MT

発声練習は喉を温める程度にして、早速ペレアスとメリザンド、塔の場面の練習をした。
アリアの部分と、その後に続く柳の木の枝にメリザンドの髪を結びつける場面を主に練習した。
ピアノが付かないと細かいことは出来ないが、全体にテンポは指示よりもゆったりした方が良いと思う。
今回、この音楽を、聞いたことが無い人にも少しでも良く解ってもらうためである。

この2つのアリアに、ドビュッシーのサウンドらしさが良く顕れているから、そのサウンドを十分に表現してもらいたい。
今日は時間が無く敢えて指摘していないが、フランス語の読みに間違いがいくつかあったので、再確認を。
声で指摘したのは、最初のアリア、塔の上からメリザンドの長い髪が落ちて、ペレアスを狂喜させるアリアの最後の1点A,Et lls m’aimentの部分だけだった。
この高音は中途半端にしないで、思い切り出した方が良いと思う。
音楽的にもクレッシェンドの頂点なので、アッチェレして持って行くように。
全体に彼には音域がやや低めで、なるほどバリトンでも良いというのが頷ける。

後は歌曲を3曲。
初期に書かれたヴェルレーヌのClair de luneとCalme dans le demi joursそして、Ariettes oublieesのGreenを。
特に最後のGreenは男性が歌うのは珍しいが、これがとても良かった。
歌詞自体は男の歌詞なので、聴いて違和感が無いのが一番。テノール諸子はぜひ歌うべき曲である。
先の2曲も、初期のドビュッシーらしいメロディと和音の甘さが身上だし、音域もテノールとして充分な高さがあり、声を純粋に楽しめる。
歌う方としては辛いが、テノールというのはそういうものである。
彼の場合、その意味でも勉強になる曲だと思う。
とにかく伴奏が難しいので、次回伴奏が付いたらフランス語と発声の面を指摘したい。

SM

発声練習は、前回の中低音の発声である。
どれくらい再現性があるか、と思ったが、まだ不安定な面があった。

彼女の場合は、もう少し声を作る、という意識を持つと良いだろう。
発音の際に、例えば口の中奥を拡げるためには、下顎を降ろし過ぎないで支えること、上顎を相当持ち上げる意識が必要である。
漠然と開いていても、中がしっかり拡がらないだろう。

何度かやるうちに、これ、という良いポイントが見つけられたが、残念ながらとても言葉では再現出来ない。
強いて言えば、下への引っ張りと、上への持ち上げの最適なバランスが必要ということ、

彼女自身が、軟口蓋を意識すると喉が上がると言ったが、正しくバランスが必要なのは正にそこにである。
であれば、どうしたら喉が上がらないか?という方法を同時に考えて探して頂きたい。
いつもやるように、顎を引くことは何のためにやるのか?姿勢を崩さないのは何のためか?という積み重ねもこのことで活きてくるはずである。

もう一点、何度か練習したのはリズムである。これは、歌曲もアリアも同じなのだが、どちらも3連符系、8分音符のリズムなので、長い音符が不正確になり易かったり
休符のタイミングが違ってしまったりすることが多い。
これも、耳で覚えて何となく歌っていると、自分の頭と身体で作り出すリズム感が育たないのである。
なぜこのことをうるさく言うか?というのは、単にリズムの問題だけではなく、歌声と歌詞発音にも関係があるからである。
そして当然、ブレスにも大きな影響があるだろう。どういうタイミングでブレスをするのか?はリズムの力が生み出すからである。
楽譜には、リズム構造が端的に解るように、区切り線など、書き込みは大いにお願いしたい。

AC

発声練習は、彼女も中低音を中心にした。
彼女もSMさんと似ていて、中低音の発声が未だ確立していないようである。
強いて違いを言えば、喉が温まれば自然に声が出てくるのだが、それは多分、喉に依存している部分があるからだと思う。

後一歩、判ってもらいたいのは、発音、発声の際にもう少し喉と軟口蓋を明快に拡げることである。
そのために必要なのは、ブレス時に口奥をほんの少しあくび状態を作って拡げること。
そして、発音の際にも拡げること、あるいは拡げ続けることである。
発音は、それを維持するためには、舌先などももっと良く使う必要が出てくるであろう。
ここで、よくやる練習は指をくわえて歌う練習が有効である。

かなり前から苦労したのは、低音域で喉を開くと響きがこもることであるが、軟口蓋が高く拡げられていればこもらない明るい、しかも
開いた発声のポイントが見つかるはずである。

曲はドビュッシーの「噴水」から。
これは、根本が良く歌えているから、後は発声を充分意識して、良く響く良い声、を求めたい。
そのためには、声を抑え過ぎないで、前述の特に中低音域の開いた発声を意識出来ると良い、
そのためには、発音も要注意である。
2曲目「静思」は、DouleurのUの母音の響きには拘りたい。そろそろ、この深いUの発声は定着したいところ。
この曲は低音の声にキャラクターが欲しいので、発声に拘りを持ち、良く響かせること、良い声を出そうという意識を明快にして欲しい。
3曲目は適度に高音が散りばめられていて、明るさがある曲調。高音は綺麗に良い響きを発声出来ている。
ただ、中低音も、高音に引きずられないで、しっかりした深みのある開いた声を出して欲しい。
発音も良くなっている。
後は、伴奏合わせでまとめて行きたい。

MM

発声練習は、低音から始めたが、前回と違い、しっかりした開いた声が聴かれるようになった。
声も安定してきて、温まっていたのか?そうでないのか?判らないが、以前の温まらない調子の悪い声は陰を潜めてきた印象である。

La rosa y el sauceから。
今日は今までで最高の出来だったし、彼女の歌としても、出色の出来だったと思う。
何が?といえば、2点C~の苦手音域で、非常に力強いフォルテの声が良かった。
ただ強いのではなく、ビブラートがかかっていたのが、発声の進歩を端的に顕していると思う。
何が良かったか?ではなく、今までの積み重ねが集約されたのだろう。
音楽的にもそういう声を出す要素が強くあるのだろう。
最後のページの物悲しいメッザヴォーチェで歌うメリスマは魅力的である。
ここも音程が良く、声の抑制が効いて素晴らしかった。

リストのPace non trovo
こちらは、課題がまだ多い。
前述の曲の、音楽と声との自然で魅力的な関係が、こちらでは、まだ確立されていないようである。
先ず、最初のレシタティーヴォの表現が中途半端な印象が残る。
強い表現なのか?どうなのか?

また、アリア以降を見ても、全体にイタリア語の朗唱やアクセントに沿うようにメロディが書かれているから、
なおのこと、イタリア語の強さの部分をもっと歌で表してもらいたい。
前回も書いたように、フレーズの食いつきは、母音の形や響かせ方も明快にはっきりさせたい。