TK

今日も声は好調であった。
発声もいつも通りに2点Dから下降形で上に昇っていくのが声の調子を出すようだ。
2点G以上も開母音でなら2点b以上まで締まらないで発声できる。

声馴らし程度に軽く発声をして、早速曲を歌ってもらった。
バッハのカンターター1番のNo3のアリア、から。
2点D~Fくらいが少し締まるので、喉が上がらないように、発音も口の開け具合に気を付けてもらうと、非常に良い太さの中高音の響きになった。
非常に良い響きで、あたかもイングリッシュ・ホルンかオーボエか?というような独特だがバロック的な響きで、彼女のユニークが光っている。

次のBWV21からNo3のアリア。2点Aから1点Dまで音程差の激しい曲だが、以前に比べて高音が締まらずに良い響きになってきた。確実な進歩だ!
高音域を締めないための子音の処理が難しい。

高音の子音は母音で発声するアタックの場所から出すように。
それは軟口蓋のはずだから、たとえばSeufzerの語頭のZならば、舌先をかなり後ろに曲げて使うべきだろう。それを口先と顎で発音しようとするから、発声が犠牲になってしまうのである。

この曲は静かでゆったりした悲しみに満ちた曲なので、なおのこと子音の処理は神経を使わされるだろう。
ドイツ語発音で大切な閉母音の子音の処理、タイミングに気をつけて欲しい。
それから子音のTも気息的な響きなので、強すぎず弱すぎず、美しい子音処理を心がけて欲しい。

後はBWV57のNo3のアリアを譜読み。
これは特異な音楽で、バッハの現代性をいやでも感じさせるものだ。
どこかブリューゲルの絵のようで、シュールな雰囲気が現代に通じるものを感じさせる。
この曲を仕上げる過程が非常に楽しみである。

TT

発声練習は下降形で2点Dから始めたのだけど、2点bまで軽く綺麗に滑らかに出せている。
また上向形で上がれば2点b~3点Cくらいの高音域が、以前に比べるとスムーズに自然に出せるようになってきている。

やはり良い意味でレッジェロだな~という印象。
素直な位に声の表情が変わるタイプなので、歌詞の読み込みや表現を気をつけると思わぬ表情のある歌が歌えると思う。

ただ、その表情が全体に硬い、というかまだまだ声を出すことの緊張が感じられる。
声を出そう、発声しよう、という意図が強いのだろう。
もちろん声は出すし、力も入れるが、もっとリラックスして7分目くらいの力量で声を出す意図を持ってみることも良いと思う。
そのことが、更に声の響きを冷静に追求することに繋がるだろう。

特に出しやすい2点E~G辺りは、注意。力みすぎないで常に響きを冷静に判断して出すことに腐心して欲しい。
そして、中低音は響きが下がらないようにすることと、響きを高く集めることが大切であろう。

歌声は感情的な問題が声に反映されるし、それが表情になるから、発声も大切だが内容を大切に歌うことも更に留意して欲しい所である。
意図的に内容を伝えよう、という意志がはっきりしているかいないか?
だけでも、声自体までが違ってくる。当然歌詞のディクションもそれで変わるだろうし、必然的に音楽が変わるだろう。
勿論、声の基礎的な発声が出来ていての上での話しだが。

ソルフェージュだが、コンコーネならレッスン時に初見で歌うくらいのことをやれば、コツを教えられるし勉強になるのではないだろうか?
たとえば現代物やドビュッシー、ラヴェルなどの近代ものの譜面づらが細かいものなどは、ソルフェージュの基礎的なものは
身に着いていたほうが譜読みは早いと思うのだが。。。

曲は前回始めたモーツアルトのオペラIl re pastoreから。「おぉ!神よ」
今回は見事に最後まで良く譜読みが出来ていた。
一部リズムに不安があったが、さほど問題ではない。
何より高音が非常に安定してきていることが収穫であった。
声は押さないで、常に美しく大切に扱って歌えること、を目標にして欲しい。

そして最後にヴェルディ「運命の力」からPaceを。
この曲も言いたいことは、彼女のレッジェロな声を活かして、彼女自身の声とそのキャパシティの中で最善の表現をして欲しいということ。常に自分の出せる美しい響きの中の8割、を考えていた方が良いと思う。

