今日は伴奏合わせなしで、レッスンのみ。
発声を中音域から高音域に限定してやってみた。
彼女の中音域は確かにすかすかしているが、やはり振動していない感触である。
2点Eあたりから少しずつ振動する様を見せて、2点Fを過ぎると急速に合ってくる。
理論的には声帯の振動の状態なので、声帯が合いにくい、あるいは振動しにくい状態になっているのだろう。
1点A~2点Eの5度くらいの音域をどうやって少しでも振動させるか?ということに尽きるだろう。

指導側の感覚的な判断だけど、彼女の中音域は鼻腔共鳴が足りない印象がある。
ハミングを強く前にしっかりと出す練習を少し継続してやってみたい。
後は中音域の口の開け方、すなわち喉の開き具合、あるいは深さ具合を調節出来るようになりたいところ。
これらの問題は口の開け方、上あごから頬、あるいは唇などのちょっとした使い方でかなり変わる傾向がある。
彼女がそれらの今までやってこなかったこと、意識しないでいたことを、今後どこまで受け入れてやって行けるかだろう。

普通は中低音だと喉を掘る傾向が強いのだが、彼女の場合高音~極高音域の声のポジションが口を余り開かない、閉じた発声で出来上がっているため、そのポジションのまま中低音に移行してしまう傾向が強いために喉の開き、深さがほとんど感じられない。
この喉側と鼻腔側のバランスを付けるために口の開き方や頬の使い方、などの筋肉の動きが必要になってくる。
もちろん、これを無理に段差のある方法でやってしまうと、声に段差が付きやすいので注意が必要だが。
以上の二点を地道に続けてみたい。

ともあれ、本番目前なので、声のことはおいておいて、合わせをそれぞれ2回ずつ位やってみた。
今日は高音の調子が抜群だった。
彼女は音楽的には融通の効くタイプらしく、伴奏の持って行き方でかなり調子が違うのではないかな?
と思った。
今回、とても難しい曲をやるが、クオリティの高い演奏をするためには、もう少し伴奏合わせをやってみたかったな、という思いが残る。
伴奏者も初めての方だし、時間も限られているのでこれはないものねだりであることは承知の上である。

今後はその辺りも充分練習してやっていければ、相当高水準の演奏レベルになれるだろう。
とにかく24日は大変楽しみである。
健闘を祈っている。

おおぜきさん

今日は急速に良くなっていた。
前回、ちょっとどうかな~?と心配な面があったが、今日は高音も良く出て、今までで最高の出来だった。
声というのは不思議なもので、発声だと上手く行くが、歌うと駄目ということもあるし、発声だと上手く行かないが
歌うと上手く行く、ということがある。
今日の彼女は後者の方であった。

高音、といってもたかだ2点Gなのだが、彼女の場合ここがネックだ。
何をどうやってもここから喉を絞めてしまって、発声では手こずっている。
ところが、今日歌ってみるとあら不思議、綺麗にリラックスして、出てしまった。

発声でこねくり回しても良い結果が出ないタイプなのだろう。
それも大いに結構なのだ。
その分、歌いたい曲を歌うというモチヴェーションが声を育てるのであれば、それでやって行けば良いだろう。
下手に発声をこねくりまわして、かえって良くない結果を出すこともある。

ベッリーニMalinconiaは前回に指摘したテンポと歌の関係がとても改善されて、安心して聞ける音楽になった。
ピアノが勝ちすぎて、歌がまごまご追いていく、という風情だったが、それがなくなった。
高音も綺麗に出ている。
自信を持って本番に臨んで欲しい。

また、チェスティのIntorno all’idol mioも、まずテンポ設定は良くなった。
そのためか、本人の歌う情熱が素直に音楽に出るようになった。
なるべくリタルダンドする部分をはっきり出して、音楽の表現につなげられればベストの演奏だろう。

友人フリッツSon pochi fioriは、2回目の合わせで最高の出来。
最後の高音2点Gが驚くほどリラックスして、喉の開いた高音が出せていた。
これは今まで初めて効いた彼女の高音の声だった。
母音エがかえって良い結果を招いているかもしれないが、歌の力だろう。
前半最後の盛り上がりの部分は、ピアノに指示して、ブレスの間合いを大切にしてもらい、こちらもブレスの間合いを大切にして
高音をはっきりしっかり響かせることを大切にしてもらった。
出だしのレシタティーヴォも大分はっきりしたが、更にはっきりと語ることを忘れないで欲しい。
今日のレッスンの彼女の歌を聴いて、本番がとても楽しみになった。
最高の出来を祈っている。

