発声練習は、このところ回を重ねる毎に高音域の軽さが目立つようになってきた。
以前は思い切り出すしかなかったのが、意識したコントロールが出来るようになった。
そのため、こちらの予想を越えて3点C以上の発声も楽に出来るようになってきた。

当初からそれほど重い声ではない、と思っていたので教えて来た甲斐があったと思った。
高音の本当に美しいフォルテはメッザボーチェが出来なければあり得ないと思うからだ。

ただ、メッザボーチェはどうして使うのか?といえば結局表現と結びついているわけで明るい華やかでテンションの高い表現時にはあまり使わないだろう。
そう考えれば、今回歌うアリアでは、それほど意識する必要は無いと思う。
むしろテンションの高い音楽だから、高音をあまりコントロールしないで
思い切り出すべきではないか。

今日も伴奏合わせだったが、いずれも声や歌い方よりも伴奏とのアンサンブルの問題になった。
特にドビュッシーの歌曲はいつも書くように、細心のアンサンブルが必要だ。

「噴水」では、前半部分で歌手のブレスとピアニストの音楽との間の乖離が目立った。
ピアニストだけが悪いわけではないが、バランスとしては歌手の生理をピアニストさんは良く感じて欲しい。

歌手さんは、曖昧母音の扱いを忘れないで。
そして、3連符、特に長い3連符が走らないように。
また、楽譜に書いてあるテンポ指示をもう一度良く確かめて、全体のテンポの流れの変化をを良く良く俯瞰してほしい。

それから、ピアノ。
音楽的なことだが、音楽の変わり目、転調に至る前では、楽譜に書いていなくてもある程度の意識を持って弾くべきではないか?
よし、楽譜に書いていないという理由があるとしても、意識できていて何もしないのと何も意識していないとの違いは大きい。
音楽が変わる節目、ということを良く感じて欲しい。
音楽には、必ず小さな節目と大きな節目がある。その場所では細心の注意が必要だと思う。

それから、これはピアノに限らない非常に器楽的なことだが、音楽の音(フレーズ)
の上下進行の基本というのは重力の法則に従う、ということ。
ボールを上に放り上げた時の放物線の描き方、放り上げる力と放物線の描き方と速度の違いをイマジネーションしてほしい。

ピアノは確かに鍵盤を弾くものだけど出てくる音は、そういう楽器固有のことよりも音楽、自然界の法則の自然な表出が大切だ。

アリアの実に単純なワルツの表現だが、こちらはバス音をもっと重く弾むようにしてほしい。
ピアノの音楽ではなく、オケであることを忘れずに。
イントロはくれぐれも焦らないで弾いて欲しい。多少テンポが遅くても関係ないのだここは!
それよりもしっかり確実に弾くこと。

声の入りの笑い声の音楽はばっちりである。
声は前述のように、ハイテンションで一気に駆け上がって欲しい。

それにしても、何度聴いてもドビュッシーは良いな、と思う。素晴らしい。。

みねむらさん

彼女は声が温まるのに時間がかかる、とはいえ、やはり今回も胸声をきちんと出すという基本が大事であることが、良く分かった。

彼女はメゾソプラノでも充分行ける中低音の声を持っているので、まずはその音域でそうあるべきしっかりした発声を今回のプログラムでは大切にして欲しい。
喉が温まっているいないに関わらずである。

発声練習のパターンは決まっていて、ハミングからイの母音、そしてイエアと変える練習。
その時点で、良い胸声区の声は出ているのだから、声が温まっている、いないに関わらず歌でも使えるはずである。

そうしてそういう声で歌うことは、今のところは音楽のダイナミックとはあまり関係ない。
要するにあまり声を抑える必要はないということ。
ピアノに任せておけば良い。

アーン「星のない夜」もそういう重い声でしっかり歌うことで、この曲のCalmeという表現指示をちゃんと表現できる。
声の大きさではなくて、ちゃんとした声で、平らかに歌うこと。特に出だしのモチーブ。
このため当初のテンポよりかなり重くした。

前奏を聴くと、このテンポで歌うの?と思うが歌えるのである。
その代わり、腹筋をしっかりさせて支えを充分持つこと。
ブレスは足りない所はカンニングを入れれば良いのだ。

フォーレの「イスパーンのばら」もまったく同じパターン。
テンポを重くした。
しかしこちらはピアニストさんに、テンポの自由な変化をつけてもらわないと、間が持たなくなる点を注意。

ヴェルディのStradi la vampaは前奏のテンポの重さを大切に。早くならないように、3拍子の2と3拍目を重めに弾いてもらえば、後は問題ないだろう。

今回ここに書いたことは要点だけだが、彼女にとってはとても大切なこと。
本番ももちろん、声を温めてきて欲しいが、そうでなくても、多分ちょっとした今日の気遣いが出来れば上手く行くはずである。