今日は彼女のご希望で発声をやらずに、曲を歌うことで始めた。
最初はシューベルト、An die musik
良い声で歌えていた。
ややテンポが重いので確認。
彼女の声とブレスから4分音符=80くらいか。
軽いアンダンテが彼女の今の声には良いだろう。

ウの発音が浅いというかはっきりしないので、もっと深く、オに近いように。
この曲の高音2点Fisは無理のない綺麗な良い声が出ていた。
出来ればもう少し下の2点C~E辺りの声も、ビブラートのない素直に当った声が出れば良いのにな~と思う。

次にSeligkeit、これは前回タイトルをレッスンノートに書こうとして失念した曲。
個人的には大好きなワルツの3拍子で、民謡風の有節歌曲だ。
これも綺麗にレガートに歌えていて嫌味がないが、もう少し歌詞、言葉の扱いが目立った方がよりそれらしくなると思う。
言葉の強調、あるいは元気があったりなかったり、あるいは母音による響きの違いがむしろはっきり出た方が良いと思う。

声のせいで、すべての母音響きが統一が取れている、といえば取れているのだが、その分平板で面白みに欠けるかもしれない。
間違いなく発声の関係もあるが、それはクラシックの場合、一般的に致し方ない面ではある。
その上で、それでも母音の形の違いを彼女の場合もっとはっきり意識した方が良いだろう。
それは響きを変える、という意識ではなく口を柔軟に対処する方法も覚えた方が良いということ。

最後にトスティのTormento
6拍子を2つにとって流れを大切に。
やや一つ一つの音符をユックリ歌う印象。
最初はそれでも良いが、少なくともAnimatoになったら、情熱的にどんどん進んで行くように歌うべきだろう。
声としては中高音域のイとエがどうしても割れてしまうのが、一番問題だと思う。
そしてこのことが、彼女の発声の根本的な問題と関係がありそうなので、なおのこと難しい。

彼女の声は中低音域で鼻腔の響きがとても良く出ているのだが、それを実行するがあまりに、喉を完全に閉じているという印象がある。
そのため、胸側の低い響きの要素がまったく感じられなく、そのために響きがぺかぺかした平板な印象が残る。
せっかく良い鼻腔の響きが出来ているわけで、これは日本人離れしていて良いから、後もうすこし喉が開いた発声を覚えられると良いだろう。
そうすることで、これまた日本人離れした、厚みと豊かな響きに満ちた声になると思う。
そういう素質を持っているのである。

胸側を意識して、喉をもう少しリラックスさせて響かせる意識を中低音で持って欲しい。
高音は、それが出来たらそのまま上がって自然にチェンジすればこれまた自然に良い高音が出ると思う。
高音発声のテクニックは、今はほとんど関係ない、というか、それ以前の中低音域をやり直して欲しいと思う。

彼女の喉はどちらかというとやや重めなのに、無理やりレッジェロで細いソプラノ目指して作った、という印象がある。
そのため、喉がきちんと使いきれずに、悲鳴を上げている印象がある。
もっと大らかに、声域の特質ばかりを追わないで、自然な持ち声、喉を存分に使う発声を覚えることで、いろいろなことが解決できる気がする。
後は、本人がそうしたい、と思うか思わないか、だろう。
様子を見ながら、無理なくレッスンを続けて行きたい。

すぎたさん

発声練習は低めの1点Gから下降形で始めた。
いつもそうだが、発声のやり始めは低音が良く出る。
しかし、一度高音まで上って降りると、こんどは低音がスカスカになる。
この辺りに、彼女の中低音の響きの問題、あるいは発声の問題があるのではないだろうか。

逆に言えばチェンジがはっきりしているから、低音域(といっても地声ではないが)ははっきり意識して、声をチェンジする意識は持ったほうが良いだろう。

その代わり、高音域は今度はスカスカの高音か、太い当った高音かの2種類にはっきり分かれるのが難しいところ。
どうも、喉が締まってしまうのが原因だ。
彼女はどうも唇から顎にかけて硬い要素があり、唇が極端に使えないため、口を開けない高音の発声が難しいところ。
口を大きく開けざるを得ないので、勢い締まってしまう。
口を開けないほうが中は開く可能性が大きい。これは高音の話。

口を開けるよりもむしろ口を丸く尖らせるよう突き出すようにしてみると、少なくとも2点bくらいまでは良い結果が出そうである。
それより上は無理だが、この方法はこれからやってみたい。

曲はパミーナのアリアから。
前回に比べリズムは定着し、きっちり歌えるようになった。
気をつけるべきは、細かい発声よりも曲のイメージで、声を抑制してしまうこと。
抑制しないで、はっきり大きく歌った方が良い。
その方が声の問題は軽減されるだろう。
一箇所、リズムがはっきりしない所に注意。

リゴレットCaro nomeは、もうひたすら高音の練習に終止した。
出せば出る、というものでもないが、これは練習しないことにはやりようがない。

3点C以上の声は出るのだが、すべて音程をなめてしまい、♭になる。
要するに喉を閉めてひたすら当った声を出してしまっているので、これは音程が出そうもない。
私も1オクターブ下だが一緒に出していたら、出ないと思った2点Cis~Dまでファルセットで出た。
若い頃は2点Eまで出ていたので当然だが、このところの練習のせいだろうか?
閑話休題。
息の流れ、方向を明快に感じられるように発声できるはずである。
そのためにも、唇を良く突き出して、息に流速と方向性を付けて発声することを覚えて欲しい。
口を突き出すと喉は下がるので、タイミングが合うと上手く高音がはまるし、喉に負担がないと思う。

まあ、大変だけどやると決めたからにはやれるだけ、やっておけば良いと思う。
ただし、同じ練習を続けて喉を壊さないように、くれぐれも注意して欲しい。