発声は下降形で1点Cくらいから始めた。
元気の良い声だが胸声が強くて音程が♭だった。
少し音程を気にしてもらう。
それは音程というよりも声の出始めをもう少し高い場所、軟口蓋辺りに
感じてもらって始める、という意識だろう。

この感覚は高音になればなるほど、意識しないで良いと思う。
高音になると今度は喉が上がってくるから、嫌でも音程は高くなる。
それよりも喉が高くならないように、低く意識する方が大切になるだろう。
それから、彼は高音が喉が上がりやすいので、ついついかするだけで
良しとしてしまい勝ちである。
きちんと天井に当てることを厭わないで実行して欲しい。

低音はもっと出しても良いのだが、出すとピッチが低くなるし
高音が出し辛くなるので、今は声帯のわずか開いた中高音域の
チェンジの響きのままで軽く出す程度に留めておいた方が、高音も出しやすいし良いだろう。

今日はコンコーネ23番をやった。
これは非常に良いでき。声もとても良い響き、当り具合で
それほど高くないが、やや高めの音域は彼にはぴったりである。
ということは、後はもう少し高音が伸ばせればテノールとしては
歌曲をたくさん歌えるということになる。
あるいは中低音を伸ばすことも出来る喉だが、彼の嗜好としては
軽いテノール系統ということになるのだろう。

曲は中田喜直先生の6つの歌曲?というタイトルだったか。
3曲を歌ってもらった。
どの曲もそうだが、歌い過ぎないで、歌詞をきちんとお客様が分かるように歌うことが大切だ、と感じた。
というのも、何となく旋律を歌うだけ、というイメージになるからだ。
それだと、歌で何を表したいのか?があいまいで分からなくなるから。
この曲集は、女声であれば、特に旋律の美しさだけでも聴けるが
男声というのは、どうもそうは行かない気がする。
それは、旋律の高さと伴奏の関係という純音楽的な要素もある。

それから、それぞれの曲が持っている大まかな感情というのがある。
それを捉えて、その感情を準拠として歌うことが大切ではないか?
例えば「たーんきぽーんき」は基本的に怒っている。
後、おやすみおやすみ、、で始まる曲などは、旋律を歌うこともあるが
やはり、言葉を良くかみ締めてほしい。
他の曲なども、ユーモアもたっぷりある。
それらの感情や言葉を伝えることの面白さを大切にして欲しい。
それでこそ、ネーティブ言語で歌う大きな意味があるだろう。

たかはしさん

下降形で2点Dから発声を始めたが、非常に綺麗な声が出ていた。
その後、いつもどおり低音から上向5度スケールでイの母音、そしてアの母音で高音まで上がったが、2点Aくらいまではほとんど言うことがないくらい綺麗にまとまった響きが出せている。
彼女はそれほど強い声、ではないが女性的で綺麗なソプラノの声である。
出来れば、後2音、3点Cくらいまで、今の2点Aくらいの響きで安定して出せれば完成形といっても良いだろう。それは彼女の声としては、という意味である。

曲はヘンデルのジュリアス・シーザーのアリア「嵐の海で難破した小舟は」から。
かなり綺麗にまとまって、ほぼ完成形に近い。
声の処理も無理がなく、良い意味でコンパクトに端正にまとめて歌えるようになった。
後は、数小節にまたがるメリスマでブレスがきつい場所のブレスポイントを素早く確実にして、フレー時終わりの声の処理に破綻のないようにすることが確実になれば言うことがない。

ただ、アリア最後のパートのそれも最後に出てくる中低音で出る同度の打音が力むと息漏れが強いのが、興ざめである。ミソソソソソソソ、という具合。
後々思ったのは、すべての音を均等に出そうとしないで、1拍目の高いミと2拍目のソの強拍だけを打って、後は軽くしておけば、リズムに緩みが出ないから良いのではないだろうか?

ヘンデルのアリアというのは、非常に器楽的な要素が強いので、初心者の声の器楽的な扱いの練習にはうってつけだと思う。
次回はVezzi lusingheをもってきてほしい。
まさに「可愛らしさ、お色気、それに艶やかさが」というタイトル!打ってつけではないか?