SM

発声は安定してきた。高音域も前回教えたように、入りで力まず深くせずに、上に昇るほど開いて行くのが出来ていて2点G以上の声が締まらなくなって綺麗になりつつある。
中音域は、声を出そうとすると深くなるが、そこを深くしないで上顎で歌うと、軽いが音程が良いので、結局ピアノ伴奏には埋もれない声になったと思う。
それでも中低音の声にもう少し支えが欲しいが、当面は今の発声で慣れて欲しいところである。

喉を深くしないと支えが出ないのは、喉頭がぐらぐらしているからで、姿勢が大切だろう。
顎を良く引いて、首でしっかり支える姿勢が出来ていれば、中低音は上顎から上だけで歌っても、支えのある声になるはず、である。

デュパルクのChason tristeから。
声が良くなってきたので発音を細かく見た。
特に狭母音が広すぎて、いわゆる口で擬似的に深い発声になってしまう。
口先をすぼめて下あごで発声しないようにしよう。
顎を開いた方が一見楽に歌えそうだが、そうやって歌う限り中低音の響きは鼻腔共鳴が開発されないだろう。
それから
中低音域全体に、ピッチが低くこもるから、これは全体的にいえる事である。

ドビュッシーのNuit d’etoileは、音域的に良いので中低音が気にならないが、発音はやはり大切に。
書いてある発音通りにすることは、一応基本として練習して欲しい。
特に5線の中の音域は大切に。

最後にマスネのエロディアードから、サロメのアリア。
2回目だが早くも難しさが!
実はこれ旋律的にはとても地味で、粋な伴奏があるのでその上で語られる中低音域の旋律が生きてくる、という典型的なフランス風である。これを完璧に歌いこなすには、美しいフランス語のディクションと語り口、ピッチの正確な中低音がとても大切である。
フランス語のディクションは先ず置くとしても、中低音のピッチ、リズム感はとても大切である。

MM

このところの練習が功を奏して、こちらの意図したことが彼女の声に上手く反映されるようになった。
特にモーツアルトを練習してから、本当にまるで別物の声に変わりつつある。2点Cから上の声が、頭声と胸声が上手くミックスしているが、頭声の成分は強くなり、音程が良くなって細くしなやかになってきた。
声と言うのは不思議で音楽に必要な声が導き出されるのではないだろうか?

彼女がたとえばラヴェルのドン・キホーテを歌いたい、好きだ、と言う気持ちはわかるが、
好きな曲が彼女に良いかどうか?ということは別だと思う。

特に声の確立していない初心者が、そういうことをすると、人によってはその性別を判断しかねる、妙な声が出来てしまうかもしれないという危惧の念はある。

結果的に下の声区の響きは、なるべく上に合わせることが今は大切なことであろうと思っている。

発声練習で2点Dから下降形で上り下りの練習も良かった。
細く当って綺麗な音程、綺麗な響きが2点C以上の声でも出せていた。
まだ2点Aくらいでは喉が上がってしまい勝ちだが、ちょっとした当て所の意識と口などの使い方で、ぎりぎりの良い響きは出せそうである。後はこれも訓練と慣れだろう。これから少しずつ高音を伸ばして行きたい。

今日はモーツアルトCosi fan tutteからドラベラのアリアで始めたが、これが現時点ではほとんど声のことを言うまでも無い
くらいに、綺麗に歌えた。必然的にこの曲のキャラクターが活きて来る。
よしよし!その調子!という具合。

この手の曲では、なるべく下の声は上の声の響きを崩さない、落とさないと言うことだけ腐心すべきであろう。

それで最後にオペレッタ「坑夫長」のアリエッタ。
これがまたとても良かった。
声は気にしないで歌っていたようだが、ドラベラのアリアで中高音の処理がしなやかに扱えたことが、結果的に
少し低めの太い声になっても活きていて、しなやかな歌声であった。
何より、3拍子の好きな彼女の歌の伴奏を弾いていたら、こちらの伴奏が完全に唄にアンサンブルしていることが感じられた。
この声を聴くと、やはり高い声区の開発は結果的に低い音域にも活きるのだな、と改めて発見であった。