ふじいさん

彼女も今日のレッスンの出来が今まで最高だった。
彼女は当初か細くて、ポジションがとても高く、中音域を歌うのがやっとの声であったが、この数ヶ月のレッスンで見違えるようになった。
その上シンプルとはいえ、プーランクの晩年の歌曲集7曲を歌うのだから、大したものである。
フランス語も良く分かるし、声も必要にして充分。

一番、変わったなと思うのは発声練習で中低音か、おずおずとした風情が影を潜めて、きちんと声が出るようになってきている。
試みに、今日は高音を3点Cまで出したが、難なくパスした。
高音も良く上の方に伸びる声質を持っている。
今後高音も伸ばして行きたいものだ。

プーランクの歌曲「当たりくじ」は、先ず一曲目の入り、声の具合がとても良かった。
以前はここがスカスカして、何を歌っているのかが、良く分からなくなっていた。
2曲目は出だしの響きがやはりスカスカしてしまう。
当たらない母音のせいもあるだろうし、力むと余計当たり難い。
イの母音から類推した響きを出せると上手く行くだろう。
だが、テンポ感、音楽は良い。
3曲目も大分低音がしっかりしてきた。重心が浮つかないように。
4曲目は彼女らしさというのか表現が上手くはまった歌になった。
とても良い。
5曲目も落ち着いて出来ている。
6曲目も上手く対処できてほとんど問題ない。
7曲目の後半、高音に昇辺りから、声がやや上ずり気味になり、そのまま最後の低音も上ずってしまう。
ここは注意が必要。

全体にみると、意外と言っては失礼だがアップテンポの明るい曲のほうがうまく処理できている。
バラードタイプは低音がやや上ずり気味なので、それが惜しい。
また明るい曲でも低音は、すかっと開いてしまい勝ちなので、発音時に口を開けないで、ぴちっと合わせられると上手くいくだろう。

暗譜が非常にしっかりしていて、危なげない演奏になっている。
声のことは細かく言えば一朝一夕に行かないから、あまり気にしすぎても仕方がない。
中低音で特に顎を前に出さないように気をつけることだろうか。
ピアニストさんも上手くプーランクの音楽を処理してくれているので、完全にプーランクの歌曲集の面白さが表現出来そうで、本番がとても楽しみである。

いそがいさん

軽く発声をしてから、早速伴奏合わせに入った。
取り合えず通してみたが、時として伴奏を呼吸が合わないことがあった。
初めての伴奏者、ということもあるだろう。
その辺りも勉強のうち、である。

今回の「女の愛と生涯」は4番~7番の4曲。
4番は歌いだしが良かったのだが、自分で歌い進めなくなってきてしまった。
ややピアノのテンポに依存してしまっている点なきにしもあらず。
気にせずに自分のテンポを通して積極的に歌えば、問題はないと思う。
途中の区切り部分のピアノのリタルダンドは彼女のブレスの問題もあるので、あえて外してもらうことにした。
5番もブレスが細切れに入ってしまう点をのぞけば、特段、問題らしいものは感じない。
6曲目の節の変わり目の八分音符の刻みに伴奏形が変わるところは、ピアノを気にせずにさっさと歌い進めば良い。
7曲目は、譜面を見ればリズムに小さな間違いがないので安心できる。特に出だしのフレーズ終わりの付点4分音符か休符があるか?

声そのものはまったく心配がないのだが、彼女特有のブレスがあるのと、譜読みのディテールに難が出る可能性があるので
結局譜面を見て歌うことにした。

ピアニストさんは背筋のしゃんとした姿勢の良い音楽を奏でるので、シューマンなどを弾いてもらうととても好感が持てる。
右手の歌い方、左手のベース音の処理の仕方はなかなか感心した。手が大きいというのは得なのかなと思った。
ただ、そのことが歌手さんのブレス感覚(声楽的能力、キャパシティ)と時として折り合いが付かない面があるように思えた。
歌手さんが伴奏の違う音楽に即応するには、まだ時間がかかるところだったのだろう。

歌曲などはアリアより声楽的に優しいと思われがちだが、それは大きな間違い。
演奏というのは、どちらをやるにしてもピアノ伴奏でコンサートを演る限り、音楽を作り上げるという意味において
ピアニストの音楽的センスや技術的能力に依存する割合がものすごく大きい。
なぜなら、音楽の根幹のセンスや技術はそうそう教えられるものではないからである。
その意味で歌手がいつも主役なのではなく、歌手がピアニストから教えてもらわなければならないことが実は多々あるはずである。

あまり難しいことなく、普通の、というか、悪く言えばよっこいしょ、というブレスと短めのフレーズ感で処理した方が
歌手さんは歌いやすそうなので、そういう悪く言えばお手軽な音楽に決めてしまった方が結局良いのだろうか。
個人的にはこの音楽に思いいれはあるが、歌うものの生理、技術との折り合いは付けなければいけないだろう。
何とかもう一回伴奏合わせを見たいところである。