WH

発声練習の声は、バランスよく綺麗な声で安定していた。

ヘンデルのジュリアス・シーザーからPiangero la sorte mia
全体に、おや!というほどフレーズの収めが上達していた。
今まで指摘していたフレーズの切れ目の雑さが、きちんと長くなって収まりがきちっとしたことで、曲全体の明瞭さが際立って気持ちが良くなった。
やはりクラシック歌唱の真骨頂とは、こういう身仕舞いの美しさ、正確さが大切なのだと、こちらも勉強になった。
ディオニソス的ではない、アポロ的な美であろう。
そういう意味でバロックアリアを練習するのは、価値があるのだろう、と悟らされた。

中間部の速いテンポで歌うメリスマも正確になった。
強いて言えば、この中間部最後に出てくる高音を丁寧に処理すること。
また、前半最後に出てくる、2点Aの響きは引き気味にするほうが綺麗だろう。そのためには、その前の響きを出すことで、引き易くなると思う。

カルメン、Je dis que rien ne m’epouvante
前半はかなり端正な歌唱になって良かったのだが、徐々に高音が出て、飛ばしてくると乱れてくる。
それで、パートパートで練習していくのだが、結局大切なのが、リズムの把握なのであった。

これは私の考えで、彼女がどう思ったか?は判らないが、リズムを正確に操ろう、あるいは正確に歌おうとすることで
難しい高音の処理も、乱暴にならずに丁寧に出来るのではないだろうか?
結果的には、ある程度の勢いがないと、しっかりした高音が出なかったりするのだが、それも根本に正確なリズム構造の把握が
あれば、同じ力でも、無駄がなくなるから、効率が良くなるのである。

最後のページは綺麗な頭声が使えているから、これ以上敢えて弱く歌う必要はまったくない。
むしろ、たっぷりと歌うべきである。Ritも充分かけて終わるとしみじみとした味わいが素晴らしい。

最後にHahnのA chlorisを譜読み、練習した。
やはり難しいのはリズムである。4/2という長い音符のリズムがバロック風、4分音符の数で8つとして考えると読みやすいだろう。
彼女にも、リズム構造を区切り線で表す方法を教えた。なるべく、頭で構造を理解してリズム読みを徹底することを今の内に覚えて欲しい。
音楽のソルフェージュ習得は、外国語の習得と似ていて、大人になったら感覚だけでは立ち行かないのだ。
今のうちに覚えておけば、後々楽だし、更に深めて行けるので、ぜひ覚えて欲しい。

TK

発声練習は、いつものように下降形で2点Dから。
恐らく、喉はもっと開けるようになる余地があるだろう。
それが中低音で判ると、恐らくもっと低音の響き、共鳴が出せるようになるはずである。
今は、まだ鼻腔の響きが強く、それがために、実は喉があまり開いていないと思う。

ベッリーニQui la voceから。
前節は、前回も非常に良い声でゆったりと歌えて好感が持てたが、今回は、更に後半のメリスマが、一段上手くなっていた。
彼女がこの曲を良く練習した証拠であり、感心した。
特に半音階の下降形の繰り返しは、難しいものであるが、息を適度に混ぜた響きで、前回よりも正確に粒が揃い、この声の妙味が活かされたものになってきている。
ほぼ、今の彼女の実力からすれば、その持てる実力を使い切って歌えている、という面で、素晴らしい。
後は、最後のカデンツの三点Esの響きである。
声自体は、安定して出せるのだが、響きが浅くなり、後ろに引いてしまうため、そこだけ少し違和感が残る。

特に根本的なことではなく、喉が高過ぎないように、オクターブ下の声をイメージすること。
それから、彼女の場合だが、口を縦に使うようにしてみること。
そして前に少し突き出すような要素も併せて使ってみると良いだろう。
今日も何度か練習したが、良い感じが出てきているから、諦めずに続けて欲しい。

次にバッハのカンタータ72番のアリア。
これも良く練習した甲斐があって、子音が綺麗になってきた。
子音と母音のバランスが取れてきたので、ドイツ語らしい語感と音楽が、豊かなイメージを醸しだせている。
更にTの子音がもう少し出れば完璧である。

最後にカンタータ78番のデュエットを練習した。
基本的な譜読みはしっかり出来上がってきている。
後は、実際に2人で併せてどれだけ出来るか?
ハモリの面で、特に3度のハモリが大事なので要注意。
自分の歌に一所懸命になり過ぎて、声量だけに意識が行く無意識で歌うとハモらないことになるので、ピッチの厳格さには充分注意を払って欲しい。

HA

発声練習のトピックは、指をくわえて歌う練習である。
口先を開ける際に、彼女の癖は下顎の力が強いこと、である。
そのため、声が当たって、一見声量はあるのだが、開いて息と共に出る傾向が弱いため、響きにくい、直接的な高音の響きになってしまうことである。
言葉で書くと、声帯で出来た振動が、そのまま直に外に出るために、物凄いパワーがないと、遠くに飛ばない声になるのである。
それでいて、パワーを使うから自分の中では出している気がするから、話が難しくなる。

これが、練習の成果なのか、今日の発声の練習の成果なのか?解らないが、今日は非常に発声が良かった。
前回指摘した、口の開け過ぎによる喉で押す高音が影を潜め、響きが全体に高い傾向で発声出来るようになっていた。
これは、高く、というよりも、押さない発声になったのだろうと思われる。
以前も、高音は押さない発声の傾向は強い人だったが、どちらかというと、抜いた声、という印象があった。
それが、今日は抜かないで、共鳴させている感じが大分出てきていて、進歩を感じた。
この調子を続けて欲しい。

モーツアルトの「劇場支配人」も、前回に比べて更に成長の跡が著しかった。
まず発音のEなど、浅くなり勝ちな母音の響きがまろやかに高い響きが確立しつつある印象。
また、中高音~高音の発声がかなり響きを意識出来るようになっていて、喉で押さない響きになりつつある。
強いて言えば、中低音の発声では、まだIEAの母音が、カタカナになりそうな点である。
大体が、この中低音の発音がカタカナになりやすいものである。

そして今日は「初恋」を練習。
これがまた、素晴らしく良かった。日本語だからではなく、発声を掴みつつある点を評価したい。
声の響きということが、明快に意識出来た歌になってきている。
声は良いので、後は自由に歌うところ、特に後半のメリスマ風のところは、ゆったりとしみじみとたっぷりと、歌い込んで欲しい。
また、繰り返しの最後ももっとRitして良いだろう。

シャモニーのリンダも、成長していた。全体に喉を押さないで丁寧に歌う姿勢が好感が持てた。
ただ、最後のページは難しく、何度も練習となった。
特に4小節繰り返すシンコペのリズムの繰り返しで最後に3点Cまで昇るフレーズである。
ゆっくり練習して、息を混ぜた声で粒を揃えて、ブレスを決めて、という具合。
しかしながら、3点Cの声がとても安定して良くなった。
カデンツは、3点Cで伸ばすヴァリエーションだが、トレモロが難しい。
トレモロだけは、響きや共鳴を無視して、喉を上げても良いから、喉が動きやすいようになることを、今は主眼とすると良いだろう。