かさはらさん

声のことは言うことがないくらい、滑らかで美しい中低音~中高音。
欲を言えば2点A以上での高音の響き感、広がり、が出てくれば素晴らしい。
特に発声練習での話だが2点Aから上になると腰が引けてくるというか、響きが細く引っ込んでしまう。
あるいは、声を抑えているのであって、声が温まってテンションが上がれば違うのかもしれない。

実際の歌になるとそれほどでもなく、ちょっとした音楽的なイメージ、勢いがあれば問題なく良い高音を出せるレベルにあるのだろう。

彼女の声を何度か聴くことになったが、やはりどちらかというと中低音域が厚くて高音が細くなる傾向はある。
コロラチューラの曲もレパートリーだが、それは歌えるというレベルであり、いわゆるコロラチューラという
声のキャラクターとは違う気がする。
ソプラノでやっていくのであれば、もう少しバランス的に中音域よりも高音域を厚く、響きを更に開発してほしい。

もう一点は、彼女がどういう曲を今後レパートリーにして、どういう歌手になりたいのか、何でも器用に歌いこなしたいか、売り物を作りたいのか、その辺りがまだ良く判らない。
自分の声に合ったものという考え方もあるが、もっと積極的に自分が開拓したいレパートリー、音楽を見つけて、まっしぐらにそれに向かうことも、声を作る、売り物を作るという意味では大事なことだと思う。

フォーレの「消えない薫り」は、これもレガートに綺麗に歌えているが、音楽が今ひとつ良く判らない。
これは単に言葉の意味が、、というようなことではなく、地味なフレーズのそこかしこにある言葉によるフレージングの微妙な変化がほとんどないために、立体感にかけてしまうのではないかな。
フレージングというより、アゴーギグという話。意識しているだろうか?
一例を挙げれば、Quand la fleur du soleil,la rose de lahorと歌うだけで、fleur du soleilの「太陽の花」というイメージが
感じられない。
ただ綺麗に歌うだけではなく、フレーズの中に必ずある要点をもう少し強調してみては如何だろうか?

モーツアルトの伯爵夫人、Dove sonoは、これも綺麗に歌いこなしている。
レシタティーボも規定演技はこなしている、という演奏。
ただ、特にアリアになってから、何箇所か出てくる、音楽の変わり目がどういう意味があって、どうして音楽が
変わるのか、という意味が良く判らない。何となくそのまま歌っている、という風に聞こえてしまう。
アリアになれば、歌曲と違ってドラマがあって明快に役柄の立場、シチュエーションがあって、その上で、その中で
歌っているわけで、モーツアルトが書いたその微細な変化が、役柄の心情を表しているわけだから、その辺を汲み取って
お客さんにはっきりわかるように歌うことではないだろうか。

最後に「キャンディード」盛り上がり部分の高音は危なげなく綺麗に、良く回るようになった。
声的に今の段階ではこの曲は良く歌えているだろう。
強いて言えば、中間部の伴奏で語りが入るところ。
語りの意味を良く研究して、言葉を語る間合いや強弱、トーンの変化を良く出して欲しい。
途中何度か出てくる特徴的なリズム感のある場所も、テンポ設定を早すぎないで、リズムに乗せてリズミカル、ということを主眼にした方が効果的だろう。
何となく、テンション高く歌うだけだと、聴いていて疲れてしまう。
焦らずに、しかし盛り上げる所は徹底して盛り上げて、という対比を良く出して欲しい。

たつとみさん

発声練習は5度上向で、アの母音で始めてみた。
始めてみた、というのは、これが彼女にとっては最もやり難い練習になるだろうと思ったから。
その勘からすると、予想を裏切って良い状態であった。
低音域はスカスカするが、徐々に当る様子を出してくる。
微妙に♭になりそうな気配はあるが、どうにかこうにか範囲内である。

それにしても、歌う様子を見ているとどうも身体が硬い。
集中しているのだが、その場所が違う感じがする。
開放の反対で緊張になってしまう。
特に中高音~高音になればなるほど緊張していくようである。

今日は伴奏合わせとなったが、ベッリーニのVaga lunaから。
出だしの低音から、スカスカするし声がどうも安定しない。
で、姿勢を見ると声を出す寸前に顎を前に出す。
それを直して、歌っている間も顔全体をもう少し後ろに引いた状態を意識してもらう。
彼女の場合、何をどう言っても声を出そうとすると、顔が前に出た状態になるのが彼女の発声上の問題点である。

逆に言えばこれくらい明快なことはなくて、これさえ直れば恐らく今抱えている問題はほとんど直るだろう。
なので、ここに書くことがないくらいである。

声を出そうとすると、あるいは歌おうとすると、どうして顔が前に出るか?
その時顔だけではなくて、上半身はどういう状態になっているか?
どこかがとても硬くなっていないか?
もう一度良く自分自身で歌っている時の身体の状態を見つめなおして欲しい。

Vaga lunaは、姿勢を決めて低音ですかすかしても、喉のポジションが決まっていれば後は全て上手く行くだろう。
Vanne o rosaが今回一番難しいがこれも同じである。
それから理屈抜きで、歌うときにテンポを前に前にと歌い進めて行く力、即ち発音しながら息で声を出していくことが
要求される。
一拍一拍を一つ一つ点を埋めるように歌うのでなく、1フレーズをまとめて一息で歌いきるということ。
リズムの一拍に固執することで、声も上手く行かなくなる。
特に高音に昇るフレーズはさっさと先に上にと進んでいくことで、車を動かすアクセルが踏まれて、高音も出やすくなるだろう。

