MT

シューベルトの「冬の旅」から「おやすみ」は、前回よりテンポが少し速めで、歌も前回よりは少しドライな感じでした。
そのせいか、2曲目の10番「休息」は、心の痛みがもう少し伝わらない演奏になりました。
最初の通しから一番バランスが良かったのが、3曲目に歌った「春の夢」でした。

歌は前回も書きましたが、自分の世界を持っていて、歌詞をよく理解して歌っている表現力のある演奏になっていると思いました。
その意味では、言うべきことはありません。

弱声の使い方も練れています。ただ、全体に声の響きと言う面で弱いので、ホールの容積が大きくなると、音楽が伝わりにくいと思います。声のパフォーマンスを今後どう伸ばしていくか?という課題は今後も残ります。

1曲目は伴奏の8分音符の刻みのせいで、速くなってしまうのです。
弾いている時点よりも、弾いて行く音楽のずっと先まで見通して、弾き出すイメージを大切にすると良いと思いました。

それは、右手に出てくるモチーフの弾き方も関係あるでしょう。
右手のモチーフの歌い込みが足りないかんじです。

歌も含めてですが、楽譜に書いてあるない、関わらず、音楽としてのこの長丁場の曲を、どう飽きさせずに聞かせるか?
単なる理想論ではなく、演奏の現実的な問題として、音楽の作りを積極的に考えても良いのではないか?
と聴きながら思っていました。
こういう、内面的なことを歌う歌曲は、やはり言葉の壁が大きいと思うのです。

「休息」は、結局当初のテンポに戻して正解でした。
ただ、歌い方は前回と変わって、非常に真っすぐで、良意味でニュアンスのない表現になったことが大きいです。
後半の激するところは、ピアノも一緒に激して良い所でしょう。
ピアノがあまり遠慮しなくてよいです。

「春の夢」は、全体にバランスの良い歌に仕上がっていました。
後半、歌が突然激してくるところは、ピアノももっと感情を表現して良いでしょう。
お互いにその点を意識してぶつかって音楽の火花を散らしてください。

WH

ベッリーニの「ああ幾たびか」プッチーニの「ドレッタの夢」
2曲とも良い仕上がりだと思いました。

ベッリーニは、レシタティーヴォを丁寧にきちっと処理出来ています。
本人は、こわごわと、と思っているようですが、実はそれが良いのです。
恣意的に表現しているつもり、の演奏が一番良くありません。
丁寧に、素直に、描いてあることを確実に伝える演奏を目指して下さい。
高音の処理も無理なく破綻がなく、滑らかになっていますし、前回指摘した、メリスマの下降部分が素早く
滑らかに処理出来るようになっていました。

アリアもほとんど良く仕上がりました。
最後、カデンツのメロディーでタイでつながる部分は、ブレスがきついですが、
もう少し伸ばしが聴くと、感情がメロディの形に表現されていることが判って面白いです。

この曲は、高音発声で大向こうを唸らせるというスタイルではなく、レシタティーヴォとアリアによる
全体的な雰囲気を作り上げることで決まるアリアだと思います。
声を含めた音楽を、丁寧に、必要なことをかっちり作り上げよう、というコンセプトが結実したと思います。

「ドレッタの夢」は一度取り上げたことがあり、今回の本番で2回目になります。
前回はとにかく頑張って歌い通した、という印象が強いですが、今回は余裕があります。
前半は語り口調が感じられるようになりましたし、最高音の発声には伸びが感じられるようになりました。

課題はPPの声でしょう。軟口蓋がもっと使えるようになると、口を開けすぎないで、PPの声の響きを
鼻腔に入れて、綺麗なPPになると思います。

HA

軽く発声練習をして、最後の伴奏合わせとなりました。

イタリア歌曲の「たとえつれなくても」は、きれいに丁寧に歌えていますが、いまいちインパクトに欠ける歌です。
伴奏と共に、もう少し直截な感情をぶつけても良いのでは?ということを、楽譜に書いていある通りにやることで
出す、という方向性を示しました。
楽譜に書いてあることでも、なかなか思ったようには出来ない物ですが、何もしないより、ずっといいです。
学校の試験を受けるわけではなく、この曲で何かを訴えることを目的とするわけですから。

モーツアルト「薬屋の歌」は、これも細かい声のことよりも、パフォーマンスを大切にしてもらいました。
自宅の大きなぬいぐるみをマゼットに見立てて、演技まがいに歌ってもらいました。
歌は言葉ですから、言葉が誰に向けられていて、どんな感情なのか?自分の中で明快にすることがとても大切です。
単に振付をどうこうすることよりも、どんな感情で問いかけるのか?自分に向かって言っているのか?相手を見て言っているのか?
という違いを感じることも大きいでしょう。

