声楽の発声法とは、声を楽器のように扱うこと、といえば話は簡単ですが、それがなかなか
簡単には行きません。

では、完璧な楽器とはなんでしょう?

鋼の声帯、息漏れのない声、呼気と声帯の完璧な振動が産み出す、比類ない声量と広い声域、ということにでしょうか。その声は、オーケストラと丁々発止、渡り合うことも出来ます。
これがオペラ歌手、という声楽家としては最上の姿といえるのでしょう。
声楽に憧れる人は、そういう声に憧れることが多いのでしょうし、そのような声になるために夢と望みを持つことは素晴らしいことだと思います。

しかし、努力すれば誰にでも手に入るか?と言われれば、答えはNoです。

人の声、喉は千差万別です。
そして人の声はその声を持つ人の人となり、という属性から離れられません。

しかし、それぞれの人に合った発声を見つけることは、比較的容易に出来ます。

何よりも大切なことは、歌いたい!伝えたい歌を、人に伝えられる合理的で現実的な技量を持って
少しでも多く歌う機会を持つことだと思っています。

一生、発声ばかりやっていても、良いコンサートを持てなければ意味がないですし、レパートリーがなければ意味がないでしょう。

私が指導で大切にしたいことは、発声の理想を追い求めることだけに終始するのではなく、それぞれの人の出来る範囲での発声の向上と共に、少しでも素晴らしい声楽曲を人様に聞いてもらえるような歌手を育てることです。

素晴らしいオペラアリアも良いですが、小さな歌曲には珠玉の作品が無尽蔵にあります。
そういう作品は概して多くの人に知られていないことが多いのです。

特にアマチュアで声楽を楽しみたい人たちには、このような人知れず野に咲く美しい小さな花のような作品をぜひ歌ってもらいたいと思っています。
そういう声楽家たちを育てること、増やすことが、もしかしたら私の出来る仕事なのかな?
と最近は思っています。