければ顎を引く意味が無い。
顎を引いた姿勢で歌ったとしても、喉が上がったブレスで、声を頭から出していれば、これは喉が上がり過ぎとなるわけである。

曲は前回もやった、イタリア古典Chi vuole innamorarsi
前回は、下の和音内音をイメージして、というのをやったが、今回はそれを言わずに、同じことを練習した。
やれば、すぐ対応出来るので、あとは覚えること、馴れることのみである。

それから、大切なことは高音発声の後の中低音の声に「戻ること」である。
あえて¬付きにしたのは、意識しないと出来ないこと、だからである。
言葉で手短に書くならば、喉の発声を変えるのではなく、更に喉を開くように対応すること、とまとめられるだろうか。

次のOmbra mai fuも、同じである。こちらは高音発声もあるが、むしろ低音~中低音の発声で、喉が上がらないで太く振動させて行く発声である。
言葉ではとても書ききれないが、旋律を紡ぐとき、たとえばドレミ~とスケール上がって行く時に、声帯の振動が共鳴を増して行くような感覚を
大切にすることである。