演技は歌も含めてですが、基本は他人がどう見ているか?ではなくて、自分がどう感じているか?から始まると思います。
それがなければ、声が聞こえるかどうか?とか、言葉が明快かどうか?とか、そういうことは

Ave Mariaは、出だしの声に工夫を以て対処してください。
伴奏のアルペジオの低音の音を良く聴いて、そこから音を拾うようにです。
声の出し始めも、お腹のみぞおちあたりから、糸で釣ったおもりを、そのおもりが揺れないように、
丁寧に、しかし素早く引き上げるようなイメージで声を出し始めると、声のポジションが決まります。

AC

今日は本番前最後のレッスンで、伴奏合わせでした。
伴奏がいるので、落ち着いて彼女の歌をじっくり観察をし、また指導出来ました。

結果的には、ずいぶんと良いところまで到達しました。
練習したことは、軟口蓋を良く上げて、その状態を維持するような口の開け方を意識して
発音・発声して歌うことです。

文字にするとこれだけのことですが、これを実行するために、私も一緒に歌いながら練習して
なかなか大変でした。
口を開けるといっても、ただ開けるだけではなくて、口奥ののどちんこのぶら下がっている、
軟口蓋の部分を上げるようにするために開けるわけです。

そして歌詞発音をそのためにする、といっても過言ではないくらい。

1曲目のリディアは、最初のLiを発音する時点で、それが出来ていないといけません。
ブレスで意識することです。
普通の日本語の意識と違います。

そして、当たり前ですが、そうやって出る声が、良く響いた声であるかどうか?が最も大事なことです。
それが出来れば、成功です。

低音の声は、この軟口蓋が上がった上から出し始める感覚を大切にしてください。

そして、高音に昇るほど、軟口蓋が上がるような意識を以て発音してください。
必然的に狭母音は開母音化するはずです。

気をつけてほしいことは、軟口蓋を上げようとすれば、結果的に下顎も下りる感覚が正しい感覚です。
下顎が下がらないとすれば、それは喉の奥に力を入れているだけです。
実際に、声を聞くと、細く締まった声になるでしょう。

以上の点を気を付けて、フォーレの「リディア」「夢のあとに」とアーンの「5月」を練習しました。
特に「5月」は、音域の跳躍幅が広いので、高音に上がるほど軟口蓋を開いていくように、発音の拡げ方、
口の開け方に注意してください。
そして、低音も喉で押すのではなく、軟口蓋から出す感覚を忘れずに。

YC

レッスン前に練習をしてきたとのことで、高音発声は、音程も響きも良かったのですが、
低音がスカスカした声になっていて、高音発声をかなりやったのかな?と想像されました。
結果的には良く歌えているのですが、高音発声の影響を受けるということは、真の意味での中低音発声が未確立と言えます。

中低音の発声は、彼女の場合は、鼻腔共鳴を良く練習して使えるようになるのが早道でしょう。
それは、軟口蓋を使えるテクニックを覚えることです。
高音発声の声帯の使い方は、女性の場合は覚えるのが速いケースも多々ありますが、意外と
中低音発声の鼻腔共鳴の響きは、出来ない人が多いです。
これがきちっと出来ると、良く通る中低音の声になり、喉の負担も少ないです。

ロッシーニの「約束」テンポの設定がピアニストの伴奏が少し早目だったのが、最後まで
アンサンブルが合わず、最終的に少しゆっくり目にしました。
この曲は、色々な表現が出来ますが、私としては、テンションの高さよりも、優雅で大陸的な雰囲気を重視したいと思います。
特に問題はないですが、中音域のPPの声は、前述の鼻腔共鳴の発声と共に、将来への課題です。

「マゼッタのワルツ」は、楽譜指示のテンポ変化の出し方や、最後の高音の伸ばし具合と、終わり方などを
かなり徹底して煮詰めました。
ピアノとのアンサンブルが、意外と難しいものになるからです。
最後の高音は良く伸ばしたいのですが、終わりに短くぽつんと入れる歌詞の、入れるタイミングがピアノと
合いにくいので、その点を練習しました。

あとは、AllargandoからA tempoやRitなどのテンポの緩急のつけ具合を
指示どおりにすることが、この歌の特徴なので、その点を良く出すことです。

公衆に向かっているのか、独り言で言ってるのか?そういう違いを良くわきまえて、
使い分けると、大変面白く、またチャーミングなアリアになると思います。