最後に前回に引き続き、プッチーニ「ボエーム」からMusettaの有名なアリアQuando m’emvo
これが、意外と言っては失礼だが、彼女の声にとても合っている。
強い声というのではないが、リリックで美しいイメージ。
今日は、基本テンポの確認とテンポの緩急の確認をした。
テンポに緩急が大きいのは、Musettaの思わせぶりでコケットなキャラクターを表しているから、そのことの意味を良く考えたうえでの、緩急を良く考えて欲しい。
ただ、書いてあるからその通りやるのではないこと。

惜しむらくは最高音の2点hが後一歩の感。
特に最後の最後の高音。上に昇るほど広がるイメージを大切に。

みねむらさん

下降形から始めてみた。
低音から母音イで1オクターブだけ上がり下がりしてから
Nin(ニン)とLi(リ)で1点F~2点Fくらいを上がり下がり、細くピッチを高く当てるように練習をした。
彼女は2点Cが一番苦手な音だが、苦手というのは抜けてしまうということ。
抜けてしまうポイントは、喉を開かないでむしろ閉めるような意識を持つことだろう。
そしていつもやるように、響きを鼻腔に通すように、あるいは上顎から上の部分で前に持っていくようにすること。
そして、この領域の響きのままで中低音も処理するようにした方が、中低音のピッチも良くなる。

総合的なことだが、彼女の声の場合、いろいろな未解決要素があって
何を一番優先させるのか?ということが難しいのだが、今言えることは
中低音~中高音のピッチを良くして発声、発音できること、ではないだろうか?
それが最優先なので、曲がメゾ用であれ、ソプラノ用であれ、そういうことはあまり関係ない。

彼女の場合、何か声楽のイメージがあったようで、そのイメージが
基本的な中音部~中高音の声のピッチや声質をおかしなものにしてしまっていた、と思われる。
それは身体を使った声の響き、とか、声量とか、ではないだろうか。
グレートなイメージに比べると、ピッチと声質にこだわった発声は小さなイメージだが彼女の場合、今はこれにこだわってほしい。
声量を出すことと、このピッチは矛盾することになるが、一遍に一つのことは解決しないだろう。

今日はトスティのPour un baiserを。
2点Cの響きがやはり♭になり勝ち。
BaiserのEの母音は狭母音である。
少しでも開いてしまうと、響きが落ちてしまうし、スカスカになる。
イの母音から作って決めることと、鼻腔に入れる意識を持つことである。
後は、Dieuなどの二重母音系の発音はいつも注意する所である。
しかし、トスティはやはりイタリア語で歌うべきだろう。その方が
トスティの歌の良さが出ると思う。

後はヴァッカイの「ロメオとジュリエット」
こちらは声のことそのものよりも、フレーズの扱い、言葉のイメージの実際的な扱い。
感情的な要素で作るよりも、テクニックとして捉えた方が歌いやすいだろう。

難しいことは抜きにして、感情的な言葉、例えばVieniと繰り返し言う
言葉の子音の扱いがのろのろしてしまうのは、イメージとかけ離れてしまう。
それから、フレーズの頭の響きが何か弱い感じになるのも、音楽やドラマとは何かかけ離れている印象になる。

意志の強さ、感情の激しさ、というのは音楽、旋律を歌うときにどういう形になって顕しか?を考えてみて欲しい。
感情が強いフレーズの扱いは、のんびりしないと思うのであるが、もしのんびりしたイメージを与えてしまうとすれば、なぜだろうか?
自分が思っている何倍もの強い起伏を実質的にフレーズの扱いと歌詞の処理の扱いをもっと工夫して出して欲しい。

最後に、ラ・ジョコンダの「女の声、それとも天使の声でしょうか」
メゾのアリアだそうだが、今の彼女の持っている要素を一番良く表現できる曲だと思った。
そういう意味でベストチョイス!
そういう意味で、「ロメオとジュリエット」との違いを考えてみて欲しい。
声の扱いはニュートラルに、明るく響きを高く。
こういう中音域のピッチが厳しいフレーズは狭母音、例えばリリリで歌ってピッチを決め手から歌詞にして歌ってみると、彼女の場合良いだろう。