彼女は学校で先生をやったこともあるそうだ。
それで、ステージでもそれなりの表現力の出し方、集中の仕方を心得ている、というわけで納得。
実に素朴なレベルで、人前でのプレゼンの何がしかが役に立っているのだろう。
声楽、といえどもステージ芸なので、プレゼンと同質な部分がある。

発声は中低音を中心にした。
ブレスの度に顔を動かさないことで、喉の状態を変えないように。
逆に言えば、ブレスの仕方を工夫して、喉の状態を変えないでブレスが出来るように。

曲はグノーのOu voulez vous allezから。
一通り歌ってみたが、長大な有節歌曲で、フランス語初心者には勧めたくない。
フランス語を覚えるだけで、大変な労力がかかる割には、声楽的なテーマに乏しい。
即ち、彼女には音域が低いしその割りに言葉が多いので労多く得るものが少ない。
それでグノーならということでChanson de VeniseとPrintempsを奨めた。

後はモーツアルトのPorgi amorを練習。
基本的なところでは、声は良く出るようになった。
後は、中高音域のレガートな歌唱を学んで欲しい。

どうも彼女は2点F以上になると、口を開きすぎて、響きが前に出すぎて生っぽくなることを注意。
口先をすぼめて縦にして、響きを前に出さずにそのまま頭部か、目の方に向けるくらいにすると、良い響きになる。
そういう高音にすることで、下からの旋律の形が滑らかになるだろう。
旋律の歌いまわしは滑らかであることを大切に。

最後に以前持ってきた、連隊の娘からconvien partirをやってみた。
以前は口先の声で高音を歌うだけだった気がしたので、やめにした。
低音がまるで響かなかったのだが、このところ低音が響きが出てきて
バランスが良くなったのである。
この辺りもレパートリーは増えそうである。

はなむらさん

彼女はなかなか努力家だなと実感。
いかにもやってます、という風情がない割りに実は良く研究していて、いつも何がしかのことをトライして、自分の物にしよう、していくぞ、という姿勢がはっきりある。それでこそ上達するのだ。

発声練習をする声も、明快にレッジェロなソプラノの声になっている。
いわゆるリリコ系、ドラマティック系ではない。
軽くて透明感のあるソプラノを目指して欲しい。

気をつけて欲しいのは、透明感とか軽さをイメージするせいか、高音域になると口を横に開くこと。
高音域、2点F以上になったら、口を横に引かないことで声帯にわずか隙間が出来て息と混ざった響きが出来るために
響きの共鳴が生まれやすくなる。
声そのものを出す意識ではなく、声の響きとわずかに混ざった息を利用することで、鼻腔や頭部の共鳴を使った響きが出来る。

勘違いしないで欲しいのは、意識して息を混ぜないように、ということ。
息そのものを意識してしまうと、息漏れのある声になって、途端にブレスがコントロール出来なくなる。
この辺は次回にまた詳しくやってみたい。

曲はジャンニスキッキから私のお父さん。
前述の軽い声を目指すために、この曲では高音の2点Aは、口をあまり開けすぎないでおくことで
逆に中の開いた声、共鳴のある声を目指したい。

次にサンサーンスのアヴェマリアを練習。
これは譜読みに留まった。
実はこれとてもフランス的な宗教曲で、とても良い選択だ。
上達して欲しい。

Ombra mai fuは、ややもすると力で押す声のほうがはったりが効くが、彼女には優しい女性らしいこの歌を期待したい。
出だしのOmbraのところは、声を抑えないで思い切り行ったほうがブレスが伸びるだろう。
最後の高音Soave piuのところは、張った声にするよりも、共鳴のある高い柔らかい響きの方が彼女には良いだろう。
この辺も研究と練習の余地があると思う。

みねむらさん

先日の本番は、かなり上がってしまったようだ。
昼の部を聴いているうちに上がったらしい。
自分は、人のを聞くとプレッシャーを感じるので、一切聴かないようにしている。
特に同性の歌は聴かない。
楽屋の放送のスイッチも切るくらいである。

まあ、楽しみでやっているから、気にしなくて良いけど、彼女の場合はステージで上がってしまったら
とにかく声を出す方向だけはしゃにむに探し出して、しがみついて欲しい。
声が出てくることで、自分自身が声によって鼓舞されるのである。
声と言うのは単純なもので、おそるおそるやっていると、どんどんスパイラルにはまり込んでしまう。

今日の発声練習で指示したことは、ともかく当てた声で2点F以上まで昇ること。
当てた声の場合、音程が出にくいから、その分を軟口蓋を良く上げること。
そのための口の開け方を充分持つこと。
これだけである。
2点Cから上のチェンジを徹底的になくす方向の声を身に付けて行く事。
チェンジすることそのものが悪いのではなく、チェンジしても胸声くの響きが最終的に自然にミックスしてくれるだろう、と思う。

多分彼女は喉が締まる意識があるだろうけど、これは喉頭を動かさないということを、締まる、と感じるのだろう。
あるいは胸声くの響きを強く出すために、締まる意識もあるかもしれないが、私が聴いている限りでは問題はない。
むしろ締まるのを嫌がって、喉頭をフリーにしてしまうことが、声がひっくり返る原因だと考える。

最終的にこの発声から少しずつ声帯を開いて息を混ぜて、共鳴を覚えて行けば良いと思う。
最初から共鳴でやろうとすると、どうしてもチェンジの強い声なので喉頭がブラブラになってしまうのを避けたいのである。

曲はショーソンのLe charmeから。
音域は低いので、声の問題はさほど感じない。
指定されたテンポの緩急を良く出して、このマスネー風のロマンティシズムを良く表して欲しい。

ベッリーニのMa rendi pur contentoは、これも全篇声を抑えないで、出す方向で練習して欲しい。
良く声帯を使って充分響かせて行く事で、声は開発されるだろう。
それだけである。

最後にAdriana lecouvreurからIo sono l’umile ancellaを練習。
高音は2点Aだから今日の発声はきついが、頑張って欲しい。
徹底して中を広げてしっかり突き抜けるように出すこと。
中途半端にすると、必ず音程が♭になるから、思い切って中を開けて高く発声することである。