昨年の発表会以来だったが、とても調子が良かった。
特に何が良くなったというよりも、声を出す勢い、元気、明るさなど
体調も精神も何か好転しているかのようだった。

歌う姿勢を見ていると、身体の重心に気を配っているのが良く分かるのだが、それがために少し上半身が硬いのではないかな。
片足立ちに近い立ち方で重心を軸足に決め、上半身は余計なことをせずにリラックスする、という立ち方の方がむしろ身体全体の重心は低く落ち着くのではないか。

一番良い立ち方は、上半身がぐらぐらせずにどっしりと動かないで歌える姿勢である。
低い声は胸に楽に響かせて、高くなって着たら徐々に響きを鼻腔から前に通すように。
そうやって、ハミングでもイの母音でも、良く響く、芯のある声が出るようになったら成功である。
ちょっとくらい高いからといって、怖がって後ろに引かないで、前に通すようにしっかり歌って欲しい。

曲はDimmi amor から。
これが、実に彼女には当り!で非常に良い成果を最初から見せてくれた。
まずブレスが良く持つこと、高音が非常に気持ちの良いすかっとした出方をした。

何度か修飾音符の付け方など練習をしたくらいで、ほとんど今の段階では良い。
最後に「ガンジスに陽は昇る」を歌ったが、こちらも実に爽快にテンポ良く歌えていた。

何か、以前のまごまごしていた印象がすっかりなくなって、爽やかに明快に歌えるようになったのが進歩である。
高音もまだ2点Gくらいだけども、非常に芯のあるしっかりした声になってきたのである。
新たにモーツアルトの歌曲をさらってみることにした。
彼女の声よりも、歌に変化が出てくることを望んでのことである。

かさいさん

今日は発声をした後、モーツアルトのスザンナGiunse alfin il momentoを練習した。
以前から、この曲はやってあったが、声の響きが今ひとつモーツアルト的にならないのと高音が逃げてしまって、弱かったことが懸案だった。
この曲がちゃんと歌えれば、私も安心して彼女の渡欧を見送ることが出来るのだ!
そうでないと何だか心残りなのである。。

結論から言うと、今までの蓄積があるのでちょっと発声を見ると大分良くなるようであった。
高音域は伸びていて、むしろ中音域で喉で押してしまうので、潜ってしまう。
喉を楽に、明るく高く発声することを特に中低音では気をつけて欲しい。
ただし、お腹はしっかりと使ってほしい。

顎を前に出さないように姿勢に気を付けて。
高音は下顎を降ろして力まないで、むしろ下顎を降ろさないで頭に突き刺すように。
そのために、お腹を使うこと。
ということは、彼女の場合は、やはり中低音域から下顎を降ろした発声よりも、頭部で響かせる発声を心がけることである。

今日は指をくわえて歌いとおしてみた。
頬を上げて響きを高く明るく意識して欲しい。
特に中低音でそれを気をつけてほしい。
そうすれば高音は自然に良い響きになるはずである。

彼女としては、この曲の発声に良い感触を得たので、次回もこれを続けたい。

いとうさん

今日が初めて。
声楽教室に3年ほど通っていたことと、学生時代に合唱に入っていたとのこと。
ただ、それほど熱心でいわゆる「ヲタ」というほどのことでもないらしい。

実際に声を聴いてみたのだが、典型的な合唱の声で綺麗に歌うのだが、いかにせんスカスカの細い声であった。
いわゆる「喉を使わないように歌う」声である。

母音を狭くしたり、ハミングをしたり、指をくわえて歌ってみたり、ためつすがめつやってみたが一種の癖である、下顎で構える発声をするために、喉が開きすぎてすかすかになってしまう。
喉の開きを下顎だけでやるために、軟口蓋を上げる方がまったく働かずに、そのために高音も出し難いし、響きも出てこない、という状況になってしまっていた。

二つのことがあるが、まず下顎を使わない発声をすることで、自然に軟口蓋を働かせるようにすること。
そのために、顎を前に出さない姿勢は大切である。指をくわえて練習することも必要だろう。
そして同時に、開きすぎている喉を矯正するために、少々乱暴だが喉を意識して歌うことである。

要するに理屈ぬきで声帯を合わせる感覚を身に付けることである。
今日はそれなりに1時間やったが、彼女は真摯に就いてきてくれたので、最後には大分声に当りがついてきた。
身体も喉もあるほうだし、声が当たってくれば、美しい落ち着いたメゾ傾向の声が出るはずである。

しばらくはイタリア古典の中声用で、声の基本的なことを見て行きたい。

おおぜきさん

何かハミングをし過ぎて鼻声になった、と言っていたが本当にそうだとしたらちょっと問題である。
恐らく同じ練習のし過ぎなのかもしれない。
練習は、自己流になると万が一間違ったことをやると、喉に悪影響が出るのでくれぐれも注意が必要である。

それにしても彼女の中低音は実に美しい、というか味がある。
これは理屈ではなく彼女の持つキャラクターと喉の為せる技である。
だから歌は止められない、というか歌は素晴らしい、と思う。

それにしても、高音は少し喉が上がり気味で潰れてしまうのが惜しい。
今からそれほど高音を伸ばすことを考えるよりも、普通の歌曲で良いから2点G~Aくらいまでは、喉があまり上がらないで共鳴のある良い響きを確立して欲しい。

スタッカートは高く行くほど胸を意識して、とか、声を前にとか、声を上からかぶせるようになど、色々やったが、一番効果的なのは、単に声を出す方向を明快に前に持っていくことのようである。
発音の際に、口を縦に、そして響きを前に意識してみるだけで大分違うようである。
今日のレッスンでもトスティのSegretoとIlpescatore canta両方ともに高音がしっかりして出せていた。

しかし中低音はとても良い声が出ているので、頼もしい。
特にIl pescatore cantaは非常に味のある歌を歌ってくれた。
土臭いローカルな匂いのする歌が歌えるということは素晴らしいと思う。
こういうキャラクターは貴重だから、選曲も大切になるだろう。
次回はIntorno all’idol mioに挑戦してみることにした。
とりあえず中声用でやってみて良ければ高声用でも練習してみたい。

わきくろまるさん

まあともかく今の彼女は声に勢いがある。
どんどん声が出てくるので教える方も面白い。
彼女なりに何か力のかけ方のコツがつかめたようで、声量のある響きが2点bまで発声で出せるので多少の細かいことはあまり言いたくない気持ちである。

それよりも、歌になったとき、ちょっとしたことだが2点F以上で高音が逃げてしまう。
それは、発声よりも顕著になる。
口の開け方一つでかなり違うので、実践して欲しい。

要するに口を横開きにしてしまうので、声帯は合うのだが喉が上がってしまい潰れた響きになってしまう。

両手を使って両頬を挟むようにして、高音を出してもらったら共鳴の出る明らかに「響き」という状態が、2点Aでも出せた。
これは、今日の収穫であった。

後は、譜読みではリズムを理論的に、細かく砕いて良く理解すること。
やり方は、以前にも教えたと思う。
楽譜など読めなくても音楽を聴いただけで身体で理解出来るのであれば良いのだが美空ひばりくらい天才ならともかく、普通の人、特に大人はそれは無理である。

ビート(拍)を手で数えて、旋律をその上に乗せる事は、きちっとやってほしい。
その際に大事なことは、先ず最初はゆっくりから初めて細かい単位にしてみること。

今日はベッリーニのMalinconiaをやったが、修飾音符もあるのでリズムと言葉の割り振りも気をつけて、まずはテンポを少しゆっくりにして、落ち着いて練習を続けてほしい。