「さくら横丁」も同じ。これも姿勢。高音に上がるフレーズであれば、背中から後頭部に抜けて行くように。
身体の前で処理しないこと。しかしこれを歌う頃には、姿勢も良くなり、声が伸びて音程感も良くなってきた。
声帯が適度に開いて、息と共に声が伸びていく感じになっていた。
直すのに時間がかかるが、直すべきことは実に単純なことなので、これを徹底して身体に覚えこませてほしい。

くらのさん

今日は初めての伴奏あわせ。
彼女は、試演会出演も初めてだし、声も最初はなかなか難しくて
一からのスタートだったので、心配があったが、今日の合わせを聞いて安心できた。
声の状態は、まだ喉の力み、喉から出してしまう傾向が残るが
何より歌う意識、素直な歌心が生きているので、声がそれほど出なくてもナイーブな歌になって良い、という状態である。

それでも本人の努力と意識がはっきりあるので、発声にも無理はなくなった。
声も滑らかになったし、今回選んだ曲目の範囲であれば、問題は無いと思う。

発声はやはりアよりもエの母音の方が彼女には良い。
少しずつでも努力して顔面の上半分の筋肉をなるべく使って響きを明るく高く集めるように、これからも続けて欲しい。

曲はイタリア古典歌曲集からCaro laccio
今の時点で言える事は、フレーズの入りの食いつきで遅れないこと。
普通の意識よりも、少し早めに、ということはブレスのタイミングを微妙に早くして、声の出し始めが遅れないようにすること。
それから同時にはっきりと発声することだろうか。

声の勢いや食い付きの速さを考えて、テンポを少し速めにした。
というか、一小節単位のリズムを大切にして欲しい。

日本歌曲は「霧と話した」
こちらは、逆に少しゆったりとして、フレーズのつながり、レガートを大切にして欲しい。
ゆったりすることで、歌詞をきちっとお客様に届ける意識を高めて欲しい。
盛り上がりの前後のピアノの強弱は、スビートピアノの前はピアノの響きをきっちりと切ることが大切。

「浅き春に寄せて」は、逆に言葉の意味を通すためには、テンポがのんびりしない方が得策。
さっさと歌う方が意味が通って分かりやすいし、比較的長い曲なので、その意味でも良いだろう。
中間部のピアノ間奏も、思い切り良く感情的に弾いてほしい。

総合的に見るとテンポ感を大切にして、速い流れの良いテンポとじっくり歌いこむテンポという対比を意識して、そこに集中出来れば、本番も良い結果が出せると思う。

つぼうちさん

発声を始めると、最初はまるで蚊の鳴くような声に戻っていた。
どうも普段、なかなか声が出せないようだし、元々の彼女のキャラクターもあるのだろうか。
身体も硬そうなので、少し柔軟体操をやってみたが、それだけで見ると器用なタイプ、でもなさそうである。

何事も地道にきっちり続けることで、伸びていくタイプであろう。
というのも、後々発声練習を続けていくうちに、彼女の持つ喉の資質の高さに気づいたからである。
身体はある人だし、声帯も比較的大きい印象がある。
太く長くではないが、しっかりした喉を持っている。
声質から推し量るに、明快にソプラノだが、中低音の豊かさも併せ持つ。
また、地声とその上との境界がそれほどはっきりしていないのも、得だと思う。

喉そのものというよりも、息の強さ、身体を積極的に使う意識、という面の開発が鍵だろう。
それは、単に肉体的な問題としてだけではなく、何かもっと精神的なものもあるかもしれない。
それは彼女自身が、自分を表現することにおいて、それほど上手いわけではないという告白も聞いたせいもある。
自分をともすると抑えてしまうタイプだと、緊張しやすいしそうなると声は出にくい。

基本的にリラックスして身体を柔軟な状態にしておくことが、お腹から楽に声を出すための鍵になる。
心の問題はとても難しいが、心の問題を心の問題として捉えるだけではなく、身体自体、肉体自体を柔軟にするために、ストレッチや柔軟体操などをしていくことも良い方法だと思う。
そういう行為を続けることで、心も自然とほぐれていくものである。

ともあれ、発声は、少しやれば必ず良い声、高音が出るようになるだろう。
前回もそうであったが、今日も柔軟と発声練習を少しやっただけで、驚くほど声が出るようになった。
高音も輝かしい声が2点bまでは確実に出ている。
胸で呼吸しないこと、お腹を積極的に使って吐き出す意識を大切に。
口の開け方も、特に中低音では彼女の場合はむしろ開け気味のほうが良い中低音が当たる傾向である。
高音域は彼女自身が開けないで上手く対処していたが、開けても出せるし、開けないでも上手く当たるだろう。
要は、音楽に応じて柔軟に対処していくことである。
ここでも、喉そのものの扱いよりも、お腹、呼吸の問題として捉えることの方が大きいと思った。

音楽的なことだが、譜読み、譜面に慣れることは大切だ。
決して器用なタイプではないので、数が勝負である。
今日も合唱のパートを練習してみたが、修飾音符が苦手、とのことで何度も練習した。
練習を重ねれば必ず出来るが、積み重ねは必要だろう。
せっかくの喉を持っているので、ぜひとも積み重ねて良い歌を聞かせてもらえるようになって欲しい。
そのためには、出来ればイタリア古典歌曲などの曲なども歌ってみたり、コンコーネなどの練習曲もやっていくと譜読み、発声の両面で勉強になると思う。